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タフ・ラック  作者: 侍夕一
序章
2/12

第1話 Lucky death

 JKにガッチリと左手首を(つか)まれて、電車を降りた。


 「あの、逃げないので、もう少しゆるく掴んでくれません?爪が食い込んでるので…」


 彼女が振り向く。


 「これからは手錠をつけて暮らすんだから、このくらい慣れておいた方がいいと思いません?」


 冗談じゃない!


 「スマホ!俺のスマホを見て貰えば分かります!架空請求(かくうせいきゅう)のメッセージが出て!シャッター音はそのせいなんです!」


 「…そんな苦しい言い訳が通ると思います?変態のくせに往生際悪いですね、死ねばいいのに。」


 何で聞いてくれないんだ!…って、状況を考えたら当然か……

クソ…惨めすぎて涙出てきた。


 「ホントなんです、掴んだままでいいので見てください!目の前で操作しますから!」


 「そう言って証拠を消すつもりでしょ?

…はあ、めんどくさい。」


 そういうと彼女は大きく息を吸って、叫んだ。


 「助けてーーーーーー!この人痴漢です!私脅されてまーーーーす!」


 このクソアマ〜〜〜〜!


 殆どの通行人は物珍しそうにこちらを見るばかりで近付いてはこないが、一人の青年がまっすぐ歩いてきて俺の二の腕をガッチリ掴んだ。


 「どうした、お嬢ちゃん。」


 異様にガタイがよく、首や手首には金色のアクセサリーがこれでもかとついている。見るからに反社の(かた)だった。


 「この人にスカートの中盗撮されました。逃げようとしてるので、一緒に駅の事務所まで連れて行ってください。」


 「い、いや、誤解なんです!スマホを見て貰えば納得してもらえます!」


 「へー、そうか。だったら今ここで見せてみろ。逃げようとしたり変な真似したらぶん殴るからな。それでいいか、お嬢ちゃん。」


 JKはめんどくさそうな顔をしていたが、渋々「ご自由にどうぞ」と言った。


 俺が震える手でスマホを開いてヤの方に見せようとした、その時だった。

視界の端に、線路側へと転がっていくガチャガチャの玉が映った。


 コロコロコロコロ…ポテ


 線路に落ちていった。そしてもっと最悪なものが見えた。それを追いかける女の子だ。3歳くらいだろうか。通勤ラッシュの時間帯だ。すぐに次の電車が来る。


 体は勝手に飛び出していた。横っ面に衝撃が走り、体勢が左に傾く。そういえば逃げたら殴るって言われてたな。勢いよく左腕から地面に「墜落」したが、構うものか。痛がってる暇なんてない。というか痛みを感じない。膝で地面を思いっきり押して立ち上がり、ノータイムで走り出す。変な感触だ。折れたかもしれない。

悲鳴が聞こえる。きっとあの子の母親だ。まったく、あんな小さい子から目を離すなよ。


 線路に下りて助け出す時間はない。落ちる前に助けなければ。もう電車が来てる。

視界が全てゆっくりに見える。俺の足、もっと速く走れ、なんでこんなに遅いんだ!

よし、もう手が届く。後ろから(えり)を掴んで引き戻す!


 しかし、同時に少女が足を踏み外し、俺の右手は空を切る。


 「畜生(ちくしょう)(あきら)めるかよ!」


 体を(ひね)り、左手で思いっきり少女の体を押し戻す。ほぼ平手打(ひらてう)ちのような(かたち)だ。


 痛いだろ、ごめんな。


 そして…そのまま俺の体は線路に落ちていく。


 あ、これじゃ俺が轢かれるじゃん。バカか。

まあいい。他にどうしようもなかったんだ。小さな子を見殺しにできないしな。

そういやさっきからやけに時間の流れが遅いと思ったんだよな。これが(うわさ)に聞く走馬灯か。はー、それにしても……


 「くそったれ、なんで俺ばっかり」


 逆さまに線路に落ちながら呟くと、俺の左手首がガッチリ掴まれた。あのJKだった。


 「バッ…」


 勢いのついた成人男性の体を、華奢(きゃしゃ)な女子高生が引き戻せるわけがない。当然二人揃って転落した。


 そして次の瞬間、とても目を開けていられないほど強い光に包まれた。最後に思った事はよく覚えている。


 (へー、死ぬ時ってこんなに明るいんだな。あ、これ電車のヘッドライトか。)

ちょっと改変しました。

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