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第43話 アルバイト×似たもの同士

5日に渡る長いお泊り会が終わり今はもう夏休みも終盤よりの中盤だ。

日本はお盆シーズンで休める人は会社も休んでのんびりしている頃だろう。

そのためこの時期はどこでも人手不足となる。


そんな時に役に立つのは高校生など若い人手だ。

夏休みで特に用事がない雅人は人生初のアルバイトをしていた。


「おまえら...」

「ちょっと。お前じゃなくて皆。徹底してって言ってるでしょう」

「癖で中々抜けねぇんだ。気を付けてるから一々突っかかってくんな」

「ホントお前...先輩に向かって敬語使わないとか終わってるぞ」


ここは雅人のバイト先、しかも雅人は今日が初日なのだ。

コミュ力が高いとは言えない雅人が一日で他の人と仲良く出来るわけもない。

なら雅人に指導したり、雅人をお前呼ばわり出来るのは誰か。


「なんでお前らがいんだよ...」

「それはこっちのセリフだ。不良なんかに子供の面倒なんて見れないと思うが?」

「うっせ、犯罪者予備軍」

「おう。文句あるなら外でようぜ。久々にキレちまったよ...」

「1人でやってろ慧輝」


金髪に翡翠色の目。日本人とフランス人のハーフ、安田慧輝が保育園のエプロンをつけていた。

もう1人は、雅人のことを雅人と呼び立場は先輩、水谷梓だった。


「二人とも喧嘩しない。担当クラスが違うんだからいいでしょう」

「よくないですよ。先輩、こいつこの辺一帯で有名な不良なんですよ!子供たちに悪影響なんじゃ...」

「大丈夫。そのためにアタシが雅人と同じクラスを担当するから悪影響にはならないわ」

「子供たちが将来まな板に...」

「...」

「謝るなら今のうちだと思うぞ」

「1割冗談だからそんな睨むな」


雅人が言うと更に梓は眉間に皺を寄せた。


「10割冗談だから。機嫌直せって。園児の前でしていい顔じゃねぇぞ」

「一生恨んで呪い殺してやる」

「不適切な言葉は使わないようにしましょう」


雅人と梓が担当するのは小学校上がるまえの5.6歳の保育園の中ではお兄さんお姉さんの部類。

ゴールデンウィーク中に担当したのもこのクラスだ。


「今日はこの1週間皆と一緒に過ごす先生を連れて来たぞー」


茜が園児たちの注目を集めた。


「5月辺りに来た、赤嶺雅人だ。久しぶり!」

「まさとせんせい!」「せんせいひさしぶり!」「きゃー!」

「人気ね」

「ゴールデンウイーク中に一度だけ働かせてもらったんだ。茜さんの代わりにな」

「あの時は助かったぞー!」


茜が雅人の頭をガシガシと撫でた。


「皆初めまして。水谷梓です。皆と仲良く出来るように頑張るからよろしくね」

「慣れって怖いな」


保育園で上手くやるコツは園児たちとの立場を平行にすること。

先生でありながらお兄さん、お姉さんでありながら、友達であることがベスト。

だがそんなことが出来るのは俳優かN〇Kの歌のお兄さんくらいで高校生には難しい。

高校生にも出来るとすれば慧輝のように圧倒的なカッコよさで魅了するほかない。


「葵先生はー?」

「葵先生はいないんだよ。もし皆が願い事を書けば来るかもしれないぞー」

「七夕終わりましたけど?」

「あたしの妹だ。予定合わせしやすいからな」


先輩の先生がいないことをいいことにバイトを身内で固める気満々の茜。

今園内にいる大人は茜と御年80を迎える園長だけだ。

その他の大人はお盆で実家に帰っている。


「それじゃあお昼までは自由時間!遊ぼう!」


男児たちは雅人に群がり、女児たちは梓に群がった。


「雅人先生!外であそぼ!」

「梓先生は中で遊ぶ!」


腕を引っ張られバラバラになった。


「気を付けて。園児を殴らないように」

「うるせぇぞまな板」

「なっ!」

