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第20話 保育園×問答無用

葵達とゲームしたその日の夜。

雅人の元に一本の電話がかかって来た。


電話の主は恩師の茜だった。


「お疲れ様です。どうかしましたか?」

「いやな。明日、用が出来ちまってさー。かと言って仕事をあけるわけにもいかなくてさー」

「...俺に代わりに行けと?」

「そうなるな。頼んだ。場所はあとで連絡するから」


後に送られてきたのは見覚えのある場所だった。


そして、その場所に行った結果がこれだ。


「びええええん!ままー!」

「うぎゃー!」


一言で言うならば阿鼻叫喚の地獄絵図。

詳しく説明するならば、園児の涙の大合唱。


「どういう状況だよ...」

「茜さん、子供たちから人気でねー。今日来れなくなったのを悲しんでいるのよ」

「赤嶺くん?どうしますか?」

「子供は苦手なんだよなー」


茜から押し付けられた仕事は、近くの保育園の園児の世話だった。

本格的な世話は教育免許が必要だが簡単な手伝いだったら高校生で教育免許を持ってなくても出来る。

今雅人達がいる保育園は雅人も過ごした保育園だ。


「お姉ちゃんの用ってなんでしょう...折角のお仕事を開けてでも大事なようって...」

「総会のことだろ」

「総会?」

「ああ、この辺り一体を占めるヤンキーが集まって集会するんだよ」

「大丈夫なんですか?」

「んああ、内容だけ聞けば物騒だが、茜さんと同じ年齢まで不良やってる奴はいねぇよ。ただ朝から酒飲んで現状を報告し合うって会だ。ま、茜さんが高校生の時はそれなりにやってたみたいだけどな」

「そ、そうですか...安心しました」

「それはそうと..どうするよコレ。姉の真似できないか?」

「あ、えっとー。お、おい!お前、焼きそばパン買ってこい!」


不良ではない人が不良のふりをするのは無理があると改めて思った。

詩音ならもっと上手く出来たのだろうが葵ではせいぜい悪ぶってる可愛い不良だ。


「悪い、無理させた...」

「悪いと思ってるなら笑わないでください!」

「その順応性には敵わないわー。古賀に不良の才能はないわ」

「最初からわかってたことじゃないですか」


葵が拗ねて前を向くと園児たちが目を輝かせて雅人達を見ていた。


「せんせいたち、すきすきどうしなの?」


雅人が子供は苦手と言ったのはここだ。

雅人達くらいになれば遠慮して聞けなかったりすることでも問答無用で聞いてくる。

そして噓は通じない。

純粋無垢の眼差しは悪属性の雅人は効果は抜群なのだ。


「そうだぞー。俺達は仲良しなんだぞー」


子供、特に保育園など小学校上がる前の子供には友達以外の概念が薄い。

下の年代、同年代なら友達、それより上はせんせい。という人間関係の未熟さが目立つ。


そして、なにより厄介なのが雅人達上の年代の関係にも及ぶところだ。

仲が良ければ好き。そうでなければ嫌いという好きか嫌いかの二択しかなく。

肯定すればわいわい騒ぎ始め、否定すれば保育園児なりに空気を読もうとする。


「赤嶺くん...私のことそんな目で見てたなんて...」


園児並に純粋な葵にも影響が出ていた。


「園児に言ったことなんて真に受けるなって」

「わ、分かってます。私なりの演技です!」

「そうかよ。合わせてもらって悪いな」

「大丈夫です」


園児と遊んでお昼を食べた。

お昼の後は園児たちはお昼寝の時間だ。


「やっと寝た...」

「大変ですね...個性が多すぎて手が回らないです...」

「茜さんがいつもこの子達を1人で相手してるんだよ」

「流石のカリスマ性」


雅人のような不良達をまとめ上げるだけのことはある。

約40人程のクラスだがそれを1人でまとめ上げるのは並大抵のことではない。


「今日急に来れないって言われた時はびっくりしたけど2人も入ってくれてよかった。もし茜さんが休んだら今日わたし1人で面倒みなきゃいけない所だった」

「それは...苦労って程度じゃすまないな」

「でしょー?それに茜さんの妹さんが来るって言ってたから安心出来たわ」


保母さんは嬉しそうにしていた。


午後からは親が迎えに来るまで自由に遊ぶ時間だ。

外でボール遊びをしたり中でおままごとをしたりと自由。


「雅せんせい!こっち!」

「葵せんせいはこっち!」


雅人と葵もそれぞれ男女で遊ぶことになった。


男子は外でドッチボール。女子は編み物をしているようだ。

高校生にとって保育園児の投げたボールなど例え野球をやっていたとしても驚異ではない。

投げられたボールは雅人の腹あたりにぶつかった。

さすがに本気で投げるなんてことは出来ないため下投げの山なりボールを投げた。


「せんせいだっせー!あたってないぞー!」


この頃から彼らは挑発を覚えていた。

レベルまだ低くく防御も攻撃手段もないのに相手の攻撃力をあげるのはお手の元という。


「じゃあ本気を見せてやる」


そのレベルの低い挑発に乗る高校生がここにいる。


園児の尻に剛速球を当てた雅人とは逆に女子達はその光景を部屋の中から見ていた。


「葵せんせい!葵先生は雅せんせいのどこが好きなんですか!」


無邪気な子供の攻撃は容赦ない。


「えっと...かっこいい所とか?」

「どこがカッコイイと思いますか」

「優しいところ...かな」

「どこが優しいの?目、怖いよ?」

「ねー。あと声が低い」

「目が怖いのは生まれつきだから言わないで上げてね」

「うん。さっき言ったら少し落ち込んでたからもう言わない」


手遅れだったようだ。


「でもせ、たかくてかっこいい!」

「あと、笑うとかっこいい!」

「この年からおませさんなんだね...」


だが共感も出来た。

雅人は高1で180㎝の身長で普段笑わないが面白ければちゃんと笑う。その笑った時の顔が女性的にポイントが高いらしい。


今日一日で2人が学んだことは1つ。


子供は怖い。ということである。

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