第3話 Lucky tutorial
俺を黙らせると、美少年が口を開く。
「まずは自己紹介させて頂く。私の名はロディ・ド・ヴィンゲルム。ヴィンゲルム王国の第一王子にして国王代理だ。」
少年は上品な所作で礼をすると、再び口を開いた。
「ではとりあえず、君達が一番聞きたいであろう事から話していこう。よくある質問ってやつだ。どうやって君達がここにいるか、そしてこれからどうなるのか、だ。
我々は、君達を外敵に対抗する兵士として喚び寄せた。
ここで言う外敵とは魔王とその配下の事だ。」
「何を勝手に…」
青年が懲りずにまた口を挟む。だが今回はロディ王子は何もしなかった。
「勝手?とんでもない、むしろ君たちは感謝するべきだ。」
ロディ王子が合図をすると、二人の魔道士が前に出て来て、片方が話し始めた。フードで顔は見えない。状況を考えれば絶対に初対面だが、奇妙な事にやけに馴染みのある男の声だった。
「この世には無数の独立した世界が存在する。我々は魔法を用いて、こことは違う世界から貴方達を呼び出した。
しかし、次元を超えて何かを引き寄せるのは簡単なことではない。
実力のある魔道士十数名、そして他にもいくつか条件がある。」
魔道士の片割れは口を閉じ、もう一人の魔道士がこれまた最近聞いた気がする女の声で続ける。
「その条件の一つが、呼び出す対象の"存在の強さ"が弱まっている事。つまり、死んだ瞬間、または死ぬ直前であることです。死と生の狭間の曖昧な存在でないと、因果の乱れによる抵抗力が非常に強くなります。」
「要するに、だ」
ロディ王子が口を開く。
「君達は元の世界では死んでいて、我々が放っておけば二度と青空を拝むこともなかったのだよ。それが君達が感謝すべき理由だ。」
反社の青年は絶句していた。俺ですら、死の際から異世界に喚び出された事は予想していた、どころか「そうであって欲しい」とすら思っていたが、実際に自分が「死」の一歩手前だったと告げられるとやはり気分が良いものではない。
俺達の動揺を「見慣れたことだ」といった様子で無視し、ロディ王子は再び口を開く。
「ではこの世界について説明しよう。我らがヴィンゲルム王国に隣接する国家は二つ。北西のリンシュタッド共和国、南のスベイリブスの森だ。東側にはインゲス海、西側には魔境が広がっている。
魔境には先程話に出した魔王の配下、魔物が所狭しとひしめいている。王国の西側を覆い尽くす国内最大の砦、エトルス砦がなければ我々は今頃食い散らかされているだろう。魔物とは何か、については残念ながら我々にもよく分からない。分かるのは強靭で危険な生物である事と、我々の魔法がほとんど効かない事だけ。そこで君達の出番というわけだ。」
「つまり体のいい鉄砲玉か?」
「とんでもない、君達は捨て駒ではなく最重要戦力だ。魔物に我々の魔法は効かない、と言ったね。だが君達の魔法は通じる。転移者の魔法は我々より強力なのだ。
そういう訳で、君達には戦力になってもらう。勿論タダとは言わない。王国が君達の生活を保証するし、別途の報酬も支払う。」
王子は俺達に質問や反論をする権利は無い事を宣言するかのようにパン、と手を叩いた。
「私から話す事はこれくらいだ。しばらくはこの城で生活するといい。
君達専属の魔道士に部屋に案内させよう。まだまだ聞きたいことがあるだろうが、それは世話役の彼らに聞くといい。」
王子はそう言って、さっきの二人組の魔道士を指した。
魔道士がゆっくりとフードを取る。
フードの影から現れた顔は、俺の顔、そして隣で気絶している性悪女子高生の顔と全く同じだった。