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タフ・ラック  作者: 侍夕一
序章
9/12

Lucky duel

唐突に、転生者三人組はドロシーに連れ出されて、エレベーターに乗っていた。

ゴウンゴウンという稼働音はかなりうるさかったが、軋んだりする音は皆無で、まともな造りなのだろうという印象を受ける。


「あの〜、どこへ向かってるんですか?」


珍しく女子高生が口を開いた。

何も知らされず連れ出されたのだから当然の疑問だ。

デュエルをするのだと知らないのだから……いや、知ってても意味わからんな。


「闘技場デス!記念すべき戦闘訓練の初回デスネ!キバッテイコー!」


「戦闘訓練?今日は休みになったんじゃねえのか?」

今度はレンが尋ねる。


「そういえば言ってませんでしたネ!

Abeliaさんが唄う魔物をどうにかする間、ワタシがアナタガタの戦闘訓練を担当シマス!

所謂ダイコウコウシダヨ!

ヨロシクネ!」


どうにかする?けど唄う魔物はさっき目の前で…

その疑問を投げかける間もなく、エレベーターが止まった。目的の階に着いたらしい。

ドロシーに連れられてぞろぞろと闘技場に足を踏み入れると、奇妙な点に気がついた。

灯りとなるようなものが一つも見当たらないのだ。なのに、辺りはハッキリと見回せるほど明るい。

俺の顔を見て、ドロシーが笑う。


「フフ、不思議デショ?

ワタシとルナサン、あとアベリアサンの監督の下、あらゆる天候、場所を再現できる魔法陣を張り巡らせてアリマス。

今は"晴天、闘技場"。イチバン一般的なヤツデスネ!

さて、では始めマスカ。デュエルを。」


「せんせー、デュエルってなんですか」


「Mr.リト、センセイはデュエルじゃアリマセンヨ〜」


「そんな事言ってないんだけど」


「デュエル、文字通り決闘デス!

ミナサン、ワタシとタイマンハレヤゴラァ!」


「もしかして素がヤンキーなの?」


「全く話が見えないんだけど、何でそんな事するんですか?」

女子高生が尋ねる。


「モチロン、戦力調査デス!

これからファイトを覚えてモライマスカラ、アナタタチの現状をシリタイ、そしてアナタタチにもシッテホシイノデス!」


ドロシーは唐突な展開に困惑する俺たちを見回し、腕を組んでうんうんと頷いた。


「ワカリマスヨ。ワタシも転生者デスユエ。

いきなりオシロに連れてこられて、戦えダナンテ、戸惑ってトウゼンデス。

ケド、どうせまだ右も左も分からん状態なんデスカラ、一度委ねてクダサイ。

それが最終的に元の世界に戻る事に繋がりますから。」


「「「今なんて!?」」」


「フフフ、キニナルデショ?教えてアゲマス。ワタシに勝ったらネ!」


ドロシーはやにわに腰から剣を抜いた。

彼女の得物は鞘の形状から想像したものよりだいぶ細かった。

レイピア?というやつだろうか。

しかし、武器としての機能を疑うレベルの細さだ。競技フェンシングでよく見るアレと同じくらいの強度に見える。

ドロシーはその細い剣で俺の脇腹に突きを入れてきた。

それを受け流して後ろに飛びのき、距離を取る。


「Oh!咄嗟にしてはすごくいい反応ネ!」


「突きが一番対応しやすいからな。」


近くで見て思ったが、殺傷能力が高いとは思えない。

直接の殺傷が目的でないなら、実戦用ではない、もしくは毒だろうか?


「ちょっと待てよ!まだ順番とか決めてねえだろ!」


レンがドロシーの追撃を避けつつ怒鳴る。

女子高生を後ろにかばいつつかなりの猛攻を凌いでいる。

素人の動きじゃない。やっぱり堅気じゃないんだろうな…


「アマイデス!戦いはいつだって突然デス!何をしてクルカ分からない敵ト、その場にある物ゼンブヲ使ってタタカウ、コレはそういうテストデス!

全員纏めてかかって来い!」


「あんたさっきタイマンとか言ってたじゃん…」


「What? I don't understand Japanese.」


白々しい顔をしながら、ドロシーがたわわな双丘の間に手を突っ込む。


「!…何のつもりか知らねえが、戦闘中に片手を塞ぐとは素人丸出し!

