第61話 犯人探し×メンタル破壊
演劇を終え、出演者が袖に集まった。
「それで、男2人。なんで演劇を続行させたのか聞かせて貰おうか」
袖で主役の勇者とそのライバルのピエロ面が詩音によって正座させられていた。
「ついでに言えば赤嶺。本物を持って来るなって言ったよね?なんでもって来たの?」
「その方が面白いから」
「危ないでしょ?もし葵に当たったらどうするの?死刑じゃ済まされないけど?」
「中途半端に軽い小道具よりしっかりと重みのある木刀の方が扱いやすい」
「まあ、お互いに木刀による怪我はなかったしもし木刀じゃなかったらそれこそ葵の上に照明が落ちて大怪我するところだったから赤嶺の木刀については先生を納得させるには十分だから不問とする」
もし舞台上に吊るされている照明が葵に辺りでもしたらそれこそ大怪我となり演劇どころではなくなるが雅人の自己中心的な考えが不幸中の幸いを生んだ。
「じゃあ次に、なんで照明が落ちて来たにも関わらず続けたの?止めるように指示したよね?」
「赤嶺からいいパスが来たからそのままゴールしないといけない気がした」
「止まるんじゃねーぞ」
「あんたらは止まってよく考えて」
「あの…私なにがあったのかわからないんですけど…照明が落ちて来たんですか?」
「ええ。あれが葵の上から落ちてきたのよ」
詩音は木刀で割られ、外の金属が変形している照明を指した。
「あれって小道具が当たった程度で落ちるんだな」
「そんなわけないだろ」
「でも実際に落ちたじゃねーかよ」
「はぁ…刃物を使わない不良だからわからないかもしれないが、ここ見ろ」
慧輝が指すのは照明が繋がっていたであろうロープ。そこには小道具の剣が当たった衝撃で千切れたであろう部分と、なにか鋭利なもので切ったような形跡があった。
「切ったような跡か」
「ああ、獲物はツールナイフとか小さい刃物だ」
「なんでお前がそんなこと分かるんだよ」
「喧嘩で刃物を使い分けるからだ」
「大変だな」
雅人と慧輝は日常会話のように話しているがそれを聞いている詩音と葵は目を大きく開けて唖然
している。
「安田…前科とかないよね?」
「ないよ。補導されたことはあるけど」
「それならいいんだけど…ま、補導くらいなら赤嶺もあるでしょ」
「あるけどなんだよ」
「そこはないって言って欲しかった」
期待を裏切らない雅人。
「探偵ごっこなら俺はゴメンだぞ。面倒だし」
「あんたは葵が怪我しそうになったのに犯人を殴らなくていいの?」
「…殴りたい」
「殴らないでください。私は無事なので犯人探しは先生達に任せましょう?」
「えー。楽しそうじゃん。安田は頭いいし喧嘩になれば赤嶺だせばいいしでウチら安全じゃん?だからいいじゃん」
自分の不幸体質を知っている葵は出来るだけ危ないことは避けたいようだ。
それだけなら参加しなければいい話だが、雅人をコントロール出来るのは葵1人。喧嘩沙汰になった時に悪者になるのは雅人だ。だから、喧嘩は事前に阻止する必要がある。
「分かりました…でも!喧嘩はしないでくださいね」
「…わかった。頑張る」
雅人は目線をそらして言った。
演劇の片付けを終えた、雅人達は犯人探しを始めた。
「犯人の目星はついてるのか?」
「いや全く。演劇をするのはウチらだけじゃないしね。2年生も3年生もあるし、体育館を使う部活動だったらいつでも切れる」
「『いつ』切られたのか分からないと犯人を特定するのは難しそうですね」
「慧輝、なんんか分からないのか?」
「おれは警察でも探偵でもないんだ。切り口だけじゃ詳細には分からない」
「では、安田くんならいつ切りますか?」
「そうだな…」
慧輝は少し考えてから答えを出した。
「自分が思う絶好のタイミングで切る」
「でもそれじゃ逃げられないんじゃない?」
「黒い服を着ていればよく見ないと暗くて分からない。それに、刃物があるなら変装して振り回しながら逃げればいい。で、適当な場所で変装を解く」
「赤嶺くんはどうですか?」
「俺なら予め切り目入れて落ちるのを待つ」
雅人と慧輝でそれぞれ違う意見が出た。
「赤嶺のやつだと誰かを狙うのは不可能。安田のやつだと誰かを狙うことはできても安全性が低い」
「誰かを狙ったもんじゃないんだろ、今ここにずっといるが誰も降りてこないし物音も聞こえない。それに、この照明が落ちたのは俺達の殺陣で小道具の剣が吹き飛んだからだ」
「では、偶々ということですか?」
「そうなるな」
「赤嶺…お前もっと落ちてきた照明見ろ。焦げ跡があるだろうが」
「そんな見えるまで近づいてないから知らん」
雅人が近づくとかすかに火薬の匂いがした。
「ってことは誰かが燃やしてこれを落としたと?」
「誰かが落としたというよりは、赤嶺が飛ばした剣が当たって誤爆したってところか」
「じゃあ葵のやつはあんたらのせいってこと?」
「そうなるな」「そうなるな…」
「へー…犯人探しの前にあんた達をしばこうか?葵に『大嫌い』って言ってもらう?」
「「それだけは勘弁してください」」
普段から暴言まみれの詩音と違って普段暴言を吐かない人間が吐く暴言の威力は凄まじい。
「葵。ちょっと言ってみて」
「いや…でも…」
「大丈夫。こいつらのメンタルが壊れるだけだから」
「赤嶺くんと安田くんなんて…だ、大嫌いです」
葵としては申し訳なさで目を逸らしたつもりだったが言われた本人達からすれば本当に嫌われたと錯覚するだろう。
両方ショックを受けているが慧輝は比較的軽いショックだった。
重症なのは雅人の方だ。
「ちょっと人生やり直してくる」
「どこ行くんですか!止まってください」
「大丈夫だ。リ◯ロの主人公はやってたから」
「あれはアニメの中の話ですよ!現実では無効です!」
「ああなるって予想出来なかった?」
「出来てた。だからやった」
「神崎って意外と悪魔だよな」
「え?悪魔的な魅力があるって?分かってんじゃん!」
「犯人の情報を整理したいから赤嶺を止めてくれ」
「はいよ」
葵と詩音の説得により雅人の歩みは止まった。
その時の雅人の顔は詩音の中で永遠のネタとなった。
恐らくこれが2019年最後の投稿になります。
この1年間応援して下さった読者様に最大限の感謝を。
それでは、よいお年を。
そして、来年もよろしくお願いします。




