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第25話 話し合い×盲点

「では、話し合いをしましょう」


葵の部屋にて、正座で座っていた。


「まず赤嶺くんは...どうしたいですか?」

「俺は古賀を守りたい。どんな怪我をしても」

「それは私が嫌です。誰にも怪我して欲しくないです」


やはりお互いの間で矛盾がしょうじていた。


「....一つ聞いてもいいですか?」

「ああ、いいぞ」


「私は赤嶺くんと一緒にいてもいいんですか?...甘えてもいいんですか?」


葵の内心はドキドキだった。

これを聞いたことによって幻滅されたかもしれない、離れていってしまうかもしれない。

そんな感情が支配し、口に出したことを後悔した。


「いいに決まってるだろ」


ぶっきら棒に呆れた口調で到底落ち込んでいる女子を元気付ける声とはほど遠いがそれは、葵が1番望んでいた返答だった。


「俺はそんなに頼りないか?」

「いえ、そんなことは…」

「なら問題ないな。あ、あと、相手があからさまに否定しないんだったらとことん漬け込め。否定しない相手が悪い」

「それで嫌われるのは嫌じゃないですか」

「嫌われたくないなら聞く。今みたいに…ん?」


雅人は自分で喋っているうちになにかに気がついたらしい。

葵は葵で顔を真っ赤にして俯いた。


「古賀… お前…俺のこと信じてくれてたのか」

「へ?あ、はい。勿論です」


気がついたまでは良かったが自頭の悪さが裏目に出てしまった。

嫌われたくない。ということは少なからずどうでもいい人とは思ってないわけである。

雅人はそれに気がつくことが出来なかった。


「葵のお陰で俺の悩みも同時に解決できた」

「赤嶺くんにも悩みが?」

「ああ、俺が一緒にいても良いのかっていうちっぽけな悩みがな」

「そこは分かるんですね…」

「ん。なんだよ」

「なんでもないですよ。ただお互いに同じことで悩んでたんだなって思っただけです」

「そうだな。最初から確認しておけば良かった」


安堵からか自然と笑みがこぼれた。


「…あのー。お取り込み中?」


声のした方に視線を向けると梓が玄関の隙間から遠慮がちに覗き込んでいた。


「もうこんな時間…夜ご飯作りますね」

「あ、別になにか話があるのならアタシは自分でやるから…アタシが作ればいいだけのことじゃない。古賀さんは雅人と話してなさいな」

「なあ、こいつにも意見聞いてみないか?」

「なに?相談なら乗るけど?」


梓は初めて先輩らしいことが出来ると内心ワクワクしていた。


「怪我しないで階段を落ちたい」

「…はぁ?」

「赤嶺くん、その説明で分かる人はいないと思いますよ…?」

「ダメか。先輩だから分かるかと思った」

「こういう時ばっか先輩扱いなのね。で、どう言うこと」

「私がよく階段で足を踏み外して怪我してしまうので赤嶺くんが助けてくれていたんですが、赤嶺くんが怪我をしてしまって…私は怪我をして欲しくなくて…」

「なにを悩んでいるの?今まで通り、階段で手とか繋いでいればいいだけの話じゃないの?」


盲点すぎる意見に2人して言葉を失った。

そう、雅人が背中を強打したのは葵が雅人の手を払ったからであって普通に手を繋ぐなり腕を掴むなりしていれば落ちることはなかった。


「え、なに。アタシ変なこと言った?」

「先輩らしいとこ見せられて不満を感じている」

「先輩らしいと感じたなら敬語はどうしたのお猿さん」

「1回先輩になった程度でイキるなよブスが」

「…ほんと貴方は…まあ…先輩だから!優しく許してあげるけど!」

「怒りで包丁が持つ手が震えてんぞー」

「古賀さん、刺してもいいかしら?」

「だ、ダメです!」


今にも包丁を振り下ろしそうになっている梓を葵が止めた。


「では、赤嶺くん…階段ではよろしくお願いします…万が一、怪我をした場合は隠さず言ってください」

「わかったよ」


お互いの悩みが解決され、解決策を出された2人の合意は早かった。


翌日。


「お前ら、イチャイチャすんなよ…」

「お熱いこと…」


お化け屋敷でもない場所で女子が男子の腕に抱きつくというのはないだろう。

街中でやってる人たちがいる場合は、近くのスーパーで生卵を買い、全力投球しましょう。

すると、怒られます。


「しょうがないだろ…てか体勢キッツ…」


葵の身長に合わせると中腰となってしまう。

そのため、階段をおり終わるまでは雅人は半空気椅子状態となる。


「すいません…」

「謝ることはねぇ。俺がしたくてしてることだ」


正直に言えば、雅人が葵を抱えて降りた方が断然速いし安全ではあるが、場所が学校ということと葵が拒否したためこのような状態となっている。


「こんなんで体育祭出れんのかよ…」

「大丈夫です…玉入れとか借り物競争とか安全なものに出ますから」

「俺はなにも出たくない」

「なに言ってんの?あんたは50メートル走と学年対抗リレーに最低でも出るでしょ。てか出ろ」

「確か学年で一位だっけ?50メートル走」

「手抜いたつもりだったのに…」


陸上部を退け1位となってしまった雅人。

日々、陸上部顔負けの逃走劇をしていれば自然と筋肉もつくし体力も出来てくる。

その生活を3年続けた結果だった。


「ま、頑張んなさいよー」

「手抜いて走ってるの分かったらお前…分かってるな?」

「俺に拳で勝てると?」

「まっさかー。古賀さんからお叱りの言葉が贈られます」

「本気で怒りますからね」


雅人は背筋がゾワっとする感覚に襲われた。

姉の茜の殺気を浴びてもビビらなかったのに妹の含みのある笑みにはさすがの雅人も戦慄した。

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