大学生活(妹)
(この話は主人公の妹、世継 曜和の視点でお送りします)
今日もいつものように朝が来た。
そして部屋の様子を見て私は落胆をした。
またお兄ちゃんだ。
そう心の中で呟いた。
私はお兄ちゃんの言うように社交的な人間では無い。
ごく普通の人間だと思っている。
お兄ちゃんが卑屈なだけだ。
もうちょっと明るくして欲しいのだがそれは本人の持っている物なのでどうしようもない。
最近は諦めかけている。
私たち兄妹は特殊な関係だ。
それは私たち以外理解しようがないものだろう。
私たちは入れ替わり症だ。
入れ替わり症とは原因はよく分かっていないが双子で生まれた者のごく一部は魂が安定せず肉体に定着しない。
定期的に私たちの場合は1日おきにだが体が入れ替わる。
同性の一卵性双子の場合、体が入れ替わっても何の問題も無いと思う。
但し、私たちの場合は異性の一卵性双子だ。
小学校の時はなんとか誤魔化して中身が入れ替わっているのを分からないようにしていたが思春期に入るとそういう訳にもいかない。
中高はお互いの素性がバレないように男女別の学校に行った。
と言っても体が入れ替わっているのはしょうがなかったから綿密に連絡を取り齟齬が出ないようにした。
と言ってもやっぱり齟齬が出る。
それは性格の違いだ。
クラスのみんなによるとどうやら明るい私と暗い私が存在していたらしい。
私は体調のせいだと繕っていたがクラスの何人かは私以外の誰かだと感づいていた。
そう深くは追求されなかったが。
さて、今日の惨状だ。
まずは服だ。
今の私はほぼ下着の姿だ。
いつもはパジャマを着て寝ているのに。
そして部屋の散らかりよう。
どうやら夜遅くまで古典の勉強をしていたよう。
そしてお兄ちゃん愛用の百人一首。
お兄ちゃんはいつも行き詰まると百人一首の札を読み込む癖がある。
そのおかげで百人一首は宙で言えるのだそう。
私は全く興味が無いのでそれらのことは出来ないが。
そういえば友達が言ってたけど百人一首にめちゃくちゃ強い時とめちゃくちゃ弱い時があるよねと言っていたっけ。
今は関係ないけど。
お兄ちゃんは片付けない癖がある。
今はその百人一首が床一面に散らばっている。
それでいて一枚でもなくなっていると怒鳴り込んでくるから厄介だ。
私は女の時、部屋の片付けから入る。
ていうか毎朝、片付けているような気が。
いい加減、しっかりして欲しい。
一通り片付けが終わった後、私は六法全書を手に取った。
一応、これでも検察官志望だ。
世の中、犯罪者が多い。
私はこの手で犯罪者を裁きたいのだ。
もちろん、裁判官でもいいのだが別にこだわりはない。
私は毎朝、六法全書を読み込むことから始まる。
それに集中しようとした時お兄ちゃんが怒鳴り込んできた。
「今日の講義の本がないんだけど」
私はお兄ちゃんの部屋に行き、数学の本を探し出した。
そうすると、お兄ちゃんは
「悪いんだけど、いつも起きると僕の本がなくなっているんだよね。
決まった場所に置いててくれるかな」
私は
「だったら散らかさないでよ。
私たちの体はお互いの体でもあるんだから。
つまり、私たちの部屋は共同の部屋になるんだからそっちがしっかりしてほしいものね」
いつも起きると滅入っちゃうんだから」
もちろん、私たちは別々の部屋で寝ています。
そして体が毎日入れ替わります。
と言うことは寝る部屋と起きる部屋が必ず違う部屋になるのです。
「それにいつも行っているけど私の専攻は暗記科目。
朝のこの時間は貴重な時間なの。
邪魔しないでくれる。
それでいても1日おきの大学の授業、ついて行くのも大変なんだから。
昨日は化学だったし」
私たちが厄介なのは入れ替わった時、趣味趣向が違うと言うことだ。
私は普段、法学部で法律を勉強している。
でも男の時は化学を専攻している。
不思議なのは異性に変わっている時の科目には一切興味を持たないこと。
つまり、今の私は化学は一切興味が無い。
ていうか、理科全般が苦手だ。
そしてお兄ちゃんも同様。
つまり、私たち兄妹は2人で4人の人格を持つことになる。
ちなみにお兄ちゃんも同様だが異性になっている時の記憶はあります。
もちろん、お兄ちゃんの記憶はありませんが。
大学に来ると友達から授業の写しを貰う。
そして、友達から昨日の授業のレクチャーをして貰って1日を過ごすことになる。
「そういえば昨日別のキャンパスであなたを見かけたけど」
「それは私で有って私ではないの。
その証拠に声をかけても気づかれなかったでしょ」
いつもこのやりとりをしてているような。
もちろん、友達には入れ替わり症のことは言っている。
しかし、いまいち理解していないように思える。
「あ、そういえばレポートを忘れていた」
「え、そんなのあったっけ?」
「明日、化学のレポートを提出しなければならないの。
ただでさえ、興味の無い無機(化学)。
今からレポートを作成しなきゃ。
でも次の授業も出なきゃ行けないし」
「じゃぁ、私が代返しとくよ」
「そういう訳にはいかない。
一年だって落第ギリギリだったから。
授業は必ず出たいの。
1日おきにしか出れないけど。
あ〜、今日は徹夜だわ」
「ところで入れ替わり症のことなんだけど寝て入れ替わるって言っていたけど寝なかったらどうなるの?」
「あ〜、それ私も気になってやってみたことがあるのだけど午前0時になったら強制的に寝落ち。
気がついたら入れ替わっていたわ。
まぁ。あれね。
シンデレラみたいなものかしら。
午前0時になったら変わっちゃうっていうね」
「シンデレラってそんな話だったっけ」
いまいち私の例えが伝わらないようだった。
それでも深く考えない天然の友達、民西 商菜。
私の大の親友です。