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タフ・ラック  作者: 侍夕一
序章
8/12

Lucky reject

部屋に戻っても、ベッドに寝転ぶ気にはならなかった。

もう悪夢の恐怖からは醒めていたが、今日このベッドでぐっすり眠れる気がしない。


それと、一つ気がかりなことがある。あの女子高生だ。

高校生は子供ではないが大人でもない。

たとえ大人でも、異郷の地にいきなり飛ばされて戻れる保証も全くない、なんて状況には中々耐えられるものではない。

おまけに同じ境遇の人間はヤンキーと盗撮魔だけだ。


「……うーーーん」


力になってやりたいが、俺の信用度は0どころかマイナスだろう。

好感度は恐らく「顔も見たくない、生理的に無理、気持ち悪い」だ。

…とはいえ放ってはおけない。

廊下に出て、恐る恐る向かいの部屋のドアをノックした。


「た、たのもー。」


やばい、第一声からミスった。

たのもーって何だよ。

俺が焦っていると、怪訝な顔をしたJKが出てくる。

ノックの主が俺だと分かると、あからさまに嫌そうな顔に変わった。


「…なんですか?」


「電車の中での事は本当にごめんなさい!

信じられないと思うけど、あれは悪い偶然が重なった結果なんです。

それと…この訳の分からない事に巻き込んだのも俺に責任があります。

本当に申し訳ありません。」


「…ハッキリ言って信じられませんし、言い訳を聞く気もありません。

盗撮とか今更どうでもいいです。

顔も見たくないです。生理的に無理です。気持ち悪いです。」


「ビンゴ!」


「…は?」


「あ、ごめん、つい…忘れて下さい。」


「はぁ…もういいですか?

全く忙しくはないですけど、あなたとは話したくないので。」


「あっ、待って!これで最後なので!

…ありがとうございました。」


「…は?」


「ホームから飛び降りたとき、俺を助けようとしてくれましたよね?

自分を危険に晒してまで、盗撮魔だと思われていた俺を。」


「あぁ……はい。どういたしまして。

……まさか本当に、わざとじゃなかったんですか?」


「…え?……あ!はい!

誓って盗撮なんてしてないです。」


「じゃあなんでシャッター音が鳴ったんですか?」


俺は嘘のような本当の経緯を説明した。


「…信じ難いですけど、あなたは盗撮なんてする人じゃなさそうですね。

…疑ってすみませんでした。」


「いや、あの状況なら誰でも疑いますよ!

むしろ信じてくれてありがとうございます。」


「敬語じゃなくていいですよ。跡部って呼び捨ててもらって良いですし。

私の方が年下なんですから。二十歳くらいですよね?えっと。」


「あ…うん。筑波嶺 俐与でs…だ。

今年で22になる。よろしく。」


「そうですか。名前と年は控えました。震えて眠って下さい。」


「…え?」


「もっとマシな嘘があるだろうに、たかが高校生の無知な女なんて簡単に騙せるって思ったんですね。

本当男ってゴミ虫。

元の世界に戻っても絶対逃しませんから。」


「いや、違う!本当に…」


「今度こそさよなら。」


目の前でバタンと音を立ててドアが閉まる。

やはりダメか。


「…何かあれば言ってほしい。出来る限り力になる。」


一応ドア越しにそう呼びかけたが、返答はなかった。


「じゃあ死んで下さい」


うん、返答はなかった。きっと幻聴だ。


そうだ、レンの部屋に行ってみよう。

あいつなら俺よりは信用があるはずだから、彼女の力になってあげられるかもしれない。

…それに、今自分の部屋に一人でいたら俺多分泣いちゃう。


レンの部屋に行こうと振り返ると、妙な事が起きていた。

扉が増えているのだ。

俺の部屋、レンの部屋。

そしてその間に、もう一つ扉があった。

最初からあったが疲労のあまり気付かなかった、という事は絶対ない。

何故なら、一度見たら忘れようがないような扉だからだ。


まず色がおかしい。この城のデザインにそぐわず、真っピンクなのだ。

そして、デコってある。

雪だるまや傘、雲や太陽など、天気にまつわるデザインの装飾がいくつも打ち付けてあるのだ。


極め付けに、ドアの真ん中に釘が打ち付けてあって、こんな看板が下がっている。


「Dorothy is here!!!:)」


英語だ。昨日のルナの話を思い出す。

『未だに王宮に寝泊まりしてる方が居ますよ。近いうち会う事になると思います。』

この扉の主で、まず間違いなさそうだ。

今朝見た血文字も英語だったが、関係あるのだろうか?


唐突に、扉が勢い良く開いた。


「HEY!

コニチワーハジメマシテヨロシク〜。

パツキンセクシーgirl!ドロシーちゃんデス!

ビックリシタ!?」


異世界なのに、アメリカンな服装のブロンド巨乳が出てきた。

しかも物騒な事に腰から剣を下げている。


「…どうも、筑波嶺 俐与です。」


「Oh! レイセイなreactionネ!New face!

ところでンどォいうことだァオラァ!?」


「ヒッ、情緒がおかしい、こわい」


「テメェ新顔のくせに先輩のあたしに挨拶に来ねえとか舐めてんのかオラァ!」


「レンとキャラが被ってる…

あと日本語ペラペラじゃん」


「あ、忘れてた。

HEY!New face! Fuck!」


「シャンクス、語彙力が…ッ!!」


「シャラーーップ!

もうワンピの続き読めない事思い出したネ!原辰徳!」


「古っ!てか絶対日本に住んでただろあんた!」


「Nooooo!

ワタシはBBBなんだからカタコトキャラ以外あり得ないネ!日本語ペラペラじゃ存在価値がnothing!」


「卑屈すぎない?あとBBBって何だ」


「Blond Big Boobs(ブロンド巨乳)の略ネ!

BBBはanimeだと絶対カタコトネ…

ワタシanimeの住人になりたいデスユエ…」


「思ったより下品だったし拗らせてた…」


「ワタシの日本語skill、知られた以上生かしておけないネ…かくなる上は…」


ドロシーがわざとらしく腰に手を当て、こちらを指差す。


「デュエル!」


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