第2話 Lucky rebirth
目が覚めて最初に思った事はよく覚えている。
(……死んでない)
いや、死んだ事に気付いていないだけかもしれない。ここはあの世かも。もしくは、まさかとは思うが……
期待に胸が膨らむ。これはアレなのでは。まてまて、俺の人生で期待通りにことが進んだ事なんてあったか?
壮大なドッキリか、白昼夢って可能性もある。
期待するな…期待するな……
ゆっくりと目を開ける。目に入ったのは澄み切った青色の空、そしてそこを飛び回る美しい女神や天使たち……の天井画だった。
体を起こして辺りを見渡す。うん、いかにも王城といった感じだ。いかにも魔道士といった感じの集団がいかにも召喚の儀式といった並び方で俺たちを囲んでいる。
そして、例のJKはすぐ隣にいた。俺の腕をガッチリ掴んだまま気絶している。
よかった。ここがあの世か、もしくは全て俺の妄想でないのならば、どうやら未来ある若者を死なせる結果にはならずに済んだようだ。あの幼女もあれだけ強く押し戻したのだ、まず間違いなく助かっただろう。それにしても…
「なんであんたまでいるんだよ!」
思わずツッこむと、例の反社の青年が、女子高生の腕を両手で掴んでポカンとしている。
「なんでって、んなこと俺も……ってかおい!ここどこだよ!?」
(話をスムーズに進めるお手本みたいなリアクションだな)
「もっともな疑問だ、勇者殿」
上品な声が響く。俺達を囲んでいた魔道士が統制の取れた動きで脇に掃けて跪くと、声の主が目に入る。
一瞬少女と見紛うほどの美少年だった。適度に筋肉質な体のラインがなければ、不気味なほど端正な顔立ちは彼が女性だという根拠になり得ただろう。
そして、装いの豪華さが彼が身分の高い人物であることを物語っていた。
(というか今「勇者」って言ったか?転生期待するぞ!期待していいんだな!)
美少年は玉座の前に俺達の方を向いて立っていた。
しかし玉座から立ち上がって俺達に話しかけた、という感じではなく、数歩離れたところに立っている。まるでそこに座るのは許されていないかのように。
「勇者?何言ってんだ!そうかなるほど、これが世に言うドッキリだな!悪いが俺は暇じゃねーんだ!責任者出せ!場合によっちゃ…」
急にまくしたてていた青年の声が詰まった。首でも締められたかのように不自然に。青年の方を見ると、苦しそうな様子はないが声が出ないようで、池の鯉のように口をパクパクと動かしている。
「生憎だが交渉の余地はないんだ。そして私以外に責任者などいない。今現在、この国で私より身分の高い存在は神々だけだ。」
美少年がサッと手を振ると、青年の唸るような息遣いが再び聞こえるようになった。
流石に懲りたのか、黙って得体の知れない相手を睨みつけている。
「混乱するのも無理はない。一つずつ説明させて頂く。黙って聞いていてもらおう。」
「ここは、君達からすると、別の次元、所謂異世界だ。」
勇者、王宮、魔法。望んでいた通りだ。不運続きの人生だったが、ここに来てようやく!報われたのだ!
「いよっしゃあああああああっ!
異世界キターーーーー…」
「うるさい。」
美少年が手を振り、俺の声が封じられた。