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第83話 喧嘩をしない喧嘩×提案

12月31日の大晦日の夜。

雅人達は多摩センターの十字路の中心に佇む門松の前に立っていた。


「いつの間にこんなもん立てたんだよ」

「クリスマス終わってすぐに工事してたみたいですよ」

「子供達の作品は」

「門松の竹部分に飾られてたり台座部分に飾られてます」

「そうか」

「本当は年越し後もクリスマスツリーのままなんですけど業者さんが折角だからとやってくれたみたいです」


雅人の隣で薄茶のコートに身を包んだ葵が鼻を赤くしながら言った。


「もうすぐ年明けですね」

「早い。この前入学式したばっかだぞ」

「たしかに早いですよね。今までは一生終わらないんじゃないかってくらいに長かったのに」

「今年全然ゲームしてねーや」

「それだけ皆さんといた時間が長いってことですよ。いいことです」

「そうかね。まあ、葵がそれでいいならいい」


「雅人!ちょっと手伝って頂戴!」


名前を呼ばれ振り向くと梓が段ボールを持ち上げプルプルと二の腕を震わせていた。

雅人は一言「悪い」と言って梓の元へと行ってしまった。

葵が1人門松を眺めていると後ろから声をかけられた。


「ドン子。まだ分からない?」


夜でもわかる金髪。岸杏樹が彼氏と共にいた。


「赤嶺くんは一緒にいてもいいって言ってくれました」

「だから、そんなのはドン子の姉が怖いからで…」

「このコート。赤嶺くんが買ってくれたんですよ?赤嶺くんはお姉ちゃんが怖いからという理由で私と関わる人ではありません」

「まだ分からないか…赤嶺の怪我痛そうだったなー」


杏樹が分かりやすく挑発すれば葵の心が傷んだ。


「多摩川高校にいる友達が言ってたよ。あたし達が高校生になってすぐだから6月くらいに赤嶺の背中にできたデカイ傷。あれあドン子のせいでしょ?あんな怪我させてまで一緒にいたいだなんてさ、いくら赤嶺がいいって言ってくれたからって傲慢過ぎなんじゃない?」


雅人が側にいない今杏樹は煽るだけ煽った。

葵が杏樹に腕力で勝つなんてことは不可能。それに加え雅人の傷は葵のせいでついたのだから葵はなにも言えなかった。


「でも…」

「でもってまだなにかあるの?離れれば赤嶺も怪我しなくて済むんだよ?なんで分からないの?」

「それでも!私は赤嶺くんと一緒に居たいんです!」

「そうやってまた人を傷つけるんだ」

「そんなことは…」


葵の目に涙が浮かんだ時、首に腕が回された。


「ごちゃごちゃうるせぇよ金髪ギャルが。お前に関係ねぇだろうが」


暗闇でも分かる赤髪、赤嶺雅人が葵のすぐ後ろにいた。


「さっきから黙って聞いてればごちゃごちゃと…怪我のことはもう済んでんだよ。あと、葵は傲慢なんかじゃねぇよ。謙虚すぎてこっちが心配になるほどに謙虚だ。テメェと一緒にすんなパカ女が」

「なっ!ちょっと赤嶺共々痛めつけてきてよ!」

「おう。任せとけ」


向かってくる男に雅人は笑った。

葵に見せる無邪気スマイルでもついこの前見せた諦めの笑顔でもない。

挑発も挑発。目を見開き口角を上げる笑い方。

かつてこの地区を暴れまわった暴君がそこにいた。


「こいつ…ダメだ」

「賢い選択だ」


男は雅人の笑顔を見て勝てないと悟ったのだ。男の方に数があれば向かってきただろうが一対一の睨み合いで勝てないと悟ったならばそれは現実となる。

喧嘩慣れしてる不良ならその場で引く。男も例外ではなく杏樹を連れて人混みの中へと消えていった。


「分かったか葵。あんな奴が出てきたらきっぱりこう言え。『赤嶺雅人は最強だ』とな」

「はい…ありがとうございます」


雅人は葵の頭を撫でた。


「全く年越しになんで喧嘩なんかするかな…」

「未遂だからセーフだろ」

「未遂でも葵を危ない目に合わせたら意味ないっての」

「なら今度から俺が離れなきゃいい話だ」

「そうして」


詩音の説教を聞いたら時刻は23時58分。


「そう言えば葵。年越しでやりたいことがあるんだよ。協力してくれるか?」

「赤嶺くんからなんて珍しいですね」

「おーなんだなんだ雅人。お前からなにかしようなんて年越しに不吉だな」

「なにをするのかしら?」


「簡単なことだ」


1月1日の23時59分50秒。

雅人は…


雅人から提案をされる数分前の葵は少しだけ心が落ち込んでいた。


杏樹のことがあり雅人に負担をかけてしまったことで自分を責めていた。


「葵、いつまで気にしてんだよ。負担になんて全くなってないから」

「でも一ミリもというわけでは…」

「葵。あんた見えてなかったの?赤嶺のあの楽しそうな顔」

「今までで1番悪人顔だったぞ」

「仁。さっき殴れなかったから殴らせろ」

「病院でボッチ年越しなんて嫌だ!」


雅人本人がいいと言ったにしろ解決したことにしろ葵は自分のせいで雅人が怪我をしたということを心のどこかでまだ責めていた。

それを杏樹が的確に突いてきたため葵の心中は穏やかではなかっただろう。


それを見た雅人は口を開いた。


「そういえば葵。年越しでやりたいことがあるんだよ。協力してくれるか?」

「赤嶺くんからなんて珍しいですね」

「おーなんだなんだ雅人。お前からなにかしようなんて年越しでテンション上がってんのかー!」

「なにをするのかしら?」


「簡単なことだ」


1月1日の23時59分50秒。

雅人は葵の唇にキスをした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  おっと、警察の逮捕のような感じで書いてますねぇ~。そして男の賢い選択と、ギャルのマジで何しに来たお前感覚。  何かしらドラマが無いせいで何で偶々そこにいたとか、何でわざわざ葵を庇った時に…
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