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第27話 引くこと×恐怖の笑顔

3週間の体育の時間を体育祭準備に費やしついに当日がやってきた。


「赤嶺、今日はちゃんと寝てきたんだろうな」

「当然。外から人が来たりするんだ、葵を守らなきゃいけない」

「騎士みたいなセリフ言ってるとこ悪いが早速出番だぞ」


指差された方を見ると葵が先輩に絡まれていた。


「1年生だよね?おれたち3年なんだけどさ、おれの走り見といてよ。もしかして君も走ったりする?」「ちょwお前やめとけよw」「下心丸出しで草」

「あはは…」


声をかけられることも無かった葵は愛想笑いしかできなかった。

今回に限って詩音は近くにおらず葵1人であった。

先輩たちの視線はやはり胸に向かっていた。


「ほら、騎士様、行ってこーい」


仁に見送られて向かうと近づいただけで先輩達は気がついた。


「古賀、なにしてんだよ、行くぞ」

「おいおい横取りは良くないなー」「今おれたちと話してんだよ。お前はあとで相手してやるから今は引っ込んでろって」

「あ?」


お互いに睨み、葵を取り合う形となった。

それを少し離れた場所で仁と遅れてきた詩音が見ている。


「なに、どういう状況?」

「古賀が絡まれてたから迎えに行った」

「んで、殴り合い寸前まで行ってるわけ?」

「その通り」

「…葵を守るとか言っておきながら喧嘩したんじゃ意味がないってなんで気がつかないかな…」

「それしか守る術がないからだろ。今まで喧嘩三昧なんだから」

「そうだけど…」

「ま、オレ達がフォローすればいいだろ。こんな風に」


仁は睨み合う雅人達に向かって叫んだ。


「赤嶺ー!古賀ー!係の仕事サボってなにしてんだよ!先生怒ってたぞ!」


するとさっきまで睨み合っていた雅人達は睨み合いを止めて戻ってきた。


「悪い助かった」

「あんたは引く事覚えなさい」

「そうですFPSの基本ですよ!」

「古賀のは怒り方違うけどその通り」

「引くなと血が言っていた」

「血気使いでもないくせになに言ってんだよ」

「相手だって威勢だけなんだからいつものようにひと睨みして戻って来ればいいの」


仁と詩音は同じことを思ったはずだ。

『この2人は導いてやらないと脱線する』と。


体育祭がはじまり、最初の競技は50メートル走。

遅い者順から走って行ってそれぞれのクラスに得点が入る仕組み。

雅人は1番最後の華だ。


「アイツ死んだ目してるぞ」

「基本無気力だけど葵が絡まると目の色変わるよねー」

「ほんと。男って現金」

「先輩までオレを見ないでくださいよ…オレは紳士なので」

「変態紳士でしょ分かってるわ。…ゴミ屑」


心の中を見透かされ仁は地面に伏した。


「赤嶺くんって無気力なんですか?」

「無気力でしょう?そうでなければ部屋があんな大惨事になったりはしない」

「葵は実感ない?」

「私はあまり…」


葵と居る時は雅人は気力モードなためハキハキしている印象なのだ。

というよりはその印象しかない。


「豹堂が普通か少しうるさいくらい」

「せいせい!」

「ほらうるさい」

「たしかに豹堂くんと比べたら静かですけど…」

「アタシ達からすればそれが無気力なのよ」


雅人は無気力なわけではない。

朝に絶望的に弱いだけだ。それ故に無気力に見え無愛想に見えるだけなのだ。


「赤嶺くんの笑った顔って結構可愛いですよ?」

「え、アイツ笑うの?」

「笑うでしょ。こう目大きくして口角あげる笑い方」

「魔王笑いか…それならオレも見たことあるぞ」


2人の雅人のイメージは魔王らしい。暴力で全てを解決しようとするあたりは当てはまるのかもしれない。

逆に葵のイメージは魔王でも優しい魔王だ。子供に優しくニカッと笑う。そんなイメージ。


「違いますよ?赤嶺くんは笑う時は目は閉じますし口角も上がりませんよ?ウィンクも出来ませんし可愛い人ですよ?」

「ん、待てウチら赤嶺の話してるよね?」

「はい」「ああ」

「なんでイメージ違うの」


人によってその人のイメージが違うなんてよくあることだが、この3人に限っては家に行ったりラインで通話する仲なのだ。

それなのにも関わらずここまでイメージが違う。

雅人が葵にだけ心を開いている証拠でもある。


「…疲れた」

「赤嶺。お前笑ってみろ」

「あとウィンクも」

「あ?なんで」

「見たいから」

「別にいいけど」


『ギギギ…ギギ』というSEが付きそうなほどぎこちなく笑った。

『ギロ』という効果音がつきそうな程怖い目つきをした。


「悪い赤嶺、怖いからもういいぞ」

「指名手配の張り紙にありそうな顔してる」

「急に言われたらそうなるだろ。なんでそんな話になる」

「葵には笑った顔見せたりしてるのにウチらはまだ見たことないから」

「俺だって面白ければ笑う。豹堂達の前で笑ったことだってあるだろ」

「挑発的な笑いならな」


意識して笑う人は少ないだろう。

それは雅人も同じことで意識して笑っていないため、その場で笑ってと言っても怖い顔にしかならないのだ。


競技は進み、葵が出る玉入れが始まった。

高校生用に5メートルと高くしてあり、そう簡単には届かない。

だから接戦も接戦だったし見ていて面白かった。


「っしゃら!」


男子生徒が下投げから強めの玉を投げると惜しくもポールに当たって跳ね返った。

負けじともう一度投げると玉は下から籠を押し上げる形となり玉入れの籠全体が揺れた。

そして転がった玉を踏んだ籠は倒れた。


「葵!危ない!」


詩音が叫ぶが急な出来事に葵は動けないでいた。


生徒控え場所から葵の場所までは約40メートル。

雅人脚に力を入れ、競技中ということも忘れて葵の元へと走った。

ポールが葵に当たる直前、葵の体は横から引っ張られ葵の目の前をポールが過ぎて行った。


「…古賀。怪我は」

「ない…です」


葵は今、雅人に抱きかかえられている。

お腹に腕を回され大きめの人形を抱えるようにして抱かれている。

脚は宙に浮いていて雅人がどれだけ力があるのかを物語っていた。


ポールが倒れたことにより競技は一時中断されたがすぐに再開された。


「お疲れ、騎士さま」

「古賀って…軽いんだな」

「そりゃあの体格だもん。不思議じゃないでしょ」

「でも赤嶺が片腕で持ち上げられるって軽すぎだろ。強風吹いたら飛んでっちまいそうだな」


未だ腕に残る軽さを雅人は感じていた。

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