第68話 休日×悪魔
11月のある日の土曜日、ベット兼ソファで寝ていた雅人を起こしたのは詩音だった。
「...神崎?」
「朝、ちょっと来て」
「眠い」
「いいから」
詩音の真面目な目を見ると寝ぼけながらも着替えた。
「で、なんで俺を連れ出した。単純にデートってわけじゃないよな」
「誰があんたなんかとデートなんかするのよ」
「じゃあなんで休みに俺を呼び出した。そしてなぜお前までいる」
「まあまあ、僕も受験が終わって暇なんだよ。後輩から面白そうな話題を持ってこられたら聞かずにはいられないだろう?」
「勉強してろよ...」
「ま、見てれば分かるから」
意味が分からないという雅人をよそに詩音は車の中で目を光らせる。
「動いた」
「ん?」
雅人が目を向けると梓が雅人の部屋を訪れるところだった。
「梓?」
「やっぱり最初に動くのは梓先輩だったか」
「なんの話だ。まったく分からん」
「多分連絡くるからスマホ貸して」
「人の話聞け」
「送り終わったらちゃんと話すから」
詩音がそういうので雅人は大人しくスマホを渡した。
「...あんた写真全然ないじゃん。しかも中学の時のばっか」
「なに見てんだよ」
「あ、この子か、中学時代に付き合ってた子」
「そいつの写真は撮ってない」
「じゃああんたが寝てる時に撮ったやつだ」
「いいから返せ」
詩音からスマホを回収すると説明を求めた。
「実際のところ、なんて説明すればいいのか分からないんだよね」
「あ?そんなことで人の貴重な休日を潰したのか?」
「違うから。橘先輩助けてくださーい」
「こらこら、女の子の胸元を掴んではいけないよ」
「ゴリラならセーフだよな」
「...まあ、説明できないお詫びとして許してあげる」
「雑でもいい。説明しろ」
「んー。もし朝ウチを追い返してたらこの2日丸々、梓先輩と葵に潰されてた」
詩音の言葉を聞いて雅人は戦慄した。
せっかくの休日を潰される。その言葉だけで雅人は震えが止まらなかった。
「噓...だろ。なんで俺の休日が狙われなきゃならない?」
「残念だけどそれはウチも分からない。けど昨日2人が話してるのを聞いた」
噓である。
詩音はなぜ雅人の休日が狙われているのかは知ってるし狙われる原因も知っている。
今しがた雅人を連れ出したのは雅人達の関係をかき回すためだ。このまま正々堂々勝負をし勝敗が決まるのは簡単で後腐れなく過ごせるだろう。
だが、詩音は違った。
折角の高校生活をそんな簡単に過ごしては勿体ないと頼まれてもいないのに悪知恵を働かせたのだ。
「詳しいことは今のあんたに言っても分からない」
「んなこと分かんないだろ」
「経験値不足。レベリングして出直してきて」
経験値不足と言われてしまうと雅人はなにも言い返せなかった。
だがそれと同時に混乱もしていた。自分の欠けている部分が多すぎてなにをレベリングすればいいのか分からなかった。
その時点で詩音のやっていることは理解出来ないのだが。
「俺今日一日帰れないじゃん。仁は病院だし」
「病院に入れたのはあんた自身だけどね」
仁は足の骨を折るという痛々しい怪我をしてしまった。
元凶が仁本人なだけに詩音はなにも言わなかった。
「実家に帰省でもすればいいんじゃないかい?」
「鍵持ってないし私物は全部持ってきた」
「そうか...僕の家は今姉が帰ってきてるから無理なんだよね。ごめんね」
「こういう時に友達がいないって不便」
「そもそもこの状況自体が非常事態だから。普通の高校生は休日を狙われたりしないから」
だがこのままでは雅人は11月という秋本番の夜に野宿するはめになってしまう。
と、そこで詩音がなにか思いついたようで悪魔の角を生やした。
それを雅人は鋭敏に感じ取っていた。
「赤嶺ー?家でよければ泊まればー?」
「なに企んでやがる」
「なにも?友達が困ってたら助けるのは当たり前じゃん」
「警察にでも突き出す気か。不法侵入だーとか言って」
「あんたの中でのウチのイメージがよく分かった。でも安心しな、警察には言わないし匿うだけ今ならウチの手料理もついてくる」
雅人は冷たい目で詩音を見ていた。
詩音は葵のように善意100%で動かない。自分になにかしらの利益があるから雅人を泊めようとしている。
それを雅人は考えていた。
だが、レベリング箇所も分かっていない雅人に分かるわけもなかった。
「よしじゃあ、ウチと橘先輩で葵と梓先輩を部屋から出すからそのうちに1泊分の荷物をまとめときな。ゲームもいいけど軽量じゃないとバレるからね」
「分かった」
詩音の元に雅人の居場所を聞く旨のラインが2人から届き、多摩センターにいると答えた詩音は雅人を近くのコンビニへと送り真琴の車で多摩センターへと向かった。
1人コンビニに置き去りにされた雅人は溜息をついた。