「ちび共に手ぇ出すわけねぇだろ」

「そうですか。少し安心しました」


外では遊具を使った遊びを、中では女子トークならぬ女児トークが行われていた。


「梓先生は誰がタイプ?」

「え?誰って?」

「慧輝先生と雅人先生!」


園内で一番年上ということはこういうトークもあり得るのだ。

茜が担当している3.4歳ならばまだ遊びに参加するだけでよかったが5.6歳ともなれば少しはませてくる。


「先生にはまだそういうのは分からないかなー」

「先生子供ー」

「あははは...」


小学生より下の子供というのは物事の良し悪しが分かっていない。

もしこの場でどちらがいいか話せば容赦なく慧輝か雅人のどちらかに喋るだろう。


「真奈ちゃんはどっちがカッコイイと思う?」

「私は雅人先生!」

「へーなんで?」

「笑った時が可愛いから!」

「それなら先生にもわかるかな」


子供のような屈託ない笑顔は梓からすれば可愛いと感じる。

普段無表情で笑うとしても片方の口角だけ上げる挑発的な笑いしかしない雅人が目を完全に閉じ歯を見せて笑ったらそれはもう可愛いのだ。


一方雅人は園児たちに振り回されてた。


「滑り台は順番に滑るんだぞー」

「あーい!」

「怜くん一緒に滑ろー」

「いいよ!」

「園児のカップルか...和むなー」


男女で一緒に滑り台を滑ったのを確認して周りを確認すると遠くで1人で砂遊びをする男児の姿があった。


「快斗、どうした?一緒に遊ばないのか?」

「いい」


快斗はそれだけ言うと砂いじりに戻った。


「なら先生に教えてくれよ。上手い泥団子の作り方」

「...なんでおれに構うの」

「先生もな、前までは1人だったんだ」

「嘘だ。慧輝先生とも梓先生とも仲良し」

「嘘じゃない。1人で遊んでたんだけどな。慧輝先生とも梓先生と遊んで先生は楽しかった。快斗も誰かと遊んだら楽しいかもしれないぜ?」

「...」

「ホント昔の俺を見てるみたいだ...ま、皆と遊ぶかは快斗に任せる。だが俺はここで泥団子を作る」

「...変な先生だな」

「ああ、よく言われる」


快斗と雅人は黙々と泥団子を作った。


「雅人先生なにしてるのー!」

「ん。泥団子だ。キレイだろ?」

「凄ーい!おれも作る!「私も!」「僕も!」


いつの間にか砂場には10人程度の園児が集まっていた。


「先生どうやってそんな上手く作るのー?」

「先生は分からないんだ。快斗に聞いてくれ」

「快斗くん!どうやんの!」

「っ!」

「なんだよ。睨むなって」

「先生...性格悪いな...」

「それほどでもー」

「えっと...泥取ったら乾くまで丸めるんだ。乾いたら土を落としてタオルで優しく拭く。強く拭くと割れるぞ」

「できないー!」

「なんだ出来ないのか。俺は出来たぞ」

「おとなげないー!」

「ははは。なんとでも言え!」


雅人が園児と遊んでいると茜から招集がかかった。


「そろそろお昼だから声かけ頼む」

「園児と打ち解けるの早すぎじゃない?」

「知能が同じなので当然と言えばそうですよ」

「テメェ喧嘩売ってるならここで買うぞ」

「当然のことだろうが」

「はいはい。2人とも喧嘩しないの」

「喧嘩ならあたしが相手になろう!」


茜が相手となればいくら雅人であっても引き下がるしかない。

勝てないと分かっている相手に武器もなしに挑む程雅人は馬鹿ではないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  雅人と慧輝の良いライバル感があって……やっぱり青春だし、王道だねぇ~。うん、控えめに言って最高。控えめに言わないで王。  梓もいいお姉ちゃんしてるし、本当の兄弟みたいで……。はっ、これは…
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