第37話 お泊まり×風呂
夏風邪から復活した雅人はいつものメンバーで買い出しに来ていた。
「なあ、あとなにが足りないの?」
「えっと…食材と…あ、洗濯洗剤と歯磨き粉とコップとー」
「待て待てまてぇーい!移住するんじゃないんだからそんないらないだろ!赤嶺も探さなくていい!」
「でも男の子と女の子で分けた方がいいのではないんですか?」
「そうね。いくらでさえ、男女で1つ屋根の下なんだからそういう所は管理して欲しいわね」
8月の始め、神崎家に集まりお泊まり会をしようというのだ。
それと並行してゲーム大会も行われる。
「あのな。お前ら『必要な物』を買いに来たとか言ってたがさっきから余計なもの買いすぎだろ。まずお菓子!…これはいいとして、食材!そんなに入らないだろ」
「なに言ってんの?いるに決まってんじゃん。お菓子作りもやるんだから」
「え、これだけ買ったのにまだ作るの?」
「はい。赤嶺くんにも食べて貰いたいです」
「甘くなければ」
「雅人も異論はないみたいだけど?」
「数の暴力…」
仁が色々と異論を唱えたが全て数の暴力で押し切られる。
そもそも、女子達にこのお泊まり会の計画を任せた時点で異論など認められるわけもない。
全ての決定権は女子にある。その上、唯一発言権がギリギリある雅人も葵が止めているため使い物にならない。
まさに、四面楚歌状態。
「大丈夫。なにかあったらそれはそれで思い出になるから」
「そうです。まだ1年生になったばかりなんですから失敗を恐れる必要はないです」
「そうね。高校生のうちに楽しめることは楽しまないと損よね」
「女子達がポジティブすぎて怖い」
「同感」
必要な物+αを買い、神崎家へ移動する。
「一応お手伝いさんに片付けして貰ってるけどもし不便があれば言って。出来る限り応えるから」
「すげぇ…部屋提供してもらってなおかつ自分色に染めていいとか神か」
「ゲーム持ち込み放題だな」
「ゲーム持ち込むのはいいけど、アニメのポスターを貼ったりするのは止めてよね。剥がすの大変だから」
詩音はまるで経験したことがあるように言った。
「神崎ってそういう事してたんだな」
「なに?ウチだって結構アニメとか見るし。普通に高校生してるの」
「詩音さんのお部屋すごいですよね」
「そんなになのか?」
「はい。壁一面に…」
なにか言おうとした葵の口を詩音が塞いだ。
「葵ー?世の中には言わなくていいこともあるんだよー?」
「ふむ!もごもご!」
「葵が苦しそうだから放してやれって」
雅人が葵を奪うと葵は雅人の腕の中にすっぽりと収まった。
「あ…」
「身長差カップルー」
「あ?」
「オレが悪かった!だから頭を離し…あぎゃー!」
仁の頭を握りつぶした雅人は葵を解放した。
「悪い」
「いえ。赤嶺くんの腕の中、安心するのでいいですよ」
「そうか。なら良かった」
雅人は葵の頭に手を置き少し撫でた。
それに対し葵ほんの少しだけ顔を赤くし笑った。
雅人は少しだけ安心した。
雅人が熱を出した日、当然葵にもそのことは知らされその時に自分のせいだと葵は自分を責めた。
実際は泳げない葵を波が高く来る場所で1人にした雅人の自業自得なので雅人は気にするなと言ったが葵がその言葉で気にしなくなるほど単純ではないことくらいは雅人でも分かっていた。
だから、今笑った事に安心したのだ。
「はいはい。往来でイチャイチャすんな!葵はアンタのじゃないから!」
「神崎のでもない」
「はあ!?」
「あ?」
「ふん!葵がこの手中にある限りアンタはウチを殴ない!アンタの攻略法なんてとっくに分かってるってこと!」
「?そんなことない。殴ろうと思えば警察署の中だろうと殴るぞ」
「うわ!将来DVやるよ絶対!」
「葵…こいつ殴ってもいいか?」
「ダメです。挑発に耐える練習と思ってください。もし頑張れたらご褒美をあげます」
今にも詩音を殴ろうと拳を握りしめ高く上げていた雅人だったがご褒美の言葉を聞いてすぐにその拳を下ろした。
「単純ね。雅人って」
「殴って怒られるより我慢して褒美を貰ったほうがいいでしょ」
「完全に犬だな」
「まだ生きていたか。始末しなければ」
「嫌ー!」
わいわいと買い物をして炎天下、買い物袋を下げ神崎家へと向かった一行。
数十分して到着する頃には全員汗だくだった。
「男たちは先風呂入って」
「分かった」
「…残り湯…」
「赤嶺。その変態をこの泊まりの間見といて」
「分かった」
自分の部屋に荷物を置くと風呂の準備をして風呂場へと向かった。
「広ー風呂だなまた。っしゃオレ1番!」
仁がさっさと全裸になり風呂場へと駆けて行った。
男子高校生が2人が同時に入れる風呂ならば生半可な広さではない。
公衆浴場かというくらいの広さに仁が泳げるほどの大きさの湯船。
シャワーの数は10個以上あり、無駄に広さがあった。
「赤嶺ー。1つ相談があるんだ」
「なんだよ」
「オレ、この風呂に細工をしたい」
「なんの」
「カメラとか録音機器とか」
「いいんじゃないか?」
「あり?止めないのか?」
「まあ、見てろって言われただけで行動を止めろとは言われてないからな」
「赤嶺ー。いや、雅人。お前ならそういってくれると思ってた」
「ただバレた時は死んでも知らないぞ」
「大丈夫!この日のために超高性能の小型カメラ持ってきたから」
この仁の行動力には見習うべき点がいくつかあるが、見習うべきではない点が大量に見つかったため、雅人は目をつむった。
仁が意気揚々と上がり雅人もその後を追った。
仁がカメラを仕掛けたのは使われないであろうシャワーの周辺。
近づかなければ分からない程度の小型カメラで隠し撮りをしようというのだ。
「早くしろよ!女子達が入るぞ」
仁がパソコンを立ち上げカタカタとキーボードを打つと先程仕掛けたカメラの映像がパソコン
液晶に映された。
「おー!撮れてる撮れてる!あー、でも湯気でハッキリとは見えないな。湯気さん!今だけ休憩入ってもいいんですぜ!」
「楽しいか?」
「めっちゃ楽しみ。湯気が晴れたら女子達の裸体が丸見えなんだぜ?そそるだろ?」
「別に」
雅人はパソコンの画面よりスマホゲームに夢中だった。
雅人は中学時代に同級生の不良少女と恋人に近しい関係にはなったが行為自体には至らなかった。
当時の力関係は明白で、この場合、迫ったのは彼女の方で雅人は拒否したのだ。
性について知らなかったわけじゃない。だがその気になれなかっただけ。
それが理由でその人とはなあなあになっていき最終的には合わなくなった。
つまる所雅人は不良ではあるが性犯罪なわけでない。性欲が薄かった。
「おー!湯気が晴れる!」
だがその瞬間。カメラの視界が揺れ暗く暗転してしまった。
「ん。水気にやられたか?今回収出来ないから後で回収するか…」
「なにを回収するの?」
「カメラに決まって…」
そこまで言いかけて仁は異様な殺気に気がついた。
仁が声のした方をゆっくりと向くとバスタオル姿の詩音が額に青筋を浮かべながら笑顔で扉の前にいた。




