第42話 夏祭り×キス...?
夏祭りに来た雅人と葵は見事に詩音達とはぐれていた。
とは言っても地元の祭りで場所も分かるし集合場所も決めやすい。
「はぐれた」
「赤嶺くんがはしゃぎすぐなんです」
「祭りなんて小学校以来だ」
「中学まではやはり?」
「祭りなんか来て馬鹿どもと会ったらその場で殴り合いだ。来れるわけない」
「そうですよね」
「馬鹿にされてる?」
「いえ、そんなことないですよ。一緒に楽しみましょう」
葵は雅人の手を握り祭りを回った。
「赤嶺くん、射的は得意ですか?」
「苦手な方だな」
「意外ですね。運動神経がいいので得意なのかと思いました」
「エイム合わせんのがまず苦手」
「だからFPSとかシューティングゲームやらないんですね。でもイカはやりますよね?」
「あれはPSでどうとでもなるからボムあるしSSあるし」
そう言いながら雅人は射的の銃にコルク球を詰めて照準を定めた。
「なに欲しい?」
「ではあのボンタン飴を」
「余裕」
雅人は標準を定めると撃った。ボンタン飴の箱の中心より少し下に球が当たった。
飴はぐらついて後ろに倒れた。
「下手なのでは?」
「下手だろ?」
「…赤嶺くんは十分上手ですよ?」
「そうなのか。シューティングゲームが下手だったから下手だと思ってた」
その後も全ての球を菓子類に当て金額分は返上して射的屋を後にした。
「葵、そんな菓子食って大丈夫か?」
「大丈夫です」
「太るぞ」
「赤嶺くんにはデリカシーというものはないんですか」
「あったらいくつかの喧嘩はしなくて済んだかもしれない」
雅人が言うと葵は笑った。
「大丈夫です。お腹にはつかないので」
「そういえば胸ないな」
「…サラシを巻いて平たくしてるんです」
「へー。そんなになるのか」
「…あまり見ないでください」
「悪い。次行こうぜ」
平常を装ってはいるが微妙にミリ単位で口元が緩んでいた。
不良の雅人であっても誰かと一緒に夏祭りを回るのは楽しいものらしい。
足取りは軽くつい早足になってしまい葵を転ばせそうになる。
かくいう葵はナンパから解放された後から雅人の顔ばっか見ていた。
葵も誰かと祭りに来るのは久しぶりの事で舞い上がっているのだろうが、葵の場合単純な楽しさだけではない。
雅人が言ったあの言葉が頭から離れずにいた。
雅人の顔を見てその度に顔を赤くし視線を外すがすぐにチラ見をしては見つめるということを繰り返していた。
「せっかく祭りに来たんだ、面でも買うか」
「なんのお面にしますか?」
口元を隠したい雅人は正直なんでもよかった。
適当な理由をつけてお面を買いたかっただけである。
「俺はこの鬼の面にする」
「では私はこの狐の面にします」
「顔さえ隠せれば昔の馬鹿共と会うこともないだろ」
「そんな効果が…装飾品は厳選しないとダメですね」
「『潜伏』の装飾品だな」
そういうと雅人は面を前にして顔を隠した。
『午後8時より花火大会が開催されます。ご来場のお客様及び近隣住民の方はお立ち寄りください』
「花火大会だってよ」
「見ますか?」
「…折角だし見よう」
雅人の腕時計は7時50分を指していた。
花火大会が行われる河川敷には人が多くなってくる。だが2人が離れることはない。
なぜなら、手を繋いでいるから。しかも指まで絡めて。
「赤嶺くん?この繋ぎ方の意味は…なんでしょう」
「普通に繋いでたら逸れるかもしれないだろ。そのための繋ぎ方だ。」
「そうですか…」
勿論、雅人であってもこの繋ぎ方の本来の意味くらいは知っている。
だが雅人からすれば手の繋ぎ方に決まりはないだけで『指を絡める繋ぎ方=恋人』という方程式は雅人の中にはないとしてもおかしくはない。
河川敷の坂になっている場所に座り空を眺めた。
まだ花火は上がっておらず暗闇が佇んでいるだけ。
「神崎達見つかんなかったな」
「そうですね…端から端まで回ったつもりではありましたが…でもこの人混みなら仕方ないと思います」
「ラインで居場所は知らせたから大丈夫か」
スマホをポッケにしまうと横にいるお互いと目が合った。
実際は面をつけているためお互いの目線は分からない。
だがなんとなく目線があってるような感じがした。
花火が上がり空が明るくなるとお互いの面が照らされた。
「...どうかしましたか?」
「...面、とって」
「え、」
言うが早いか雅人は葵の面をずらした。
そして、自分の面もずらした。
そのまま顔を近づけて、唇が合わさらなかった。
「雅人ー!やっと見つけ!ぶな!石投げんな!」
「あんたね!折角いい所なのに!」
「お前ら...いつから場所知ってやがった」
「射的で遊んでるあたりからよ」
「はぐれた直後じゃねぇか」
「で?赤嶺は葵になにしようとしてたのかなー?」
「別に、面外したらまつ毛ついてたから取ろうとしらだけだ」
「その割には手は動いてなかったみたいだけどー?」
「そう見えなかっただけだろ、俺も暗くて本当についてるのかよく見たかったし」
「ちっ!追い込むには無理があるか」
雅人達の距離は友達同士でも中々ない距離だが雅人でも言い訳出来るほどの距離。
もしあの時に唇がくっつくかそれに近しい距離になっていれば言い逃れは出来ない。
はずだったのに、仁が出て行ってしまったからすぐに離れてしまった。
「一生恨むからね」
「そこまでのことかよ...あれだけ写真撮ったんだから充分だろ」
「馬鹿言わないで。証拠は多い方がいいでしょう?」
「女って怖ー」
詩音のスマホには雅人と葵の2ショットが大量に保存されていた。
葵のりんご飴を食べる雅人の姿だったり、雅人にタコ焼きを食べさせてもらってる葵だったりとシチュエーションは様々。
撮り方も雅人と葵だけにピントを合わせたプロ顔負けの撮り方だ。
それだけで詩音の執念が窺えるだろう。
「もしキスするつもりだったんだったら豹堂を殴ってね。邪魔したのは仁だから」
「そうねアタシ達はただ見てただけだから。殴るなら仁ね」
「まっさかー。雅人がそんなことするわけないでしょーな!」
「...ああ。殴らない」
「引っかかんなかったか」
これも詩音の巧妙な罠だ。
もしこの場で仁を殴ればキスしようとしていたと認めることになり今度こそ言い逃れ出来なくなる。
まあ、雅人の場合ウザいから殴ったでも通りそうではあるがそれを詩音たちが許すかは別だ。
雅人達が水面下で心理戦をしている横で葵は思考が停止していた。
雅人の顔が至近距離まで迫りキスされそうになったのだ。
(びっくりした...赤嶺くんの顔があんな近く...キス...されるのかと思った)
もやもやする葵だったがなにをしようとしたのかは雅人のみぞ知るところである。




