大学生活(兄)
今日は久しぶりの男子としての登校日。
うちの大学は月曜日から金曜日まで授業がある。
土日が休みで今日は月曜日。
僕は毎日規則的に変わるので先週男子として学校に通ったのは火、木の2日間。
月、水、金は女子大生として別の学部に通っている。
性別はさっきも言ったように規則的に変わっている。
男子だった次の日は女子。
女子だった次の日は男子。
この規則性は生まれた時から変わっていない。
それと僕たちの性別の入れ替わり方は変わっている。
それは妹と体ごと入れ替わるのだ。
魂が入れ替わるように。
そしてなぜか本来の性格は変わらないのに妹の体の時は趣味嗜好が変わってくる。
ただそれが日常なのだから今まで疑問にも思っていなかったけど。
だから大学に通う時は一応別人格ということになっている。
妹も同じようなことを言っていた。
故に妹と2人で4重人格と言うことになる。
ややこしいが。
僕は木曜日ぶりの男子としての登校。
僕の行けなかった日は妹が僕の体を使って他の学部に行っている。
教室に行くと
「よう、おんり(僕)、久しぶりだな」
と声を掛けてくる人物がいる。
僕の親友のだいすけだ。
詳しく言うと親友の名前は内角 台介。
高校の頃からの親友。
高校卒業と同時に僕の体質を打ち明けた人物でもある。
「あのときのことは本当にビックリしたよ
でも合点もいった。
なぜなら日によって性格が違うから。
別の人格ならと納得もしたよ」
今でも彼はその事をよく言う。
「でも羨ましいんだぜ。
だって女の子の世界には入れるならいくらでもイヤらしいことが出来るじゃん」
「そんなことはないよ。
なぜか女の子になっている時は女の子の思考だし。
男の思考のままならイヤらしいことを考えるけど実際はそんなこと考える暇もないし」
僕がいつもそう反論すると彼はそれを茶化してくる。
偏見を無くすためにも根気強く言い続けるしかないが。
「今日の一限って何?」
僕はだいすけに聞いた。
「今日の一限はお前の好きな幾何Ⅰだよ。
その次は代数Ⅰ。
午後は解析のⅠ、Ⅱだよ。」
「悪い、ノートを見せて」
何しろ、先週は授業に出ていない。
ノートを見ることでしか授業を理解することが出来ないのだ。
もちろん、ノートだけじゃ済まない場合直接教授に聞きに行くことになる。
それが面倒くさいからノートだけでなんとか理解しようとしているのだ。
幸い、だいすけのノートは非常に分かりやすい。
高校時代もめちゃくちゃ助かった。
何せ僕が高校を休んでいる時の妹ノートが散々だったからだいすけのノートは余計にありがたみが増す。
この大学には僕たちだけの特別ルールがある。
うちの大学は代返がバレようものなら即その教科の単位を落とすという非常に厳しいシステムになっている。
しかし、僕らは毎回授業に出れない。
体の性質上。
だから僕たちに限り代返が許可されている。
最初は辛かった。
なぜ僕たちだけに許されるのか。
生徒はおろか教授たちからも白い目で見られた。
だからまず教室で大演説をした。
僕たちの体の事情を。
教授たちにも個別に説得までした。
それくらい僕たちの体質は特殊だから。
その甲斐もあって今では何も言われなくなった。
それどころか教授や教室の人たちから気遣いまでされている。
ちょっと申し訳ないが居心地は悪くない。
ちなみに女子としても今年から通っているのだが去年の運動が学校中に知れ渡り何の説明もすることなく普通に通えている。
昼頃、僕とだいすけは学食に向かった。
学食には僕の彼女のきおりがいた。
正確に言うと彼女の名前は解川 季折。
もちろん僕の体質を知っている。
出会ったのは大学に入ってからだが。
僕は
「きおり、今日授業出ていなかったけど単位大丈夫かよ」
「あ〜、ごめんごめん。
今起きたところでさ。
今が朝食兼昼食。
午後からは授業出るから。
あたし、朝弱くてさ。
それに数学苦手だし」
「じゃぁ、なんで数学科に入ったんだよ」
「その時は数学が好きだと思ったのよ。
でも大学の数学って証明、証明ばっかだし。
あたしは計算が得意なの。
10桁掛ける10桁なんかは一瞬なんだから。
計算の授業をやって欲しいわ」
彼女は自称人間電卓。
それが発揮できなくて不満なのだ。
「ところでさっきから何をやっているの?
ラーメンを食べながら」
と彼女は聞いてきた。
僕は
「明日の講義の用意だよ。
体や人格が変わっても僕が授業受けることには変わらないからね。
明日の現文Ⅰや古文Ⅰのレポートをまとめなきゃならないから。
食べながらで行儀も悪いけどこの時間しかないから」
と僕は答えた。
「それにしても僕は国語が苦手なんだよ。
特に暗記科目。
本を読むのも苦手だから頭クラクラするよ。
現代文は一冊本を読んでレポートしなきゃいけないし古文に至っては書いていることに意味が分からない。
よく女の僕はこれを理解できるな。
人格は一緒でも趣味嗜好が違うから本当に大変だよ。
って言うか女の時にやっておけよって感じ」
「へぇ〜、性別が違うと性格も違うんだ。
でも人格が同じなら知識も同じなんじゃない?」
と彼女が聞いてきた。
僕は
「確かに知識は同じだけど興味のないことに知識を引き出したくないって言う感じかな。
とか言いながら女の時の知識も結構役立ってはいるけどね。
苦手な古文も一応スラスラ読めるし」
そんなこんなで僕たちの昼休みは終わった。
午後からはまた数学の授業。
解析の授業は計算が多いので彼女のお気に入りでもある。
さて、明日は性転換して文学部に通う。
女の時の性格は違うが人格は同じ。
女の時は古文が大好物だ。
しかし、古文の訳しにいつもダメ出しが入る。
明日はそのダメ出しがないことを祈る。