第48話 生徒会選挙×『何も考えずに思ったことを口に出す現象』
夏休みが終わり、2学期最初の登校日。
「ねぇ...あの包帯なに...?」「夜中に河原で喧嘩したらしいよ...」「マジでやばくない?怖いんだけど...」「安田も巻いてるってことは安田と喧嘩したってこと?安田可哀そう...」
保育園での乱闘騒ぎから1週間半経過した今でも雅人と慧輝の包帯は取れず、見事に不良に返り咲いていた。
「なんでお前だけ被害者なんだよ」
「普段の行いだろうが。もっと愛想よくしたらどうだ。こんな風に」
隣を歩く慧輝は事情を聞きに来た女子生徒に向かって笑顔で対応した。
「安田君その傷通したの!」
「ちょっと転んでクローゼットの角にぶつけちゃって...それで運悪く頭ぶつけちゃって...」
コロコロと表情や声音を変えながら対応する慧輝を見て雅人はただただ感心していた。
「百面相め」
「世渡り上手と言え、赤嶺と違って臨機応変に動けるんだよ」
「俺は別に葵がいてくれれば生活できる」
「赤嶺くんもお料理出来なきゃだめですよ」
教室に行くと雅人と慧輝で印象がガラリと変わった。
「おー!また派手にやったな」
「なにしたらそんな頭に包帯まくことになるのよ」
「喧嘩したらこうなるだろ」
「その規模の喧嘩なんかしたくないわ」
いつものように仁と詩音が雅人と葵の元へとやってきて他愛のない話をする。
「で、バイトはどうだったの?」
「まあまあ、楽しかった」
「皆イイ子なので遊んでて楽しいですよ」
クラスは違えど保育園児ともなればまだ素直で可愛いものなのだ。
「で、バイト先でそんな頭から血流すような喧嘩したと?」
「ああ」
「ああ、じゃないでしょうよ。それでクビになったりしてないよね?ましてや葵を人質に取られたりはしてないよね?」
「...ああ」
「目見て話そうか」
「私は大丈夫だったので...また助けて貰っちゃいました...」
「ってことは人質に一回はなったってことかー。赤嶺、切腹はよ」
「誰がするか化け猫」
「脳のないお猿さんが」
「二人ともそこまでに...」
いつものなんてことない風景。
平穏な1学期と違い、雅人達は波乱巻き起こる2学期を迎えようとしていた。
☆
「2学期ってイベントめっちゃあるよな」
「学校に慣れて楽しめるからなど理由は色々ありますけど確かに多いですよね」
「2週間もしないうちに生徒会選挙だしその次は文化祭、競歩大会っていうただ歩くだけのイベントもあるしね」
「全部休んでも単位には響かないよな?」
「しっかり響きますよ?」
「生徒会選挙とか詰まんないだろ。誰か知らない奴がなったところで俺に影響は…ダメだ」
「なにが?」
「安田慧輝。アイツが生徒会長に立候補するとか言ってんだ。絶対に阻止しなければ」
雅人と慧輝は犬猿の仲、もし慧輝が生徒会長になったら正攻法で雅人を抑えることが出来る。つまり雅人の自由が減るということ。自由を愛する雅人にとってそれは致命傷となる。
「へー。安田が立候補するんだ。そしたら相手は梓先輩か」
「やべ…どっちにも入れなくない」
雅人からすれば慧輝も梓も自由を奪う敵となりうる。かと言って、雅人が立候補したとしても票が集まるわけはない。
脅せばいけるかもしれないが雅人は人の上に立つなんてこと、雅人自身出来るとは思っていなかった。
「生徒会選挙…出たくない…」
「なら出なきゃいいだろ」
夜、葵の部屋に集まって夕飯が出来るのを待っていると梓が机に突っ伏して弱音を吐いた。
「そうもいかないわよ…アタシ以外に生徒会長を出来る人なんていないもの」
「慧輝がなるってよ」
「入ってきた1年生に生徒会長が務まるわけないでしょう?務まったのは過去に1人だけよ」
「確か、霧咲天音先輩ですよね?」
「そう。持ち前の頭の良さと冷静な思考で1年生にして生徒会長になり3年生の引退までその座に座り続けたカリスマ。アタシは頭も良くなければ壇上に上がると緊張して声が出なくなるから…」
「ダッセー」
「全校生徒の前で喋るのよ!?どれだけ緊張すると…ああ、雅人は緊張しないわよね…」
言いたいことはハッキリ言う雅人のことだ。
例えそれが理事長クラスの人間でも言いたいことがあればオブラートに包むことなく言うだろう。
「雅人の性格が羨ましい…」
「本当にそう思うか?」
梓が思う雅人の性格。
・面倒くさがり
・朝に絶望的に弱い
・喧嘩っぱやい
・口悪い
・マイペース
・好意的な人には優しい
・無知
・バカ
・顔怖い
「…前言撤回するわ」
「それはそれで悲しいもんだな」
「その割には悲しそうじゃないですね」
雅人だって高校生、自分の短所くらい分かっている。…今梓が出したうちの『バカ』だけだが。
「相手が慧輝だ。絶対に勝て」
「雅人が応援するなんて珍しい」
「アイツが勝ったらなにされるか分からん。お前なら殴ればなんとかなると思ってる」
梓が思う雅人の性格に『無神経』が追加された。
次の日の昼休み。
雅人は梓の練習に付き合わされていた。
「どう?おかしなとこなかった?」
「胸が薄すぎる。わざわざサラシ巻くことないだろ」
「別に巻いてないわよ…天然のまな板だけどなにか文句でも!」
「色気ねーな」
「一回なら本気で殴っても許されると思うの」
「ならなんで俺を手伝いに選んだ。葵とか神崎ならもっとマシなアドバイスしたろうよ」
「雅人の目力というか眼光に慣れれば全校生徒の視線もなんとかなると思って…」
不良の雅人の目つきの悪さと言ったら折り紙つきだ。
ましてや、暗く壇上だけが照らされる会場なら尚更。梓はそれに慣れてしまえば視線が平気なると考えたようだ。
「なら同級生に頼めばいいだろ」
「そんな仲がいい人が居たらとっくに頼んでるわよ」
「ボッチか」
「…っく! 知られたくなかったのに…」
梓は頭良くないと言ったがそれは全国的なもので学校内のテストでは1位の成績だ。
ただ素直ではない性格と生真面目な性格が合わさりあまり好印象は受けられていない。
そのため、梓に同学年で友達と言える人は居なかった。
「もっと素直になれよ、性格を含めても梓は可愛いんだから…胸はないけど」
雅人からすれば何気ない一言。雅人特有の『なにも考えずに思ったことを口に出す現象』なのだが、梓からすれば嬉しさからか恥ずかしさからか顔が少し赤くなっていた。




