第三話・『蒼の天使とエリシア』
蒼夜の正体がエリシアから明かされます!
目の前にある振り子時計以外あたり一面何も無い空間。俺はそこに立っていた。
「蒼夜……」
どこからか声が聞こえる……
「聞こえるか……蒼夜……」
「………………」
この声は一度聞いたことのある声だ。そう、幻聴で聞いたあの声だ。
「誰だ……」
幻聴で聞いた声の主に初めて問い返してみた。
「私は『セルシオ』、またの名を零次。
蒼夜、君に助けられた者だ。」
そこで、意識は突然途切れた。
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「起きなさいボロ雑巾」
頭上から罵声を浴び、横腹を蹴り飛ばされる。
「あれ……?」
視界に広がっていたのは振り子時計以外何も無い空間では無かった。洋風な部屋の中に自分はおり、床の上で眠ってしまっていたようだ。
「床で寝ているなんて、マナーもなっていないようね。雑巾として使ってやろうかしら」
エリシアは寝起きでまだ意識が朦朧としている俺に罵声を浴びせてくるが、昨日のそれとは違った怒りも敵意もこもっていない、冗談に近い声だった。
昨日クロノス邸に到着した後に、俺はエリシアに攻撃された。その後俺はこの部屋へと案内され、クロノスはエリシアを説得してくれた。
今日は、クロノスの提案で二人は仲を深めて貰いたいとのことで、エリシアと二人で買い物に行くことになっている。
「今急いで支度するから部屋の外で待ってて」
彼女の機嫌を悪くしないよう、出来るだけ早く着替えて支度を済ませる。服もほとんど全て新しい物を用意してもらった。
貧民街での、それこそ『ボロ雑巾』のような服から、新品の綺麗な服へと着替えて部屋の外で待つエリシアの元へ向かった。
「準備出来た?」
部屋の外で待っていたエリシアは、なんだか機嫌が良さそうだった。
「支度は全て済ませました」
さっきは寝起きで意識が朦朧としていたが、目が覚めた今は昨日のことをはっきり思いだした為に、最大限警戒をしてエリシアに向き合う。
「そんなに警戒しないでよ、昨日は少し感情的になってただけだから。ごめんね」
「え、あ、はい。」
エリシアからの意外な一言に驚く。あれだけ敵意と殺意を向けられた上に、殺されかけた相手だ。今じゃそんな気配は微塵も感じられない。
「じゃあそろそろ買い物に行こうか」
エリシアはそう言い、クロノスに挨拶した後に出発した。
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蒼夜とエリシア、二人で近くの村まで買い物へ行く途中、エリシアは自分はしばらく外へ出して貰えなかったことや、クロノスの変な行動などを蒼夜へ話した。相変わらず言い方はキツイが、これが彼女の性格なんだろう。
そんなエリシアを見て、蒼夜は彼女の言うとおり『警戒する必要は無い』と思った。
「昨日とは別人みたいだな」
こんなこと言ったらまた機嫌を悪くするかもしれない。
自分でもそう思ったが、自分はもう『エリシアを警戒していないという』ことを証明する為に、そう言った。
「そうだよね……しっかり話しておかないと」
少し躊躇いを見せた後にエリシアはそう呟いた。
「粗大ゴミ、じゃなくて蒼夜。
『蒼の天使』があなたの可能性がある。」
「え?」
突然の事実に驚くと同時に納得がいく。昨日あれほど敵意を向けられたのは、俺がクロノスやエリシア達『禁忌』の敵だからだったのか。
「ショックだろうけど続けるよ。昨日、あの後クロノスと話したの。
あなたが『蒼の天使』であることはほぼ100%間違いないけど、まだあなたは『因子』を発現していない。
どういうことかって言うとね、『因子』を完全に制御出来なければあなたは自我を失い私達の敵になる。
でも『因子』を制御できれば、先代の『蒼の天使』零次のように、禁忌とも仲良く出来るの」
衝撃の事実の連発で、思考が追い付かない。
『因子』の発現と自我の消失、そして先代の『蒼の天使』が禁忌を持つクロノスやエリシアの仲間だったこと。そして、零次と言う名のこと……
「昨日、あなたの目には『希望の光』が見えなかった。自我を失った天使と同じような目をしていたから攻撃したわけ。
言い訳になっちゃうけど、昨日のことは反省しているの。本当にごめんね」
「いや、いいよ。昨日攻撃された原因は俺にもあるし。
だけど何故攻撃されたか分かって良かった。ありがとう」
エリシアと仲良くなるというクロノスの気遣いは、見事に上手くいったようだ。お陰で何故攻撃されたのか分かった。
「ところで気になるんだけど、禁忌と天使は対立してたんじゃ……?」
「世間では、そう言われているかもしれないね。でも本当は禁忌の中でも天使以上に対立している関係もあるし、それは天使達も同じ。
零次やクロノスは、自我を失った天使や悪人が持つ禁忌を倒してきたの。」
おそらく俺にこの話をする罪悪感で暗い表情をしていたエリシアだったが、少しだけ明るい表情で微笑んだ後に話を続ける。
「私もね、零次に自我を失った天使から救われた一人なの。彼やクロノスに憧れて、私は今クロノスの元で修行しているわけ。」
エリシアが話していた途中、突然声をかけられて話は中断された。
「禁忌の屋敷のエリシアちゃんだっけ?
久しぶりだな」
どうやら村の住民らしい風貌の顔の赤い中年太りの男が荷馬車の上からこちらに手を振っている。
「あれね、薬屋のトマトジジィ。今日の買い物の目的はお薬だからちょうど良かった!」
駆け足で荷馬車に近づきなにやらトマトジジィとやらと会話するエリシア。
「また太った?そろそろ出荷されるんじゃない?」
「相変わらず酷いこと言うねぇ。心にグサッとくる。」
先ほどから真面目なエリシアと話していたため、いつものエリシアを見て何故かほっとした。
「トマトジジィ、いつものね」
「また零次さんの娘かい?具合悪いイメージあんまり無いんだけどな」
「レイちゃんは元気な時は元気だからね。
多分具合悪いのは禁忌の代償だし」
トマトジジィから薬を貰ってエリシアは戻ってきた。
「零次の娘って?」
「ああ、レイちゃんね。屋敷にもう一人いる禁忌術者だよ。零次の娘だからレイちゃんって呼んでるんだけど、具合悪い時があるの。これはその薬」
「そうか、帰ったら挨拶してみようかな?」
「それがいいかもね、
だけど粗大ゴミだから嫌われたりしてww」
「粗大ゴミって……酷いこと言うなww」
村でエリシアおすすめの団子を買って食べながら帰路についた。
つづく
本当はこの後まで書きたかったんですけど、予想以上に長くなっちゃったんで今回はここで終わりです!
今回はほのぼのした展開のみでしたが、次回はほのぼのから一変します。
あと、毎週金曜日と土曜日、余裕があれば日曜日に小説あげていこうと思うのでよろしくお願いいたします!