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第17話 許し×お帰り

「で、どうするんだい?君が犯人だっていう証拠はこのレコーダーだけだよ」

「何言ってやがる。警察に突き出す」

「んー。突き出したとこでなにも変わらないと思うけど。校庭でバットなり木刀なんか持って生徒を殴ったりしてた後輩と違って、彼は言っただけだ。例えこのレコーダーがあったとしても罪にはならないよ。せいぜい停学がいいところさ」


仁を蹴ったあの2人は暴力を振るったという事実がある。

だが慧輝には物的証拠はない。今この瞬間に慧輝がレコーダーを壊したらそれで物的証拠は無くなってしまう。

それほどに脆い証拠なのだ。


「僕としては、入学早々に退学者を出すのは控えたいんだ。世間体のこともあるしなにより1年1組の関係が悪化するのはよくないからね」

「生徒会長はどうするのがいいと思ってるんですか?」

「さあ、それは彼次第さ。ここにいる全員を殺して永遠に逃げ続けるか、1番の被害者である古賀さんに許して貰えるまで謝り続けるかだね」


慧輝がどうするのかは慧輝次第。

謝るのが嫌なのであれば学校を辞める手段もある。

そして、慧輝が取った行動はこうだ。


「古賀さん。申し訳ない。到底許されることじゃないのは分かってるけど一言謝らせてください。おれの私怨に巻き込んですいませんでした」


慧輝は葵の前で土下座をした。


慧輝の話によれば、中学時代に雅人と殴り合いの喧嘩をしたが見事惨敗。

雅人が同じ高校にいることを知って雅人に恨みのある先輩を使って事件を起こしたというのが真相であり動機。


「…安田くんのしたことは許せません。…ですが生徒会長、レコーダーの録音を消していただけませんか?」

「本当にいいんだね?」

「はい。お願いします」

「はい。消し終わったよ」

「ありがとうございます」

「古賀、本当にいいのか?1発なら殴っても許されるくらいのことをしたんだぞ。おまけに人に押し付けようとしてよー。俺なら人前に出すのが恥ずかしいくらいの顔にしてやるけどな」

「骨格変わってんじゃねぇかよ」

「一回ビンタしたいですが…ブレザーを押さえてないと落ちちゃうので…詩音さん。お願いできますか?」

「ウチでいいの?葵の怒りを表すなら赤嶺が適任だと思うけど」

「いいんです」


1年1組の教室からパンッ!という乾いた音が暗い廊下に響いた。


「ウチからは言うことなし」

「俺も1発殴りたいんだけどー。ダメですかー」

「お前じゃ殺すからだめだ」

「大丈夫。顔の骨ボキボキになる程度すむ。死ぬよかマシだろ」

「死ぬか顔面崩壊かの二択とか究極すぎるだろ」


詩音のビンタから張り詰めていた教室の空気が少し緩んだ。


「さあて、1年1組の諸君。事件も比較的平和な解決が出来たところで帰宅の時間だ。直ぐに帰れる生徒から帰るといい」


担任の号令によりゆっくりと鞄を持って教室を出て行く。


「葵はウチが送り届けるからアンタ達は先に帰って」

「え、送るけど」

「あんたね…葵今上裸同然なんだから大人しく帰って。それともあんたがパトカー乗る?」

「詩音さん…そこまで酷くないです。ブラウスのボタンが切れてしまっただけなので明日からのGW中に直せばいいだけですから」

「んじゃ。先に帰るけど、なにかあったらすぐ呼べ。飛んでくから」

「はい。分かりました」


「葵さ。なんで安田のこと責めなかったの?」


詩音は素朴な疑問を口にした。


「お姉ちゃんだったらどうするかな…って考えたんです」

「そうしたらああなったと?」

「はい。赤嶺くんがお姉ちゃんと出会って変わったように私も人を変えられるようになりたいと思ったんです。お姉ちゃんは赤嶺くんと喧嘩して殴られてそれでも許しました。私はまだ未熟なので許すことは出来ませんでしたが彼を責めないことで人の道から外れないようにしました。人は誰しも一度は間違いを犯してしまうものなんです。それを正せるかは周りの環境が大切だとお姉ちゃんに教わりました」

「心広すぎでしょ。もうちょっと怒ってもいいと思うよ?ブラまで外されたんだから」

「それはそうですが…」


葵としては雅人が教室まで助けに来てくれた時点で慧輝に対しては然程怒っていなかった。

教室に残った先輩1人を1発で昏倒させ助けだしてくれた雅人を見た瞬間葵は安心しきっていた。


教室に縛られた状態の葵に雅人はまず謝った『守れなくて悪い…』と。

学校中を走り回った雅人の息は上がっていたし肩で息をしていたし額には汗も浮かんでいたし悔しさで掌からは血が出ていた。

そこまでして自分を探してくれた。そこがまず嬉しかったし葵のために怒ってくれたのも嬉しかった。


「省エネ過ぎるでしょう。もっと我欲を持ちなさい」

「欲は人並みにあるつもりですが…」

「全然足りない!不良で使い勝手がいい赤嶺がいるんだから。色んな所連れてって貰えばいいよ。赤嶺の金で」

「出来ないです…赤嶺くんだってお母さんからの仕送りで頑張ってるんですから無駄遣いするわけには…」

「我欲がない」


そう話しているうちに葵が住むアパートに到着した。


「へー。結構新しめの場所なんだ。いいじゃん」

「大家さんとお姉ちゃんが仲良しで快く入れてくれました」

「ここまでくれば大丈夫かな。一応あの馬鹿にも連絡しときな」

「はい」

「それじゃあ。また明日」


葵と別れて詩音は帰路につくが後ろから耳を疑うことが聞こえた。


「あ、赤嶺くん…今帰りました」


なんと、葵がドアに向かって雅人の名前を呼んでいるではないか。

詩音は大急ぎで引き返して葵を背後に庇った。


「ああ、おかえ…なんで神崎までいる」

「あんた…葵の隣で住んでんの?」

「ん、まあそうだな」


その言葉を聞いて詩音は息を飲んだ。

詩音はまだ完全に雅人のことは信用していない。不良で今回の件の引き金となった雅人を危険視している節がある。


「信じられない…なんでアンタが…」

「葵、飯作れそうか?もしダメなら俺が作ってもいいけど…」

「大丈夫です。だいぶ落ち着きましたから…梓先輩呼んでおいてください」

「分かった。出来るだけ静かにさせる」


「なにこの新婚みたいな会話。嫌だ…認めたくない」

「なに騒いでるのよ…あ、帰ってきたんだ」


玄関先で騒いでいると眠気眼をこすりながら梓が出てきた。


「飯の時間だ。準備しろ」

「えっらそうに…貴方が作るんじゃないのに…」

「しかもハーレムまで築き上げてるなんて…赤嶺、恐ろしい子」

「アタシをこんな奴のハーレムに入れないで貰えるかしら」

「そうですよね。こんな一般教養のないお猿さんは嫌ですよね」

「まったくね」


たった一言会話しただけで絆が出来上がる素晴らしさ。

ただ雅人の面子は丸つぶれであるが。


詩音は同志となった梓に葵のことは任せて安心して帰っていった。


「あ、2人とも。おかえりなさい」

「ただいまー」「ただいまです」

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