第56話 準備×衣装合わせ
「さて、許可も下りたことだし本格的に内容を考えましょうか」
「会長。副会長がいませんけど...クビにしたんですか?」
「誰がクビだブラコン妹」
「な!一応先輩なんですけど!」
「また梓と同じタイプかよ」
「水谷のこと下で呼んでるけど恋人なのか?」
「違う、ただ家が近所なだけだ」
「びっくりするほど関連性がないですね」
「ああ、あと先輩だっていうなら敬えるような事をしろ、先に生まれて来たからって先輩面すんな」
「清々しいほどの暴論よね」
雅人が敬語を使うのは茜ただ1人、初対面には基本ため口だし冗談で言ったことでも喧嘩になるほどに凶暴だ。
「はいはい。社会不適合者さん?頼んであった手紙は回収出来たかしら?」
そんな雅人に悪口を言えるのは茜を除いたいつもの5人だけである。
その中で雅人の拳から完全回避が出来るのは葵と梓の2人だけ。そう考えると葵と梓は凄い人物なのだと思う。
「ああ、模擬店の希望調査書とどのクラス展示についてまとめてもらったもんだ」
「ありがとう」
「へー。会長には素直に従うんだ」
「こいつはお前と違って兄妹離れが出来てる兄貴と一緒だからってべったりくっつくな暑苦しい」
「お兄ちゃんは最強だから」
「でたよ謎理論。なんならここで兄貴を病院送りにしてもいいんだが?」
「お兄ちゃん!やっちゃって!」
「無理無理!真央さん?勝手にお兄ちゃんを最強設定にしないでね?」
「仲いいですね。素晴らしことです」
「仲がいいっていうのかしらね...」
文化祭まであと2週間。
「んで、クラス展示は演劇で古賀と安田が主演だってよ」
「ふーん。いいんじゃないか?」
「珍しい、あんたなら反対すると思ってた」
「俺に役はないわけだ。つまり邪魔し放題...」
「赤嶺くんにも役ありますよ?ほとんどしゃべりませんけど...」
「ならそこで邪魔する」
1年1組は伝統通り演劇をすることになった。
主演は葵と慧輝。異世界ファンタジーもので恋愛要素を入れるという。
脇役の雅人は慧輝の邪魔をしようと考えている。
「安田の邪魔するのはいいけど葵に当てないでよね」
「大丈夫だ。コントロールはいい方だから」
「ならいいけど」
文化祭が近くなると通常授業が減り、文化祭への準備時間となる。
教室からはトンカチやのこぎりの音が聞こえ文化祭が近いということを知らせていた。
雅人達はというと衣装合わせがおこなわれていた。
慧輝は主人公の勇者役、葵はヒロインの魔法使い役、雅人は主人公のライバル役。
「慧輝衣装勇者というより騎士だな」
「これでも衣服班が一生懸命に作ってくれたんだ異論はない。そういうお前は全員黒づくめで悪役感が出てるな」
「当日はこの衣装が赤くなるからな慧輝みたいな白い衣装は無理だから仕方ないな」
勿論、高校生がやる演劇のため血のりは使わないし本気で血が出るような演出もない。
だが本番は完全に当人たちの匙加減。雅人と慧輝、犬猿の仲の2人が葵を取り合って喧嘩するとなればその喧嘩が終わる頃には片方はこの世からいなくなっているだろう。
「葵?遅いけど大丈夫か?」
「大丈夫です!なのでこっちに来ないでください!」
教室の一角、カーテンで仕切られその前には女子達がバリケードを作っている。
「赤嶺、これ以上近づくと超絶大変な雑用係にぶち込むからね」
「雅人ー。お前も来いよー。こっち側になれよー」
怨念のように雅人を誘うのはすでに超絶大変な罰が確定した仁。
男子で協力して覗こうとした結果雅人と慧輝に裏切られ陥落した。
「俺が葵が嫌がることすると思うか?」
「不良のお前ならやりそう」
「ほう...」
「でも赤嶺雅人ならやらないと思う!」
雅人に睨まれ指を鳴らされながら近づかれたらなにもしていなくても謝ってしまう。それほどの圧と恐怖が仁を襲った。
「ほら、葵。もう出ちゃいなよ。いつまで待っても服は成長しないから」
「ごめんね。古賀さん用に合わせてないからキツイよね...」
「ほら、背中丸めれば少し余裕が出来るからこれでほら!行った!」
カーテンの中から背中を押され、雅人に飛びつく形となった葵は苦しそうに張った胸を雅人に押し付けた。
「み、見ないでください...恥ずかしいです...」
「可愛いじゃん。てかローブならベルト緩めればいい話じゃないか?」
「...上下で分かれてるのでベルトをこれ以上緩めたら下が落ちちゃいます」
「欠陥品じゃねーか」
だがベルトさえ緩めなければ下が落ちることはない。
劇中でベルトをいじることはないし魔法使いのため激しい運動もない。
よってラッキースケベは封じられた。
「ほら、3人で並んでみて!」「やっぱ人が着ると雰囲気出る!」「頑張ってよかったー!」
「おれの為にありがとう」
「動きやすくていい。さんきゅな」
「わざわざありがとうございます...」
衣装が完成していて後は台本が出来るだけ。
いよいよ文化祭シーズン。
どの学年、クラスでも着々と準備が進められ学校は文化祭準備期間独特の賑わいを見せていた。




