第0話 Lucky train
「くそったれ、なんで俺ばっかり」
俺がそう呟くと同時に鉄の塊が突っ込んでくる。もうどうしようもないのは明らかだった………
事の発端は数分前に遡る。俺の名前は筑波嶺 俐与。事情により大学を中退し、就職活動に明け暮れているが、未だどの会社からもいい返事は貰えていない。つまり俺の現状はニートだ。
異世界転生してーな……
半ば現実逃避気味に漫画アプリを開いた。
今日の面接はいつにも増して酷かった。部屋に入ろうとドアノブをひねった途端、ノブが引っこ抜けた上、蝶番が外れてドアは向こう側に倒れた。おまけにドアのすぐ目の前には事もあろうに面接官の一人が立っていたのだ。
面接の感触?説明するまでもないだろう。
こういう事は昨日今日始まったのではない。生まれついての不運なのだ。傘を忘れた日は必ず雨が降るし、遅れられない用事の日に限って、重い荷物を持った老人や絡まれている女の子に出くわす。
そんなのはまだ優しい方で、雷に打たれかけたり、コンビニ強盗に遭遇したりといった、普通の人生では一度も出会わないレベルの不運に見舞われたことも何度かある。全く俺の前世はどんな大罪人だったのだろう。
異世界転生、俺にとっては憧れと夢の塊のような言葉だ。理由は二つある。一つは今の生活から逃れたいから。
もう一つは、彼らは幸運だからだ。うだつの上がらない人生におさらばし、チートを使って大活躍する。そして大抵美少女かエッチなお姉さんにモテる。俺と正反対だ。
「パシャッ!」
突然、シャッター音が鳴った。それも俺の手元から。
「え……」
思わず画面を見ると、「ご入会ありがとうございます。入会金の87630円が未納ですので、24時間以内に……」という文面が出ている。なるほど。ウィルスにかかったらしい。大方昨日見たエロサイトで変なリンクでも踏んだんだろう。踏んだ瞬間じゃなく後から架空請求のメッセージが出るタイプはPCでしか見た事ないけど……
流石にバツが悪いので、スマホをビジネスバッグにしまおうとした、その時だった。
「ガッタン」
電車が大きく揺れる。そして俺のスマホを持った左手は、無情にも目の前の女子高生のスカートの中に突っ込んでしまう。
「やっば!」
思わず口に出して、引き抜こうとした瞬間、彼女のスカートの中からシャッター音が。
もはやミラクルだな
一周回って危機感が薄れ、脱力してしまう。
やっと左手を引き抜き、周りの様子を伺うと、当然他の乗客の非難と軽蔑の視線に晒された。そして目の前の女子高生は、顔を真っ赤にしてスカートを押さえていた。それが恥じらいというより怒りのサインである事は、こっちを睨む気の強そうな目がありありと語っていた。
彼女がやっとの思いで生還を果たした左手を容赦なく掴む。
「一緒に来て下さい。」
うん、これは終わった。
「はい……」