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第50話 初耳×好意

生徒会選挙が終わり、次なる行事は文化祭だった。


「さて、切り替えてこー」

「赤嶺の見事な切り返しからの一撃は見てて感心したけどね」

「乗り込むなんてカッコイイですよ!」


こういう雅人を肯定する意見の裏側で『でしゃばりだ』とか『非常識だ』という否定的な意見もある。

だが雅人本人は気にしていなかった。なぜなら、雅人は邪魔するわけでも梓の助けをしたわけでもないから。

雅人はただ自分がムカついて壇上に上がり、自分の言いたいことを言っただけに過ぎない。

そして、梓の当選を決定付けたのは梓の言葉だった。


『生徒会の役員が』という文句が生徒の心に残った。

つまり生徒会役員にならなければ、仕事が増えることはない。

ならば梓に入れようとした生徒が多かったのが真実だ。


「で、最近俺を悩ませているのが新聞部のこれだ」


雅人が記事の一面を広げるとメンツは苦笑いをした。

その一面にはデカデカと『梓会長、後輩を手駒に選挙に勝利!』という文言と雅人が壇上で慧輝と喧嘩している場面の写真が載っていた。


「どいつもこいつも…こういうの好きだよな」

「過去に類を見ないほどの珍事だからな」

「新聞部にとってはありがたいネタでしょ」

「騒がれて詮索されるこっちの身にもなってほしいもんだ」


雅人に直接聞ける生徒はいない。なら誰に行くか。


「私も今日だけで3人に聞かれました」

「ウチも3人」

「オレは2人だぜ」


雅人の周りの人間に聞くということが起きるわけだ。


「それに加え、コレだもんな」

「まだあるのか?」

「あんた知らないの?」


詩音が新聞の片面を見せると雅人は教室を飛び出して2年生の教室へと向かった。。

梓を探して1番端の4組のドアを開けると男子生徒とぶつかりそうになった。


「あっぶねーな。…お前1年の赤嶺か」


雅人だと確認すると口角を上げにやけた。


「水谷なら隣の3組だぞ」

「…ありがとうございます」


本題の前に争うを生まないということを望んだ雅人は3組のドアを開けると教室の真ん中で本を読んでいる梓を見つけた。

耳にはイヤホンがつけられていて雅人に気づく様子はない。

雅人は教室の中へと入ると梓の前に立った。梓は急に視界を塞がれ不機嫌そうに顔を上げたが雅人の顔を見ると顔を赤くし気まずそうに視線をずらした。


「話があるから来い」

「それは…強制?」

「来い!」

「ぴゃい!」


怒気を含ませて言うと梓はすぐに席からついてすごすごと雅人の後についていった。

いつもならこっそり後からつけて様子を盗み見するところだが相手が相手なので誰も動けずにポカーンとしていた。


「雅人…どこに…っ!」


人気のない場所に連れてこられ、壁際に追い込まれた梓は雅人の凄みに体を震わせていた。


「俺が聞きたいことはわかってるよな?」

「な、なんのこと…かしら?」

「とぼけるか…ならこれを見ろ。今日新聞部が出した速報だ」


雅人が出す面には生徒会メンバーの名前が載っていた。


会長ー水谷梓

副会長ー赤嶺雅人

会計ー白石叶恵

書記ー黒井快斗

庶務ー黒井真央


「なんで副会長の欄に俺の名前が載ってんだよ…なぁ。俺が生徒会に向いてるとでも思ってんのか?」


多摩川高校の生徒会は会長だけを選挙で決め、他の役職は会長の推薦で決まる。

その副会長に雅人が選ばれたのだ。


「そ、それは…」

「それはなんだよ」

「…貴方ならアタシの支えになってくれると思ったからよ」


上から発せられる威圧感を堪え雅人の目を見た。


「お前、俺が不良でどうしようもない奴だって知ってのことか。それに、あれだけ低脳だとか猿だとか散々言ってただろうが」

「…そんなの関係ないわよ。アタシがそばに居て欲しいって思ったんだから」

「なんだそれ、意味わかんねーよ」

「分からなくてもいいわよ。今は」


梓の意味深な笑顔に雅人は一歩引いた。


「アタシ、嬉しかったのよ?誰も味方がいない状況で助けてくれたのは貴方だけだった。そんなの嬉しくないわけないじゃない」

「そんなの元会長に言ってやれ。俺の背中を押したのはあの人だ」


雅人を怒らせる情報を渡したのは真琴だ。今思えば真琴にいいように使われた気がしないでもないが結果オーライということで無視した。


「そんなの関係ないわ。貴方が出てきた時点で会長に入れ知恵されてることは予想がついたから」

「って、んなことはどうでもよくて、俺は生徒会には入らな…っ!」


そこで雅人は気がついた。

追い詰めていたはずの梓に逆に追い詰められていることに。


「な、なんだよ…お前おかしいぞ」

「おかしいのは重々承知。でもアタシにだってワガママくらいあるの」

「言ってる意味が…」

「分からない?夏祭りの日に貴方が葵にしようとしたことよ?」


行為は違えど、感情自体は同じもの。

詰まるところ、梓は雅人が好きになってしまったのである。

だが自分の恋にすら気が付いていない雅人に梓の気持ちが理解できる訳がなかった。


「取り敢えず、言いたいことは言った。俺は生徒会には入らない。それだけだ」


雅人は自分の言いたいことだけいうと逃げるように下の階へと降りていった。

雅人の足音が聞こえなくなった後、梓はその場に座りこんだ。


「なにしてるんだろ…実らない恋なんかして…」


夏祭りでの出来事を知っている梓だから結末も知れてしまう。

雅人は葵が好き、梓は雅人が好き。まだ葵がどう思ってるのか分からないが雅人との仲に否定的ではないのはこれまでの生活を見ていれば明白。

正直言って、梓の勝ち目は薄かった。


それ故に泣いてしまうのは仕方がないことなのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  甘酸っぱい! 非常に甘酸っぱい!!  会話でここまで甘酸っぱさを演出と共に、地の文が上手くなっているのがよく分かります。あ~、お姉ちゃん恋しちゃったかぁ~。良きです。 [気になる点]  …
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