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問答と幼馴染

「お帰りまーくん」

「……」


 咲夜はいつものように僕の部屋のベットの上でくつろいでいた。


「何かあった?」

「別に。何もないよ」


 もしここで僕が何かあったと言えば咲夜はきっと僕の事を慰めてくれるだろう。だって彼女は優しいから。僕が傷付いたと言えば僕の望む言葉を言い、望む事をしてくれるだろう。


 でもそれはダメだ。だってそれじゃあ惨めじゃないか。いつまでも女の子に甘えているだけなんて。そんなの男として情けない。それに僕は咲夜と対等でいたい。一方的に慰められる関係なんて望んではいない。


「嘘。絶対何かあったでしょう」

「何もないよ」

「……ふ~ん。私に嘘……つくんだ。ふ~ん」


 咲夜の目がスッと細められ、僕を疑うような視線で見てくる。


 きっと彼女の中で僕が嘘をついたというのはほぼ確信しているのだろう。実際嘘をついているのだからその事に関してとやかく言う気はない。それに今回の嘘は別に女の子に関する嘘ではなく、僕自身に関することの嘘だ。それならば彼女との約束に一切触れない。


「そんな怖い顔しないでよ。別に何も隠してないから」

「……まーくん。こっちきて」

「ええと……なんで?」

「……いいから」

「いや……」

「早く」


 咲夜はいつにもまして頑固で、ここで僕が断ったとしてもとてもじゃないが折れそうになかった。


「分かったよ……それで何?」

「えい‼」

「ちょ……いきなり何を……」


 咲夜は僕が近づくといきなりハグしてきた。一体彼女が何を思ってそうしてきたのかはわからないが、この感触はすごく落ち着く。それに柔らかくて、女の子特有のいい匂いもする。


「よしよし。頑張ったね~」

「僕は別に……」

「ううん。まーくんは頑張っているよ。本当に」

「咲夜……」

「まーくんはさ。どうしてそこまで人の為に頑張れるの? 自分の扱いはこんなに雑なのに」

「そんなことは……」

「あるよ。まーくんってさ。自分の評価低いでしょう?」

「……そんなことない」

「そうやってムキになっている時点で図星でしょう?」

「……僕としてはそんなつもりはない。僕は僕なりに自分なりに自分の事を大事に思ってる」

「まーくんは本当に()()()さんだね」


 嘘つき。咲夜に悪意はないのはわかっている。でもその言葉は思いのほか僕の胸に効いた。


「まーくんはもう少し人に甘えていいと思うよ?」

「いやいや。僕は既に多くの人に甘えてばかりだよ。だからもっと一人で解決できるようにならないと」

「そういうところが自己評価の低さに通じているんだよ」

「……咲夜?」

「いい? 人はとてもちっぽけな存在なの。一人でできることなんで限られているの。だから人って仲間を作るんじゃないの? 痛みや辛さを共に分かち合って、協力し合って、悩みを解決していく。そんな仲間を。私の考えどこか間違っている?」


 間違ってはいない。間違ってはいないはずなのに、僕の胸の内でもやもやとした感情が広がってその言葉をどうしても呑み込めずにいる。


「まーくんは私の事どう思ってるの?」

「咲夜の事……? そんなのとても大事で、かけがえのない存在だと思っているよ」

「あ、改めてそう言われると恥ずかしいなぁ……」

「それなら言わせないで欲しいな。こっちだっていうの恥ずかしいんだぞ?」

「ええ~もっと言ってよ~咲夜ちゃんは世界一可愛いとかさ~」

「咲夜は世界一可愛い」

「もっと感情を込めて‼」

「咲夜は世界一可愛い‼」


 自分は一体何をしているのだろう。


「よろしい……っとまあ雑談はこれくらいにして」

「雑談じゃなくて今のは咲夜の願望だろう?」

「そ、そうだよ‼ 悪い‼ 今日一日まーくんに放っておかれて私悲しかったんだからこれくらい許してよ‼」

「そ、そうだね……その事については……いや。それ以外にも咲夜にはいつも迷惑かけてばっかりで本当に申し訳なく……」

「ああ、もう‼ 面倒くさい‼」

「め、めんどうくさい……」


 僕ってそんなに面倒くさいかな。咲夜がそういうからきっとそうなのだろう。ああ、死にたい……


「まーくん‼ 今日私泊まるから‼」

「は!? ちょ、いきなり何を……!?」

「反論は聞きません‼ ともかく私を今日泊めなさい‼ 分かった‼」

「いや……それは……」

「分かったって聞いているの‼」

「わ、わかりました……」


 どうして僕の知り合いの女性陣はこうも押しが強いのか。理解に苦しみ。それとも女性とは皆こういったものなのだろうか。

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