第53話 ふたりきり×ドキドキ
「で、僕が呼び出されたと」
「知恵寄越せ」
「助言がほしくて…すいません、お忙しいのに」
「後輩に頼られて時間を使うなら有意義さ」
「ありがとうございます」
生徒会室に梓と雅人と真琴だけで計画を練ることにした。
「それじゃあ始めようか」
「は、はい…」
だが中々梓は切り出せないでいた。
「どうかしたのかな?」
「それが…」
「悪いな。呼んだはいいがなにを聞いたらいいのか分かってない」
「…すいません…」
「構わないよ。大方後夜祭を開催するにあたっての住民の方の許可だろう?」
「はい。1人だけ無理だとおっしゃっていて…」
「信頼を示せとでも言われたのかい?」
「そうです!まさにそう言われました」
「俺1人だったら殴ってたぞ」
信頼を示すことが出来なければ後夜祭は出来ない。後夜祭は文化祭の花形。故にやらなければならない。
「文化祭まで時間はないですし…アタシはどうしたらいいのか分からなくて…」
「僕も去年に生徒会長に当選した時は色々迷走したものさ。全てが初めてのことで最初の行事が文化祭だからね不安に思うのも無理ないさ。なら、僕から助言をしよう。焦らないことさ。それさえ守れば成功する」
去年1年間生徒会長としてやってきた真琴の言葉は重かった。
「焦らないって…そんな訳のわからないことを…」
「聞けるだけでもありがたいことよ」
去年の真琴と同じく迷走状態にある梓達にはどんな抽象的なことでもありがたかったし道しるべに成り得た。
「お似合いだねー2人とも。人見知りの梓くんに物怖じしない雅人くん。いいコンビじゃないか」
「そ、そうですか…?」
「んなわけないだろ。俺は今すぐにでも辞めたいと思ってる」
「なら辞めればいいのでは?任命と言っても任意だよ?」
「そうだけどあのじじぃを殴らないと気がすまない」
「そこは律儀なんだねー。梓くんを頼んだよ」
「ああ、任せろ」
「それじゃあ」と真琴は生徒会室を後にした。
残された2人は顔を見合わせて雅人は目を細めて見定めるように梓を見てそれに対し梓は顔を赤くした。
「なに照れてんだよ。気持ち悪い」
「貴方みたいな大きな男の子から見つめられたら怖いでしょう!」
「見つめてねー。バカだなーと思ってただけだ」
「誰がバカよ!」
「アイツにお似合いとか言われて怒らないくせにこういう時は怒るのな」
「別に怒ってなんか…そ、それより作戦を考えましょう」
梓は露骨に話題を逸らした。
「作戦ね…信頼を集める…この3週間で…面白れー冗談だなおい」
「しょうがないわよ。それさえ達成できれば文化祭を楽しくできるんだから」
「きっちー」
「やっぱりアタシが会長になるなんて無茶だったのかもしれないわね…友達いないし、人望もないし、頼れる人もいない…はぁー」
この短期期間で否定ばかりされてきた梓の精神はボロボロの限界状態だった。
今梓を支えているのは先輩としての、生徒会長としての意地だけだった。
「ネガティブになっても仕方ないだろ。案出すぞ」
「ごめんなさい…でもあそこまで否定されたら普通はヘコむわよ」
「俺の場合肉体言語だから肉体的に痛い」
「それはそれで勘弁したいわね」
〜♬〜♬
雅人達が生徒会室で頭を悩ませていると雅人のスマホが着信を告げた。
「悪い」
梓に一言入れてから雅人は電話に出た。
「はい。もしもし」
『おー雅人か。あたしだ』
「着信って時点で分かってますから、どうしたんすか」
『いやな。お前そろそろ文化祭だろ?だからバイトしに来ないかと思ってな』
「文化祭一切関係なくてびっくりしました」
『ま、すぐにとは行かなくてもいい。クリスマスまでにまた来てくれればいいさ』
「わかりました。わざわざありがとうございます」
『ああ、ちび達も待ってるからなー』
そう言って一方的に電話は切られた。
「誰から?」
「茜さんから。またバイトしに来いって」
「完全に味しめられてるわね」
「俺は別にあのバイトなら出来る気がするし」
「また夏休みみたいに喧嘩騒ぎはしないで頂戴ね」
「あれは…時期が悪かった」
前日に警察沙汰の喧嘩さえしなければ不良達が保育園にまで乗り込んでくることはなかっただろう。
そして雅人の頭の古傷が開くこともなかっただろう。
「またアルバイトして子供達に癒されたい」
「保育園児には人気だったもんな」
「なによ後輩になら人気あるんだから」
「夢の話はまた夢の中でしてくれ」
「本当よ!夢でも妄想でもないんだから!」
梓は必死に弁明するが雅人のジト目は変わらい。
むしろ眉間にシワが寄っているだけ酷くなってる。
「誰に」
「一部の男子に…」
「誰だ。名前言え、あとで確認してやるよ」
嘘だと分かっている雅人は更に追求する。
「そ、それは言えないわね。相手になにかあったら可愛そうだもの」
「手荒な真似はしない」
「ダメ」
「言え」
「嫌」
「殺すぞ」
「死んでも言わない!」
頑なな梓に雅人もイラつきを覚え始めた。
「言え」
「貴方みたいな無愛想の不器用には言ってもわかりませんよ!」
無愛想が気に障ったのか不器用にキレたのか雅人は席から立つと隣に座る梓に詰め寄った。
「教えろ」
雅人と梓の顔はどちらかが顔を突き出せばキス出来るぐらいまで近づいていた。
そのせいか梓の顔は赤くなり今にも頭から煙がでそうな勢いであった。
「う、うそよ…」
梓が正直に言うと雅人は悔いはないといったようにすぐに離れた。
だが以前として梓の顔は赤くなったままだ。
梓は先輩としての意地を見せようと座った雅人の後ろに立った。
「…なんだよ」
「あ、当ててんのよ!」
「当たってねーんだよ」
顔を目一杯赤くして胸を当てに行ったはまでは良かったが梓自身の戦闘力を考慮しておらずあえなく撃沈した。
「マジでなにがしたいだよ」
「なんでもないわ…アタシはまな板だから」
「あのな…」
雅人はフラフラと足取りがおぼつかない梓を引き寄せると自分の膝に座らせた。
「な、なによ!」
「聞け。俺は梓が生徒会長だから副会長になったんだ。少しでもお前の力になりたいとか俺なりに考えたからなったんだ」
「それには感謝してるけど…」
「それならそんなしょぼくれた顔すんな」
「別にそんな顔してな…」
「お前は笑ってた方が可愛いぞ」
いくらでさえ至近距離で話して噴火寸前だった梓は頭はドキドキに耐えられる噴火した。




