第7話 怪我×協力
夕食を終えた雅人達は宿舎に戻った。
「1組と2組は風呂行けよー後がつかえるからな」
「よし雅人、風呂行くぞ」
「ちょっと待てって痛い…」
「さっき無理するからだろうが、大人しくしてればそんな腫れなかっただろうよ」
雅人の左足は服の上から見ても大きく腫れていた。
葵と別れてから養護教諭の先生から湿布なりを貰っているが明日までに腫れが引くことはないだろう。
それくらいに大きく腫れていた。
「強がるからだ。自業自得」
「肩くらい貸してくれよ。1人だと辛いんだ」
「ったく…仕方ねぇな!」
仁に肩を貸して貰い風呂場へと向かった。
「いい体してんな…それに目立つ背中の打撲痕…お前…」
「背中は今気がついた」
「んなわけあるか!それだけの傷なんだジンジンしてたに決まってるだろうが!」
「…あまり葵に心配かけたくないんだ」
「あのな、そんな傷持ってたら気づくに決まってるだろ」
「それでもだ。アイツは少し遠慮しすぎる。俺だけでも心を開いてくれればいいと思っている」
「不良にしては可愛い考えじゃねぇか」
「るっせ」
仁を無視して湯船に浸かる。
「なんでそんな怪我してまで構うんだよ。お前くらいの顔が有れば女なんて選びたい放題だろ」
「余計なお世話だ。俺が好きで構ってるんだからいいだろ」
「オレ的には気になるんだけどなー。一緒の班のよしみだろ?」
「…恩師からの頼みなんだ。『妹を守れ』っていう」
「なんだそれ。無茶苦茶じゃないか?なんの対価もなしにそんなこと頼むなんて」
「対価なら昔に多く貰ってる。今はその多い分を返してるだけだ」
「過去にどうこういうつもりはないがこれからはオレにも相談してくれ。いくら不良で運動神経がいいからって1人じゃ限度があるだろ。オレは直接関係ないけどさその恩返しの手伝いをさせてくれよ」
「お前になんの得がある」
「得か…女子と定期的に話せるとか?ああ、それじゃあ雅人も安心、古賀も安全になってwinwinとか!」
どうやら彼はwinwinの意味は分かっていないらしい。
win状態なのは雅人と古賀だけであって仁自身の得にはなっていない。
「あのな…お前1人いたところで変わらないって」
「じゃあ神崎にも頼んでみようぜ!」
「そういう問題じゃ…」
だが雅人1人では限界があるのも事実。
いくら不良で運動神経が良くても守れる範囲というものがある。
もしそれを超えた時に葵がどうなるかなんて想像するだけでも悪寒がする。
「あんまり無いと思うけどな…」
雅人がそう言うと仁は口角を上げた。
「よっしゃ!交渉成立!これからよろしくな!」
「ああ」
部屋に戻ると夕飯の時間までゆっくりすることになっている。
「うわ、本当にゲームとか漫画とか持ってきてるのかよ」
「当たり前だろ。こういう時間とか暇で仕方ない」
「分かるけどさ…入学したてでゲーム持ち込むとかどんだけ神経太いんだよ。見つかったら没収だぞ」
「没収が怖いなら最初から持ってこない」
「それもそうだな」
雅人がゲームをし仁がスマホをいじっているとドアがノックされた。
「お邪魔します…」
「邪魔するわ」
「来たか。これ、言ってた漫画」
「ありがとうございます…ここで読んでもいいですか?」
「ああ、構わないぞ」
「なんで神崎まで来たんだ」
「葵を1人で男子部屋に行かせられるわけないでしょうが」
「オレ達ってそんなに信用ない?」
「ない」
詩音はキッパリと言い切った。
それもそのはずで、校外学習の準備中の会話により雅人への疑惑の目は強まり雅人と普通に接することが出来る仁にも疑いの目がいっているのである。
そんな悪の巣窟に純粋無垢な葵を1人で送るということは蟻地獄の中に蟻を放り込むのと同じころだと詩音は考えた。
「そんな警戒しなくても赤嶺くんと豹堂くんはいい人ですよ」
「そう思わせて葵みたいな純粋な子を食べるのはこいつらみたいなやつなのよ」
「そうなんですか?」
「まさか。そこまで悪人じゃない」
「そうだぞー。そういうのはお互い合意がないとダメなんだぞー」
「口ではなんとでも言えるのよ」
しばらく雅人の部屋でダラダラと過ごして夕飯の時間となった。
「さすが私立ね」
「夕飯が豪華だこと」
適当な席に座って夕飯にする。
「明日の予定ってなんだっけ」
「知らねぇ」
「オレもー」
「確か、1組は野球することになってたはずです」
「さすが葵。葵がいなかったらこの班終わってるでしょ」
「起きたら確認すればいいことだろ」
「そんなんだから血がついた服とかもってくるんでしょうが 」
「着られればなんでもいいんだよ」
「無頓着め」
雅人達の班は他の班より賑わっていた。
それは偏に、相手との関係を考えずに発言する人間が2人もいるからだろう。
無遠慮というのは時に人と人をつなぐ役割を果たす…こともあるかもしれない。