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第6話 転落×料理番

「大丈夫ー?」


上から聞こえる詩音の声に手を振って返した。


「雅人!目的地はこの先の川だから古賀を連れてこれるか?」

「分かった。連れて行くから先にいけ」

「頼んだ!」


雅人1人なら目の前に立ちはだかる断崖も登ることが出来るが運動音痴の葵を連れては無理だと判断した雅人はあとで合流することにした。


「それじゃあ行くか...っ!」

「どうかしましたか?」

「いや…なんでもない」

「大丈夫ですか?どこか怪我とかは…」

「してない。あの高さから落ちたくらいで怪我なんかするかよ」

「すいません…私がドジなばかりに…」


葵は葵で落ちたことに申し訳なく思っているようだ。


「いいって。古賀を守るって言ったのは俺だし、なんだっけ…有言実行?とかいうやつだ」

「でも痛かったですよね?」

「まあ、それなりには。だけどもう大丈夫だ。痛みは引いた」


嘘である。

ついさっきぶつけた背中は未だにジンジンしてるし着地の時に全体重が足に来たため捻挫までしている。

雅人の体は今すぐにでも歩くのをやめて休んだ方がいい状態ではあるが合流しなければいけないため休むわけには行かなかった。


「さっきの話の続きだ。古賀はどんな漫画を読む」

「えっと…」

「無言で歩くの辛いんだ。よければ答えてくれ」

「そうですね…ラブコメ系はよく読みますよ。あと他には百合系をすこし…」

「百合ってまだ一冊も読んだことなんだけど面白いのか?」

「合う合わないは人それぞれでしょうけど女の子同士ならでわの恋の仕方というのもあるので面白いと思いますよ」

「…買ってみるかな…今度本屋行った時に連絡する」

「分かりました。こちらでも何冊か目星をつけておきます」

「助かる」


趣味の話をすれば純粋な葵はなんの疑いもせず話に乗った。


しばらく歩くと水が流れる音が聞こえて来た。

水の方向に進むと今度は人の声が聞こえて来た。

さらにその方向へ進むと担任の姿を確認することができた。


「追いついたか」

「ああ、なんとかな」

「すまないな…来年からはルートを変えなければいけないな」

「出来れば今年からにして欲しかった」

「養護教諭のとこで…すまない。今は夕食の準備をしているところだ。豹堂と神崎の所に行ってカレーでもなんでもある食材で作ってくれ」

「わかった」


すれ違いざまに「本当に申し訳ない」と言われた。

葵は誤魔化せても担任はごまかせないらしい。足を引きずり気味なのがバレてしまったのだ。


「葵ー!大丈夫だった?怪我は?赤嶺に襲われなかった?」

「大丈夫です。私は怪我もなにもしてません」

「そういうお前は…なんだよ」

「俺が怪我するわけないだろ。あの高さから落ちたくらいで」

「あーはいはい。分かったからこの野菜を川で洗ってこい。古賀も一緒にな!」


野菜が入った籠を押し付けられると渋々川へと向かった。


「綺麗な水ですね!」

「これが都心に着く頃にはあんな汚くなるんだよな」

「夢を壊すようなこと言わないでくださいよー」

「事実だろ。てか、早く洗うぞ」


土が付いている野菜を取ろうと籠に手を伸ばした時、ズボンの裾に違和感があった。

近くで見なきゃわからないレベルのしみ。

ここまでの道のりで濡れる場所なんてなかった。川の水が飛んだのかとも考えたがそれにしては左足だけにシミが作られている。


「?どうかしたか?」

「なんでもないです。少しぼーっとしてしまって」

「水は浴びるなよ。風邪引くぞ」


4月はまだ水に入るにはだいぶ辛い時期。

寒中水泳ならまだギリ出来る季節だ。


野菜を洗い終えた雅人達は自分達の台所に戻って来た。


「遅い!野菜がないとなにも出来ないんだから!」

「なに作るんだよ」

「キャンプと言ったらカレーだろ。他になに作るんだよ」

「その前にこの中で料理出来る人はいますか?」

「確かにそこ重要!じゃあ手あげて」


そして上がったては二つ。

細長くすらっとした手と小さく子供のような可愛らしい手。

それすなわち、


「男全滅かい」

「悪いな。普段はカップ麺なんだ」

「オレは親が作るから自分で作る習慣がない」

「豹堂くんはまだしも、赤嶺くんは一人暮らしなんですから料理が出来ないと不便ですよ」

「大丈夫。料理しなくてもいいように食費の計算くらいはしてるから」

「そういう問題じゃないでしょうが…はぁー。男が戦力外なら仕方ない。うちらでやろうか。男子は雑用。すぐに移動出来るようにスタンバってて」

「分かったよ」

「うーす」


そして女子主体の料理が始まった。

2人とも料理が出来るというだけあって手際がいい。

火が通ってなくて硬いジャガイモも彼女達の手にかかればつっかえることなく包丁が通って行く。


「男子2人、鍋に水入れて。人数分でいいからその半分でいいよ」

「了解」


雅人達はそれぞれの指示に従って動くだけ。

一年前の雅人なら「はぁ?」と言って殴っていただろうが茜と出会ってから人の下についてもある程度は大丈夫なようになった。


約1時間後。

鍋の中にはちゃんとしたカレーが出来上がっていた。


「まともだな。ジャイアンカレーでも出来るもんだと思ってたのに」

「オレもだ。なのに期待を裏切られた」

「文句があるなら食べなくていいから」


『申し訳ない。ありがたく頂戴します』


いつの時代も料理番の女は強い。

古事記にもそう書かれている。


「普通にうまいのがなー」

「こういうのって神崎みたいな奴が失敗してツンデレ発動するのにな」

「なー」


「あんたら一回溺れとく?」


こちらが笑顔なのに不良2人を戦慄させた一言でした。

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