第51話 葛藤×説得
「お、副会長様がおかえりだ」
「断ってきた」
「なんでですか?勿体ないのでは?」
「あのな…俺が人の上に立つなんてこと出来ないし立つ気もない」
「雅人は尻に敷かれるタイプだもんなー。現に古賀に敷かれてるし」
「べ、別にお尻に敷いてなんか…」
「ま、赤嶺をコントロール出来るのは葵しかいないからそう思われても仕方ないよ」
葵は恥ずかしそうに顔を赤くし俯いた。
「雅人が断ったら副会長は誰になるんだ?」
「梓がまた選ぶんだろ?」
「赤嶺はどうやって断るの?」
「どうやってとは?普通に嫌だと言えば済む話だろうが」
「そんなわけないでしょ。生徒会に選ばれるなんて光栄なことなんだから」
「梓先輩に聞きましたが過去に断った生徒はいないと言ってました」
生徒会に選ばれると言うことは会長にその能力が認められたまたは才能があるということの証明でもある。
それを断るということは生徒会長を否定することになる。
そんな無礼な生徒は今までいなかった。雅人が始めてのことだ。
勿論、断るのにもそれ相応の理由が必要だし梓を当選させてしまった手前、強くは否定出来なかった。
「…面倒な…」
「せいぜい梓先輩の邪魔だけはしないようにね」
「美少女生徒会長と2人きりとか羨ましすぎ!」
「なら変わるか?」
「変わるかで変われるもんでもないだろ。生徒会頑張れー」
雅人は深いため息をついた。
放課後、生徒会室に行くと梓を始めとした生徒会メンバーが顔を揃えていた。
「か、会長!コイツ赤嶺ですよ!不良で有名の!」「なんで副会長なんかに!」
「大丈夫よ。彼は噂ほど荒っぽくないわ。皆が刺激さえしなければ大丈夫」
「分かんないぞ?どっかの誰かさんが許可なしに副会長職なんかにぶち込んでくれたからちょっぴりイラついてるぞ?」
「会長!」
「これから1年間過ごす仲間を怖がらせないでもらえるかしら?」
「だったら俺をとっととクビにした方がいいんじゃないのか?」
「ダメ。貴方はアタシの手駒。こんな使い勝手のいい駒を手放すわけないでしょう?」
雅人の今までの働きを近くで見てきた梓はどうしても雅人を離したくなかった。
ただ理由はそれだけではないが…。
「アタシが貴方を推薦したのは能力を買ってのことよ。貴方に頭を求めるつもりはないわ。ただ持ち前のフットワークの軽さと力強さでサポートして欲しいと思ったからよ」
「放課後の時間を取られるのが嫌だ」
「大丈夫よ。皆に伝えなきゃいけないものは集まるけどそうじゃないものは家に帰ってからでも出来るから大丈夫よ」
「それでもだな…」
「アタシを支えてはくれない?本当にいや?」
「嫌」
「そういう忖度しない所がこの生徒会には必要なの」
しばらく言い合いをしたが雅人の言う言葉全てを肯定的に捉えられ話が一向に進まなかった。
「…ん…帰らないと葵を待たせてるんだ」
「なら決断を。生徒会に入るか、生徒会に入らないこの学校全員が納得する理由を述べるか」
「理由?なら簡単だろ。俺だからだ」
梓のみならず生徒会室にいた生徒全員が納得するほどの理由だった。
不良として有名な雅人が生徒会副会長としてやっていけるわけもない。しかも雅人には葵を守るという仕事がある。それを放り出してまで生徒会に入ろうとは思わないのだ。
「俺に拘らなくてもいいだろ。フットワークが軽いやつとか、力が強いやつなんて探せばいくらでもいるだろ」
「それはそうなのだけれど…」
もう一押しで決まるという時に天は美少女に味方した。
「あの…赤嶺くんは…あ、いました」
ドアの隙間から赤縁眼鏡を覗かせた。
「…お取り込み中でしたか?お邪魔しちゃいましたか?」
話し合いの途中で割って入ってしまったとオロオロする葵を見て全員が同じ意見になった。
可愛いなと。
「赤嶺くんは生徒会に入らないんですか?」
「学校終わってからのゲームの時間が減るのと葵のことが心配だから入らない」
「ゲームはいつでも出来ますし、私なら大丈夫です。赤嶺くんが生徒会の時は詩音さんと豹堂くんに送ってもらいます。2人が無理な時は待ってます」
「もしその間になにかあったら…」
「その時は生徒会室まで走ります」
「運動苦手なのにか?」
「運動が苦手なだけであって出来ないわけじゃありませんから」
優しく笑う葵に雅人はそれ以上拒否することが出来なかった。
「高校生活1度のあるかないかのチャンスですよ?赤嶺くんにしか出来ないことだってあると思いますよ?」
「そうか…?」
生徒会というのは生徒の代表ってだけで特別な権限があるわけじゃない。
慧輝が言っていたように多少の校則改定くらいなら出来るが本当に微量。大幅な改定は出来ないし、後夜祭云々というのもあくまで提案。
実行に移すにはそれなりの根拠又は署名と強引さが必要となる。
強引に提案を通そうとするのはどの世界でも嫌がられる。だが雅人はそういった事柄を無視して話すことが出来る数少ない生徒だ。
勿論、強引に通すだけならば他の生徒に頼めばいい。
梓には雅人でなければならない理由があるのだ。好意という誰にも言えない理由が。
「なにか心変わりはありましたか?」
「生徒会に入る」
おそらく、この瞬間も全員の思いは一致しただろう。単純だなと。
「葵。ありがとうね。雅人は生徒会に必要な人材だからありがたいわ」
「いえ、先輩にはいつもお世話になっているので」
「入るとは言ったが梓の駒になるつもりはないぞ」
「ええ、構わないわ。勝手に利用させて貰うから」
「やれるもんならやってみろ」
雅人は忘れていた。
梓は前生徒会長、橘真琴が選んだ副会長であるということを、
そもそも、生徒会長に選ばれるほどの能力の持ち主がなにも考えなしに挑発するはずがないのだが、そこまでの知識がない雅人は気付かずに余裕の表情だ。
あとで利用されるとも知らずに。




