第60話 文化祭×演劇
文化祭当日。
「祭りだー!騒げ!歌え!盛り上がれ!」
朝、雅人達が教室に入ると先に来ていた仁が教卓に上り、上裸で騒いでいる。
季節は秋だというのになぜ上半身裸で騒げるのか雅人は理解に苦しんだ。
だが困ったのは一瞬で仁との距離を一気に詰めるとヨレヨレになった演劇の台本で仁を滅多打ちにした。
「痛い!雅人痛い!」
「生徒会特権だ。文化祭だからって盛り上がりすぎだ」
「だからって引っ叩かなくても...」
「ならこんがり炙るか?たしか、ガスバーナーを使うクラスがあったはずだ」
「豹堂仁!着衣完了しました!」
口は笑っていたが目は笑っていなかった。
それに相手はあの雅人だ。本当にやりかねない。
「でもよ!初の文化祭だぜ!盛り上がらないわけないだろ」
「まだ始まってもないのに」
「オレたちは演劇ないからクラスの方に出ずっぱりなんだよ。演劇を成功させてくれよ」
「大丈夫。葵もいるし神崎もいる。それにいざとなったら物理的になんとかする」
「頼もしいねー。ちゃんと姫様守るんだぞ」
文化祭開始時間となり、体育館には立ち見客が出るほど満杯だった。
「すごー!なにあの数!なにしたの生徒会!」
「少し宣伝しただけだ。もっともこの辺は会計の方がよく知ってる。てかあいつの差し金」
それぞれ衣装に着替えやる気は十分。ブザーが鳴り演劇が開始された。
最初は慧輝と葵が出会うシーン。雅人の出番は中盤から。
「あの!勇者様...ですか?」
「そうだけど君は?」
「私はこの近くの村で冒険者をしています...ですが戦闘系の魔法が使えずにパーティをクビになりました」
「なんで僕のところに?」
「攻撃は出来ませんが援護なら誰にも負けない自信があります!私を仲間に入れてください!」
ここまでは一般的な出会い。物語の勇者は聖人君子で描かれることが多い。
分かりやすい反面、つまらない。だから雅人達のクラスでは心の声を使っている。
『可愛い。入れたいけどなー。味方かどうか分からないんだよなー。でも可愛い』
勇者が心の中で葛藤していると魔法使いからの追撃がはいる。
「駄目ですか?」
「駄目じゃないです。こちらこそよろしくお願いします」
『可愛いは正義。もう一度言おう、可愛いは正義』
勇者と魔法使いが歩いていると勇者が顔を覆い出して心の中で叫び出した。
『あーもう!可愛いー!静かだし可愛いしいい子だし!こんな子仲間に出来るなんてー!勇者になって良かったー!』
「あの勇者様?いかがなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ。そうだ、1つ聞いてもいいかな?」
「はい。なんでしょう」
勇者は立ち止まって聞いた。
「なんで僕の仲間になろうと思ったの?たしかに僕は勇者だから仲間になれれば有名になってお金ももらえるだろうけどさ…その理由が知りたいなと思って」
「覚えてない…ですよね。私、過去に勇者様に助けられたことがあって…それで…少しながら恩返し
したいなーと…」
「あぁ…それなら覚えているよ」
「本当ですか!」
「ああ…」
いくら人智を超えた力を持つ勇者でも助けた人全てを覚えているほどの記憶力はない。
なら、なぜ仲間の魔法使いのことは覚えていたのか。
「実は…」
勇者がなにかを言いかけると辺りに声が響いた。
「お前が仲間を連れてるとは珍しいな」
「その声…生きていたのか」
「危うく殺されるところだったがな」
勇者が辺りを警戒すると上から武器を持ったピエロが降ってきた。
勇者はそれを盾で受け止め前に弾いた。
「元気そうでなによりだ。勇者」
「ピエロ…」
「あの方は?」
「彼は元は僕の仲間だった。彼とは反りが合わなくてね、戦い片腕を切り落としてそう長くは保たないと思っていたけど…まさか切り落とした腕が再生してるなんてね」
「ははは!道化は人を騙すのが仕事だ。人間の腕を模したおもちゃくらいいくらでも持ってる。お人好しのお前のことだから腕さえ失ったように見せれば追撃はないと思った。まさにそのとおりとは驚いた。てなわけで殺す」
ピエロはその場から消えると勇者の後ろから攻撃をした。
「流石に読まれてるか」
「何年その戦法を見ていると思っている。お前の技は通じない」
「そうか。なら…ゴリ押すまで」
ピエロは持っていた小道具を捨てると、服の裾から木刀を取り出すと勇者に殴りかかった
「な!おまっ!」
「死ねー!勇者!」
木刀による連撃で勇者は防戦一方を強いられた。
『テメェ!卑怯だぞ!』
『うるせぇ。戦いに卑怯もクソもあるか。勝った方が正義だばーか』
ピエロと勇者はアイコンタクトで喧嘩をした。
だがもし小道具制作班が徹夜で作った盾がなければ勇者は今頃血だらけになっていることだろう。
咄嗟に盾を前にだしてピエロの攻撃をはじいた。
「なっ!」
まさか反撃されると思っていなかったピエロは後ろに仰け反った。
勇者はその一瞬を見逃さず小道具の剣で攻撃しようと盾を引いた瞬間、ピエロはニヤリと笑い体勢を素早く戻すと勇者が持っていた剣を弾いた。
「自慢の剣がなきゃ勇者なんてただの人間なんだよ!」
ピエロの攻撃は止まらず、勇者の握力を徐々に奪っていった。
ぎぃ…
木刀と金属盾がぶつかり合う中でもピエロはその音を聞き逃さなかった。
ピタリと攻撃を止めると勇者を素通りして魔法使いの元へと走ると着ていたローブを魔法使いに被せた。
そして持っていた木刀で落ちてきた照明を袖へと打ち返した。
「ほらな。お前じゃ誰も守れないんだよ。クソ雑魚ナメクジが」
ピエロは折れた木刀の破片を拾うと暗転と共に姿を消した。
「勇者様?」
「負けちゃったよ」
魔法使いはあまりの出来事にすわりこんでしまい立つ事が出来なかった。
「真実を君には話しておこうかな。昔に勇者に助けられたと言ったけど、助けたのはピエロだよ。僕は君が目を覚ますまでの間面倒を見とけと言われただけ。僕はなにもしてない」
『ああ、黙って置くつもりだったけど仕方ないか…僕もあの時ついていけば良かったな…』
「では、そのピエロという人に恩返しをしないといけませんね」
「んまあ、居場所もなにも分からないんだけどね」
「勇者様と一緒にいればまた逢えますよね?」
「多分。その辺はピエロの気まぐれだから…って、僕について来るの?君のことを騙していたのに?」
魔法使いはまだ微かに震える脚で立つとゆっくりと勇者に歩み寄った。
「私は騙されてなんて居ませんよ?確かに、助け出したのはピエロ様かもしれませんがその後のケアをしてくださったのは勇者様ではありませんか。ので、なにも騙されてません!」
にっこり笑顔を勇者に向ければ勇者の心の声が漏れる。
『あー!可愛い!こんな良い子ほかに居ないぞ!どんな育て方をしたらこんないい子に育つんだ…彼女を産んでそしてこんないい子に育ててくださったお母様お父様心より感謝いたします』
「ならピエロを探して旅をするとしよう。どうせ目的のない旅だからね」
「はい。よろしくお願いします」
魔法使いの最高の笑顔で演劇は幕を閉じた。




