第41話 騎士×浴衣
夜になり男女で家を出た葵達女子陣は下駄で歩きにくい中、人混みを歩いていた。
「葵、はぐれないでよ。この中で探すの大変だから」
「わかりました。頑張ります…」
葵の歩幅に合わせて歩いていると前に男数人が道を塞いだ。
「なんですか貴方達」
「いやさ、おれたちも3人で回ってるんだけどさ、男だけだと寂しいわけよ。だから一緒に回らない?奢るからさ」
雅人と一緒にいてこういう連中と遭遇することが多くなっていて恐怖よりもめんどくささが上回っていた。
「うちらも男と待ち合わせしてるからいい」
「大丈夫だって!そんな男と一緒にいるより楽しませる自信はあるから! あ、友達に遠慮してるんだったら後で連絡してくれればいいよ。んじゃあ、メアド交換しよ」
「無理、キモイ。どっか行って」
「へこむなー。そこまで邪険にされるとおれらもキレちゃうだけどなー」
道を塞いでいた男たちが葵たちを囲った。
「おれらだって人間だしさ、そこまで拒絶されるとやけになるっていうかさ、ちょっとキレそうなんだよね」
「だからなに?ウチらそんなのより怖い奴と一緒にいるから知らないし」
「おい」
男が目配せしもう1人の男の手が詩音の後ろに隠れていた葵に伸びた。
葵は浴衣に下駄という逃げにくい服装。
相手はTシャツにスニーカーという動きやすい服装。
さらに葵は運動音痴なため逃げるのは絶望的。もしこの場で大声を出せば周りの人が気づくかもしれないが今の葵にはその声すら出せなかった。
〜♫〜♫
葵が持ってる巾着の中のスマホが着信を告げた。
葵は巾着からスマホを取り出し着信相手を見て目を輝かせた。
『もしもし、葵?今どこ』
「えっと、橋の近くです」
『俺も橋の近くにいるけど…』
「おい、誰と電話してんだ…」
葵のスマホを取り上げようと手を伸ばして掴んだのは葵の細い腕ではなく、太く血管が見えている腕だった。
「ん?お前誰。葵の友達?」
「こいつらがナンパして来ましたー」
「ほう…」
「なんだよ…おれたちはただ一緒に回る女子を探して…」
「ならとっとと失せろよ。こいつは俺のだ」
「…っ!行くぞ」
雅人がひと睨みするだけで男たちは人混みに紛れていった。
「ほんと赤嶺って便利ー。赤嶺と一緒にいるだけで防犯になるしー」
「いきなり走り出すからビックリしたぞ」
「葵を見つけたから走っただけだ」
「まあ頼もしい騎士さまだこと」
「騎士さまはお姫さん守ってればいいからさ、回ろうぜ」
「そうね。そうしましょう」
開始前に一悶着あったが集まった雅人たちは祭りへと繰り出した。
「うっし。なにから回るか!」
「最初は軽いものがいいわね」
「林檎飴とか綿飴からでしょ!」
「焼きそばでもいいだろ」
「軽いものって言ってるのにコイツは…」
「葵はなにか食いたいもんあんのか」
「…」
「葵?」
葵はぽーっと上の空で雅人の顔を眺めていた。
「あ、え…すいません。聞いてませんでした」
「なにか食いたいもんはなにのかって聞いた」
「えっと…林檎飴が食べたいです」
「んじゃ、そこまで行くぞ」
葵の手を取り進もうとする雅人だったが後ろから引っ張られた。
「どうした葵」
「あー。赤嶺、なにか言うことないの」
「言うこと?…暑いな?」
「はぁー。ダメねー」
「なんだよ…」
「雅人ー。オレだってわかるぞ。古賀をもう少し見てみ」
雅人が後ろにいた葵をマジマジと見る。
「あ、髪型違う」
「普段着ならそれで正解なんだけどね…」
「ああ!浴衣か」
葵の浴衣は薄い青の生地に濃い青で花が描かれた浴衣。
大人しい葵を表現するかのような落ち着いた浴衣。
「すげー似合ってる」
「語彙力しっかりしなよ…もっとあるでしょ」
「可愛い」
「そうじゃないんだけどなー」
「もういいですから!似合ってると言ってもらえただけで嬉しいですから」
顔を赤くしあわあわと手を振る葵。その度に青い浴衣が揺れ可愛さが増す。
「あ、林檎飴」
「マイペースが…」
雅人が林檎飴を買い、葵の口に突っ込んだ。
「体調悪くても食えば治る。俺もそうだったから」
「それは貴方だけ!熱あるのに3合分のお粥食べてるんだから!」
「葵。道は長いよ…」
「あい…」
「よし、次行くぞ」
葵の手を取り雅人は歩き出した。
「あっ!」
歩き慣れてない下駄で雅人の歩幅で歩いた葵は簡単に前のめりになってしまった。
片手には巾着、片手には林檎飴という状態で地面に手をつけない状態。
そんな葵の身体が宙に浮いた。
巾着を持つ片手を引かれ、次に葵が目を開けると雅人の顔が近距離にあった。
「悪い。葵が下駄なこと忘れてた」
「は、はい。私こそ足元見てませんでした」
雅人が下ろすとまた手をとってゆっくりと歩きだした。
葵の目線の先には前を向く雅人の顔があった。
そして葵の頬は赤くなっていた。




