第14話 独占欲×失踪
4月も終わりを迎え明日からゴールデンウィークから始まるという日。
生徒の多くは明日からの短期休みを楽しみにしていた。
かくいう雅人もその1人である。
初めて友人と過ごすゴールデンウィーク。去年までは家で1人ゴロゴロして呼び出しがかかれば出かけるという生活をしていた。
茜の下についてからは呼び出しはなく平和な日を過ごせている。
「豹堂、古賀見てないか?」
「ん?さっきまであそこで安田と喋ってたけどな…どこ行ったんだろ」
「なにか避けられるようなことしたんじゃないでしょうね」
「してない」
「ほんとー?」
「多分」
「そこは言い切れよ…。古賀なら一緒にいた女子にでも聞けばいいんじゃないか?」
「そうする」
「あ、でも…行っちまった」
「ま、現実を見るべきよ」
雅人が談笑している女子の側に立つと今まで笑っていた女子達から笑顔が消えた。
「…古賀ってどこ行ったか知らね?」
「えっと…」
「古賀さんなら慧輝と資料室に授業で使う資料取りに行ったよ…」
「そうか。悪いな邪魔して」
雅人が立ち去ると女子達は安堵に息をついた。
雅人が来た時には自分達が何か気に障るようなことをしたのではないかと心配になったようだ。
「んで、どこだって?」
「安田と資料室…」
「偉く不機嫌ねー。もしかして安田に葵を取られるのがそんなに嫌?」
「嫌っていうか…嫌」
「大丈夫だろ。安田なら古賀とくっついても幸せに出来る」
「俺が生理的に受け付けないから無理」
「あんた基準で考える必要ないでしょうが」
2人とも雅人のいう生理的に受け付けないの意味がわかっていない。
雅人はどちらかというと人の好き嫌いは緩やかな方だ。来るもの拒まず去る者止めずなため基本的には誰とも話す。
そんな雅人の嫌いは本当に危ない奴だろう。
だがまあ、雅人自身が危ない奴であるがために仁も詩音も信じていない。
しばらくして慧輝と葵は資料を抱えて帰ってきた。
所々のプリントが折れてることから途中で落としたか葵が落ちて慧輝が庇ったかのどちらかだろうがおそらく後者だろう。
それを証明するように葵は慧輝に向かって何度も謝っている。
「すいません…私不幸体質で…」
「へー。それは大変だね。ならおれが色々と手伝おうか?」
「あ、いえ。赤嶺くんに手伝ってもらってるので大丈夫です」
「そう…っか。なら仕方ない。でももし赤嶺に酷いことされたらおれを頼ってよ」
「はい。ありがとうございます」
葵は笑顔を慧輝に向けた。
「赤嶺?オレのほっぺ引っ張るの止めない?めっちゃ痛いんだけど!」
「不機嫌になっちゃってー」
「うるせぇな…」
「そんな葵のことが気になるの?」
「言っただろうがアイツは気に食わないって」
「だからって敵視することないじゃない。安田もいい奴だしあんたよりよっぽど安全でしょ」
あれこれやってきた過去があるだけに雅人は言い返せなかった。
そしてついに葵が消えた。
「葵どこ行ったんだろ…トイレにも居なかったし…あ、ちょっと!」
雅人は真っ直ぐ慧輝の元へと向かってそのまま胸ぐらを掴んだ。
「古賀をどこにやった」
「…おれを疑うのか?おれだって真面目に探してるんだ。おれとしては赤嶺の方が怪しいけどな」
「あ?どういう意味だ」
「不良のお前がすることだ。監禁ぐらいしそうなもんだけどな」
「んなことするか。したらこの首飛ぶ」
首が飛ぶというのは比喩表現ではなく実際にそうなる。
得物はチェーンソーか鉈か、一撃で終わることがないのは確実。
いくら怖いもの知らずの雅人と言えど、茜の妹を監禁しようなんて考えない。
だが今までの実績があるためにクラスメイトの疑惑は雅人に集まった。
「白状するなら今だと思うぞ。今ならおれが味方になってやれる」
「悪いが、やってないことを白状出来るほど器用じゃねぇ。俺を疑うなら勝手にしろ」
「逃げるのか。逃げればこの気不味い雰囲気から逃げられるもんな」
「テメェ…今なんつった」
「逃げるのかと聞いただけだ」
元々負けず嫌いな性格の雅人を挑発に乗せるのはひどく簡単だった。
「逃げんじゃねぇよ。探すんだよ」
「それが逃げだっていうんだよ。探すふりして実際は逢いに行くんじゃないの?」
「テメェ…いいかげんに!」
「はーいはい。喧嘩はなしで頼むよー!」
今にも殴り合いを始めそうな雅人達の間に仁が入って喧嘩を阻止した。
「クラスメイトが居なくなってるんだから喧嘩してる場合じゃないでしょうが。お互いにそこ考えなさいよ。挑発に乗るから楽しいのはわかるけど …」
「いや、おれは本気で疑ってるよ。不良の言葉を信じろという方が無理だ」
「好きに言わせておけば…いい気になりやがって…」
「うお!こいつ力強!」
葵が見つからないまま帰りのHRが終わった。
「赤嶺。校内はウチらが探すから家見てきて。あんたなら知ってるでしょ」
「…分かった」
雅人は自転車に跨り自分のアパートまで飛ばした。
もしこれが車なのであればスピード違反で止められるだろう。
結果として葵は家に帰っていなかった。
スマホで詩音にいないとの連絡を告げ学校へと引き返した。
「クッソ、電話に出るわけ…ないよな…」
葵の電話にかけてみても鳴りはするが出ない。
雅人は学校に戻って葵を探した。