悪いが組み敷いて終わりだ!」


レンは、片手が塞がる事で緩くなったレイピアの猛攻の間を縫って間を詰め、ドロシーの両腕を掴む。

そのまま押し倒すと思いきや、水風船が割れる音を何十倍にもしたような破裂音と共に、数メートルも吹っ飛ばされて動かなくなった。

ドロシーの方は数歩よろめき、呻き声をあげた。


「カハ、グゥ……ゲホッ!

…フフ、二人ともイイデスネ。

臨戦態勢になるのも、ゲホッ!

…隙を突くのも素早い。そして思考と…ゥ…行動のラグが短い。

只者じゃないってやつですね。」


「カタコト忘れてんぞ」


「…リトさん、君のような勘のいい…」


「そういうのいいって」


俺は深く屈み、ダッシュでドロシーに突っ込んだ。

さっき何をしたのか俺には見えなかったが、ドロシー本人もダメージを受けていたように見えた。

…連発はできないのでは?

とにかく今は呼吸を整えられる前に突っ込み、さっきの攻撃を再び打とうとするか観察する。


「突っ込んできますか、何も分からないから連発できない方に賭けると?ガッカリですよ…」


ドロシーがもう一度谷間に手を突っ込む。もう避けきれない距離と勢いだ。

…何も策がなければ、だが。

ギリギリのタイミングで、走り出すときに手に取っていた闘技場の砂をドロシーの顔面に投げつける。

そのままドロシーの横を走り抜けつつ、背を向けた状態で体を丸め、頭と首を腕で覆い簡易的な対ショック姿勢をとる。

これならさっきの攻撃を食らっても、ギリギリ動けるはずだ。

遠距離攻撃の手段などないのだから、あの攻撃を無視してドロシーを倒すのは不可能だ。

リスクを背負ってでも正体を掴む必要がある。


そのまま無事にドロシーの横をすり抜けた。破裂音もしていない。

やはり連発は出来ない、という事だろうか?

レイピアでの攻撃もしてこなかったという事は、レイピアを持っている方の腕で目潰しを防いだ、もしくは目潰しが功を奏したかのどちらかだ。

しかし目潰しを防いだのなら、ドロシーにとって今の一瞬は攻撃のチャンスだったはずだ。

例の攻撃をしなかったという事は、二回目に胸に手を突っ込んだ事は俺を警戒させて距離を詰めさせない為のブラフ。

実際は連発出来ないという事だ。

どちらにせよ。


足を踏ん張って方向転換し、ドロシーの方を振り返る。


「今しかない。」


「そう…ゴホ、今しかないデス!」


ドロシーは、目をしっかりと開いて俺を見ていた。

右腕は谷間に突っ込んだままで、レイピアを持つ左腕から砂粒がパラパラと落ちている。

目潰しは防がれたか。

この距離ではレイピアの方が有利だ。

そういう意味ではドロシーにとってもチャンスなわけだ。

だが。俺は刺突なら躱せる。

斬撃もあの細さなら一撃くらいなら再起不能のダメージにはならない。軽く引っ掻いた程度の傷で済む。

毒だとしてもまさかいきなり致死性のものは使わないだろうし、麻痺毒なら食らったとしても効き始める前にドロシーを押し倒せる。

青信号だ。このまま突っ込む。


「ウッ!…近寄らないでクダサイ!」


俺が走り出すと、ドロシーは一歩後ろに跳んだ。

ここで引かれると、追いかけたときレイピアの間合いに入り続ける事になるので厄介。の筈だが、ドロシーは呼吸が整っていない。

こちらが距離を詰める方が早く、迎撃は続かない。

故に依然青信号だ。

そう、判断を下した瞬間。


「…さくらんぼ?」


目の前に、さくらんぼの形をした水風船がある。

ドロシーに目をやると、右手が自由になっているのが見えた。

そしてたわわだった双丘が萎んでいる。それでもなかなかのサイズだが。

なるほど、谷間に手を突っ込んだのは例の攻撃じゃなく、偽乳に扮して隠し持っていたこれを取り出して投げつける為。

防御しようとしたが、間に合わなかった。

猛烈な破裂音と共に吹っ飛ばされ、意識を失った。

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