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第4話 解決×お隣さん

「あれ?この人達知り合い?」

「赤嶺の仲間だって!」


詩音は葵を背に隠したまま仁の後ろに隠れた。


「赤嶺の?」

「そう!『おれ達と遊ばないなら赤嶺が殴りに来る』んだって!」

「赤嶺に嵌められたってことか?」

「そうとしか考えられないでしょ!タイミングよ!」

「古賀もそう思う?」

「…思いません」


俯きながら葵は精一杯声を出した。


「赤嶺くんが中学でなにをしたか私は知りませんけど、階段から転げ落ちても転びそうになった時も助けてくれましたから。いい人だと思います」

「それが頭を使った結果だとは考えないのか?」

「その…赤嶺くんは…頭が悪いのでそんなこと考える余裕なんてないはず…です」

「あー確かに頭悪そうだもんね」


本人がいないことをいいことに言い放題。

頭が悪いだの目つきが悪いだのと悪口を垂れ流しにした。


「なにお前、シャシャリ出てきてヒーロー気取りかよ」

「いや、オレはてっきり友達同士で話してるのかと思ったんだ」

「ならとっとと失せろよ。おれらはそっちの女に用があんだよ」

「でもな…買い出しの途中だしまた今度にしろよ」

「あんだとテメェ!女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!」


フロア全体に聞こえるような声で叫んだ。


「なに叫んでんだよ。怒ることないだろ。今日は止めてまた違う日だったらいいって言ってるのに」

「お前にその権限はないだろ?おれらの邪魔すんなよ」

「確かにそうだけど…2人を連れてって怒るのはおオレじゃないぞ?」

「ああ?誰が怒るってんだよ!先公か!先公に泣きつくのかだっせー!」


早口で捲し立て仁を煽った。

仁が最初に殴ればそれだけで免罪符が出来てやりやすくなる。

だが、拳で語ることが多い彼らは知らなかった。

人の話を聞かなさすぎて不良と呼ばれた男の本気を。


「教師が出て来たところでなんにもならないだろ。だってオレが問題の質問してるのにガン無視だしそれで分かんなくて周りに聞けばうるさいって注意されるし、じゃあ教えてって言えば自分で考えることも大切とか言って教えてくれないし…な?教師って役に立たないだろ?」

「なんの話だよ。気持ち悪りぃ。とっとと失せろって言ってんのが分かんないのかよ」

「オレも引くわけには行かなくてさー。怒られるんだ」

「誰からだよ」

「赤嶺から」


「時間稼ぎサンキュー」

「赤…嶺」

「久しぶりだな。全員無事退院出来たようで良かったよかった」


仁と男たちの間に雅人は立ち塞がった。


「テメェ!なにしに出て来やがった」

「買い物の続きだ。お前らこそなにしに来たんだ?また性懲りも無く玩具探しか?ご苦労なこった」

「うるせぇ!お前のせいで使ってた女がいなくなったんだよ!だから新しい女がいるだろうが!」

「それなら尚更コイツらはおススメしないぞ」

「あぁ!?んだと!」


「コイツの苗字古賀なんだよ」


それを聞いた瞬間男達の顔が一気に青ざめた。

雅人のみならずこの辺一帯の不良なら古賀の名前は知ってる。その古賀という苗字の人物には敵わないことも。


「今さっき電話したからすぐ来ると思うがどうする?」

「クッソが。死ね!」


小物らしい言葉を吐き捨てて男達はどこかへ行ってしまった。


「さすが現役不良。殴り合いになったらどうしようかと思ったぜ」

「6人相手に木刀なしに行けねぇよ」


一件落着したはずなのだが近くから発せられる敵意に雅人は敏感に感じ取っていた。


「神崎の視線が痛い」

「こんのクソ野郎が」

「お嬢様とは思えないほど口悪いな」

「あんた、さっきの人たちと知り合いなのよね」

「そうだな」

「アイツが言ってた。おれたちに反抗すると赤嶺から痛い目に会うぞって」

「嘘に決まってるだろ。相手の言葉を信じるなよ」

「だって本当に赤嶺のこと知ってそうだったんだもん」


「悪い、古賀。怖い思いさせた」

「いいえ。私は赤嶺くんが来てくれることとそんなことしないと信じていましたから。…これからも信じていいんですよね」

「勿論だ」

「よかったです」


葵はクリーム色の髪を揺らし健気に笑った。


買い物を済ませ帰り道。


「送る」

「赤嶺に送ってもらうとか逆に危険では?」

「なら仁に頼めばいいだろ」

「オレは護衛に向かないぞ?」

「居ないよかマシだろ」


詩音は仁が、葵は雅人が送ることになった。


「家ってどの辺?」

「ここからなら直ぐ近くです」

「なら俺とも近いな。俺もすぐだ」


「赤嶺くんは…お姉ちゃんからなにか言われましたか?」

「言われた。「アタシの妹を助けてくれ」だかなんだか」

「赤嶺くんはなんて答えたんですか?」

「最初は拒否した。けどあの人のお願いを拒否れるはずもなかった」

「無理はしないでくださいね?」

「してないから大丈夫」


足りない物を買って膨れたビニールを手に提げ帰路を歩いていく。


「ここですよ」

「え…ここって」


1週間前の朝に出会ったバス停から少し歩いたところに雅人が借りているアパートがある。

そして今葵が指している場所も雅人の住所と同じだった。


「この205号室が私の部屋です」

「俺204号室」

「あ、お隣なんですね。よろしくお願いします」

「おう」


雅人はぶっきら棒に返したが少し焦っていた。

雅人がここに越してきたのが入学の1週間前、大家さんと母親が仲が良かったために決まった場所だった。

葵がここに住んでいるということは茜もまた同じアパートの可能性が高い。

恩師が近くにいるのと同時にもし葵を泣かせた日にはその場で死刑執行される可能性もあるのだ。


雅人は考えるのをやめた。

ただクラスメイトがお隣さんだったと思うようにした。


帰ってきた葵はスマホ画面を見てニヤケ気味だった。


「赤嶺くんのラインゲットです…」


雅人が「なにか会ったら呼んでくれ」と言って交換した連絡先。

入学してすぐに数人の生徒と交換したが一切連絡は取ってなかった。

そんな中、一つだけトーク相手の名前のしたにメッセージがあった。


よろしくという。えらく事務的で無機質なメッセージであったが初メッセージをもらったのが嬉しくてたまらないのだ。

自分が不幸体質でそばに居たら怪我するかもしれないと知って尚側にいろと言われた時の嬉しさ。

葵が「私でも守られていいんだ」と実感した瞬間でもあった。


「葵ー」

「なにお姉ちゃん」

「雅人とはうまくやってるのか?」

「うん。すごくいい人」

「アタシが側にいられればいいんだけどこの頭じゃ教員免許とるのは無理そうだしな…ごめんな。不甲斐ない姉で」

「ううん。お姉ちゃんはお仕事頑張って。私も彼に捨てられないように頑張るから」

「もし、見捨てられたらアタシに言え?愚痴くらいは聞いてやれるから」

「ありがとう」


愚痴を聞いたあとに行く先は隣の雅人の部屋だろう。

そして次の日になったら都内の高校に通う男子高校生の撲殺死体が発見されることだろう。


「ありがとうございます。赤嶺くん」


姉に聞こえないようにポツリとそう呟いた。

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