スーツケースと幼馴染
「まーくんゲームしよう‼」
「あ、うん。それは別にいいんだけど……その着替え何処から持ってきた?」
咲夜はお泊り宣言をした後、一度も家に帰ってはおらず、当然着替えなども取りに帰ってはいない。にも関わらず風呂上がりの彼女は先程までの制服姿とは違って、パジャマ姿だったのだ。しかもいつも来ているものとは違う新品の。
「何言っているの? 私の着替えならいつも常備されているじゃん」
「いや、待て。その情報初耳なんだが!?」
「なんならまーくんの部屋の中にも私の下着とか置いてあるよ?」
「どこに!?」
当たりを見回す限りそれらしきものはない。自室に備えられているタンスの中には僕のモノ以外入っていないはずだし、だとすると一体どこに……。
「ほら、ここに」
「なんでベットの下にスーツケースがあるんだよ‼」
「だってここならじゃまにならないでしょう? ほら‼」
スーツケースの中には咲夜の着替えやら下着やらがびっしりと詰まっていて、軽く見積もっても一週間分はありそうだ。
しかもよく見たらコスプレ衣装も入っているし、下着の中にはかなり際どい物もある。酷い物なんてほぼ紐で、一体何の為につけるのか意味がわからない。そもそもの話咲夜はどこからこのようなものを用意してくるのか本当によくわからない。
「で、なんで僕の部屋にこんなものがあるんだ?」
「なんでって……そんなのまーくんの部屋にいつでもお泊りできるようにこうして準備しているからに決まっているでしょう‼」
「決まってないわ‼」
「ちなみにお義母さんから許可はきちんととっているから安心してね?」
「部屋の主の許可もとらんか馬鹿たれ。それにうちの母親の事をさらりとお義母さんとよぶな‼」
「えへへ……」
「ほめとらんわ‼」
「あう……‼ うう……いきなりデコピンするなんてひどいよ~」
「自業自得だ」
それにしたっていつの間にこんなものを…もってきたんだか。それに僕のエロ本は一体どこに……。
「あ、ちなみにまーくんの持ってたエッチな本たちだけど全部焼却処分したから」
「はははは……そうか……」
笑顔でそう言い退ける咲夜。何故だろう。いつもは天使に見える咲夜の顔が今は悪魔に見える。それに目から変な水が出て、一向に止まらない。全く持って不思議だなぁ……。はぁ……。
「まーくんにはああいうのいらないと思うの」
「なんでさ……」
「私がいるじゃない‼ まーくんの中にある迸るリビドーは全部私にぶつけてくれればいいんだよ‼」
「いや、それはちょっと……」
「なんで!? 私の事好きなんでしょう!? というかマジで引いたような反応止めて!?」
「引いている訳じゃないんだけど……」
僕はどうにも好きな人相手にはそう言った類の欲望を向けられないのだ。どうしてそうなのか自分でもよくわからない。それに今は猶更……。
「むぅ……何それ意味わかんない……」
「こればっかりは僕にもどうしようもないからな……」
どうやら咲夜は僕の説明に納得がいかないらしく、ご機嫌斜めなようだ。
「じゃあ何? まーくんは今ここで私が全裸になってもムラムラとかしないの?」
「多少はするかもしれないけどそんな事したら一生痴女って呼び続けるからね?」
「それは嫌。確かに私はまーくん限定で痴女だけどやっぱり名前で呼んで欲しい」
「痴女なのは認めるのね……」
最近咲夜の行動原理が先輩に似てきている気がする。前まであんなにお淑やかだったのに。どうしてこうなったんだろう……。これもすべて僕のせいなのだろうか?
先輩だって元はお淑やかな人だったわけだし、だとすると僕は女の子を変態にする才能でもあるのだろうか? そんなの絶対に嫌だなぁ……。関わった女の子が例外なく変態になるなんて、そんなの一種の呪いと変わらない。
「私は正直なだけだよ。人間誰しも正直が一番。内に何かを隠したり、他人に嘘をついたりするのはよくない事だからね」
「遠まわしに僕の事ディスってる?」
「さあ? どうだろうね?」
「おい。正直者ならその辺はっきり言ってよ」
「い~や」
「ケチ……」
「ケチで結構。それよりも早くゲームやろう?」
「わかったよ……ってまた膝の上乗ってるし……」
「ここが一番気持ちいいからね。しょうがないね」
「はぁ……」
僕としては膝の上にのられると動きにくくなるから勘弁して欲しいんだけど、きっとそんな事言っても咲夜はどいてはくれないのだろう。
「さあ今日は命一杯遊ぶぞ‼」
「おお……」
僕としてはあまりテンションは上がらないのだが、ここは一応やる気のある素振りだけは見せておこう。