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第2話 お世話×護衛

自己紹介の日から1週間が経った。


その間、雅人は『お世話』の意味を考えてはいたが全く分からないでいた。

茜に電話しても出ず音信不通。


彼女、古賀葵は母譲りの明るいクリーム色の髪を肩口まで伸ばしていて、目元には赤縁のメガネをしている。派手な化粧をしておらず校則に引っかかりそうな制服の着方もしてない。着方に関しては雅人の方が注意を受けるレベルだ。

到底『お世話』が必要だとは思えなかった。

やや、断りきれず仕事を押し付けられがちではあるが雅人自身、自業自得だと思っている節があり特に問題視などはしなかった。


「古賀、これ職員室まで持ってきてくれ」

「はーい」

「雅人、お前もだ」

「完全に目、付けられたな」


葵2、雅人8の割合で授業で使ったプリントを職員室まて運ぶ。


「くっそ、なんで俺が...」

「少し持ちましょうか?」

「重いわけじゃないから別にいい」

「そうですか」


葵は姉に茜を持っていて不良というものを身近に感じている生徒だった。

そのため、雅人にも分け隔てなく接することが出来る唯一のクラスメイトでもあった。


「階段だから気をつけろよ。特に雅人な」

「そう思うなら半分にしろ」


口喧嘩をしながら階段を登っているとふと、横の景色がブレた。

そして、雅人が気づく頃には葵と共に階段下まで転がっていた。


「痛って...」


葵を庇って転げ落ちた雅人は全身の痛みで少しの間だけ動けなくなっていた。


「あの...大丈夫...ですか?」

「ああ、めっちゃ痛いけどな」

「ごめんなさい...私、不幸体質みたいで...お姉ちゃんにも何度か迷惑かけてて...それで...」

「なるほど...だからお世話...か」


そこでようやく合点がいった。

いくら妹と言っても高校生。

大抵のことは自分で出来なければこの先辛くなってくるのは茜も知っていた。

なのに、なぜ雅人に『お世話』と称して頼んだのか。


葵1人ではどうにも出来ないからである。


趣味がのんびりすることと言うように葵は運動がそこまで得意では無い。

そんな葵が階段などで足を踏み外した時にちゃんと受身を取れて無傷で居られるかと聞かれれば誰しもいいえと答えるだろう。


端的に言えば『お世話』という名の『護衛』ということ。


「あの...保健室に...」

「大丈夫だって、怪我もないし痛みも引いた」

「さすが不良、痛みには慣れてるな」

「お前のお姉さんの拳の方が何億倍も痛かった」

「でも一応保健室には行っておいた方が…」

「そうだぞ雅人、骨になにかあったら私の責任になるんだ。一応行っておけ」


渋々ながら仕事をサボれるならいいかと考えた雅人は葵に付き添われながら保健室へと向かった。


「本当にごめんなさい…」

「別にいいって。お前くらいの体重なら持ち上げられたはずだけど…態勢が悪かったな俺まで転げ落ちちまった」

「……」


雅人は努めて明るく話した。

実際大丈夫とは言っても人の体重が直接腕に来ているため痛いことには痛い。

ただ泣いたり叫んだりするほどの痛みではないというだけの話。


「あの…どうして助けてくれたんですか…?」

「別に助けたつもりはない。ただ手を伸ばしたら、たまたま届いて指が引っ掛かって転げ落ちただけだ」

「…」


雅人の言葉を葵は信じていないようだった。


「なんで足なんて滑らせたんだよ…なにも無かっただろ」

「不幸体質ってこういうものなんです。他の人が大丈夫でも私にとっては大丈夫じゃなかったり…そういう事が幼い頃からありました。お姉ちゃんにも色々迷惑かけたと思います」

「茜さんには迷惑にはならないだろ」

「迷惑になってますよ…私のせいで行きたい大学にも行けずやりたい事が出来てないんですから」


葵は今までの積み重ねて来たマイナスの感情で押しつぶされそうになっていた。

今日だけに留まらず小学校から中学とずっと怪我しそうになって時には実際に怪我をしたりもした。

自分が怪我をするならまだマシな方、自分を庇った、巻き込んでしまった相手が怪我するのが何よりも辛かった。


さっき階段から落ちたのだって本当なら自分が怪我をするはずだった。

だが怪我したのは雅人だった。



「他の人が怪我するのが何より辛いんです…」

「気にすることないだろ」

「気にしますよ!私のせいで誰かが死ぬかもしれないですよ!」

「そんなの回避出来ないそいつが悪い。どこからか落ちるにしろ、車に轢かれるにしろ受け身、回避方法はたくさんある。日常的に練習してる奴は少ないだろうが受け身回避をしっかり取れば割と軽傷で済むもんだ」

「で、でも…」

「でももくそもあるか。怪我して欲しくないならそれなりの努力をしろ。例えば、近寄らせないとか階段の時は必ず手すりを使うとか、色々あんだろ」

「それをしてもダメなんです。手すりが壊れてたりその場で壊れたり、人が居ない場所を探す方が大変なんです」


たしかに、昼間の学校の休み時間は人が居ない場所を探すのは大変だ。

昼休みなどであれば図書室など人が居ない場所が作ることが出来るが10分休みなどではどこに行っても人がいる。

だがこの高校に限り、10分休みでも人が好んで近づかない場所がある。


「なら休み時間、特に用が無い時は俺の所に来い。そうしたら守れるし他に怪我する奴が出ることもない。これで完璧だな」

「か、完璧じゃないです!それじゃあ赤嶺くんが怪我を…」

「古賀、日本にはこんな言葉があんだよ」

「?」


「死ななきゃ全て掠り傷っていうマジ強ぇ言葉がな」

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