第八話・選択
目の前には白い髪に蒼の混じり毛を持つ『男』がいた。
ここは既に二度来たことのある、あの何もない空間だ。
「セルシオ。いや、蒼の天使……
お前は許さねぇ」
蒼夜はセルシオに詰め寄り、胸ぐらを掴み睨み付ける。
「ぐっ、蒼夜、お前に何したっていうんだ!」
「とぼけてんじゃねぇぞ!蒼の天使、つまりお前が俺を乗っ取ってたんだろ」
「勘違いだ!俺はお前の自我を失わせるような真似はしない!」
セルシオを掴んでいた手を放し、突き飛ばしてバランスの崩れたところにすかさず蹴りを打ち込む。
「どういうことか説明してみろ」
「元々天使ってのは、神の手駒だ。本来あるべき、その神に忠実な状態にする為に精神に干渉される」
セルシオは倒れていた体を起こし、立ち上がった。
「その精神に干渉したのはお前じゃないと?」
「そういうことだ。神によるこの干渉から逃れる術は一つ、」
「自分の否定……か?」
一瞬何故それを知っている?!という驚きの表情の後に、セルシオは話を続ける
「そうだ。自分の否定、それは神に干渉されていることの否定にもなる。」
「で、何でお前は俺を蒼の天使にした?俺が俺でない時、紫に追い詰められたあのとき、俺に能力を使わせたことで、完全に蒼の天使になったんだ」
「紫?紫の天使のことか?お前がいつ追い詰められたんだ?」
そのセルシオの態度で、巻き戻した時間は自分の記憶以外、全て無かったことになることを思い出した。
まさかセルシオまで影響するとは思わなかったが、とりあえず乗っ取りの犯人が分かり、結果的には問題ないからこの事は無かったことにする。
「いや、今のはやっぱいい。気にしないでくれ。結局お前は味方ってことでいいんだな」
「…………」
不完全燃焼のような、割りきれないセルシオを背に、俺は現実世界へ戻った。
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記憶ははっきりしている、セルシオのいる記憶の空間に入ったのは、動けなくなった夜空をおぶってクロノスの屋敷に戻る途中だった。
あの後の会話で、夜空が屋敷で病弱扱いされていた、エリシアの言っていたレイちゃんだということが分かり、一旦薬を取るため屋敷に戻ることとなった。
脱走して、のうのうと帰ったら殺されかねないが、夜空を捕まえにいったとなれば話は別だろう。
数十分で屋敷に着いたが、何故か妙な胸騒ぎがした。
「なんというか、妙な雰囲気を感じないか?」
背中におぶっている夜空は周囲を見渡す
「蒼夜くんと同意見だけど、なんだろう、」
そのまま玄関の壮大な扉を開けると、その先には悲惨な光景が繰り広げられていた。
壁や床一面に突き刺さるナイフ、そして大量の弾痕と抉られたような傷跡があちこちに繰り広げられていた。所々血が飛び散った後があり、シャンデリアには、見覚えのある金髪の少女が体の一部が欠けているような状態で吊るされていた。
「まだお客さんがいらっしゃいましたか……」
冷たい感情のこもった、ねっとりとした声が背後から聞こえ、次の瞬間夜空を横に投げ捨て、自分は前に飛び込む。
「クソヤロウめ……」
背後から奇襲をかけたのは、ひたすらに狂気しか感じないような男、紫の天使だった。先程まで立っていた場所は抉られており、その傷跡は死を示していた。
「逃げるぞ夜空!」
投げ捨てた夜空の腕を掴み、引き寄せて抱き抱えて、広間同様の惨劇の跡を残す廊下へ走り出す。火事場のバカ力とやらで、背後から迫る蛇のようなものから必死に逃げる。紫の天使の視界から外れたところで角を曲がり、なんとか蛇からの追跡を巻くが、曲がり角の先で何かにつまずいて転ぶ。咄嗟に自分が下になるようにして、夜空を守る形で転ぶ。
「嘘だろオイ……」
つまずいたそれはクロノスの死体だった。
それに気がついた次の瞬間、どこからか声が聞こえた。
「蒼夜!聞こえるか!蒼夜!」
その声は、セルシオのものだった。
「いいか!お前は蒼の天使じゃない!お前は蒼夜だ!だが、能力は使えるだろう!蒼の天使の能力だ!」
蒼の天使、時間逆行。それなら二人を救える。しかし、夜空との出会いを失いたくない。今の夜空とは二度と会えなくなる、
「夜空、俺は…………」
つづく
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