第二話・クロノスと術式
前回、蒼き夜から救われ、クロノスから基礎的な魔法の基礎知識を学んだ蒼夜。
今回は天術と禁忌の説明と、屋敷編の始まりです。新キャラとクロノスの能力がちょこっと出てきます!
朝日がテントの中の蒼い髪の青年と赤い髪の老人の枕元を照らす。
「ふぁぁぁぁぁ…………」
蒼夜は伸びをした後に、隣の今起きたばかりの恩人に視線を向ける。
「おはようクロノス、今日もいい天気だな」
「おはよう、老人は夜更かしなんてするもんじゃないな。朝から頭が痛い」
クロノスは起き上がると同時に寝る前に展開した結界を解除する。
昨晩は、クロノスから『天刻術式』、通称『天術』のこと、そしてそれと対をなす『禁忌術式』について教わった。
天術は『紅、橙、黄、緑、蒼、紫、白』の七人の天術使いこと『天使』、禁忌は零から十二までの『禁忌術者』が、それぞれ一つずつ術式を所持している。
天使と禁忌術者は、常にお互いを滅ぼそうとしており、天術や禁忌は普通の魔法とは比べ物にならないほど強力な能力を所持しているため、以前大規模な天使と禁忌術者の衝突が起こった際は、世界の実に四分の一が廃墟と化した。
故に天使も禁忌術者も人類から恐れられ、避けられている。
更に、貧民街を滅ぼした人物は『蒼の天使』であり、『第四禁忌術者』のクロノスは蒼の天使をずっと追っていたらしい。
クロノスはそれの説明に熱心になり就寝が遅くなったのに、他人のせいにして朝っぱらから文句を言っている。
「蒼夜、昨日の話は覚えているか?」
「天術と禁忌のことか?」
「それもそうだが、術式についてだ」
昨日クロノスと、普通の魔法の使えない俺にでも使える魔法てある『術式』を教わる約束をしていた。
はっきり言って、天術や禁忌の説明に熱心になりすぎて、忘れられたかと思っていた。
「てっきり約束忘れられたかと思いましたよ!クロノス先生!早く!やりましょう!」
「お、落ち着け……」
「それで!どんな!術式を?!
火?水?雷?風?それとも回復とか?」
「…………」
「強化……術式……でいいか…………?」
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「もう一日……ここで寝ることになるとはな…………」
蒼夜の熱意に押しきられ、結局クロノスは一日集中講義を行うことになってしまった。
予定より一日分遅れが……
「ぜんっぜん魔法使えない……」
蒼夜の方もこっちはこっちで落ち込んでいる。
ひたすら同じ文字列、模様を覚えて、それをぐにゃぐにゃ曲がる不安定な魔力で描く。
一日集中講義をしても覚えられない。それほど難しいのが術式というものらしい……
「教えることは全部教えたからな……あとは自主練あるのみだ……」
「いつになったら出来るようになるんですかね……」
二人して燃え尽きて、ぼーっとしている。
「寝る。もうやだ……」
クロノスは布団に潜り込んで呻き声をあげ始めた。その呻き声は、「教えるなんて無理」を連呼しているように聞こえた。
「練習練習練習練習練習」
一方蒼夜は何かに取りつかれたようにひたすら術式を描いている。
翌日の惨状は言うまでもない。
そんな調子で一週間後、無事?クロノスの屋敷にたどり着いたのだった。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「今帰ったぞ!」
クロノスは玄関の扉を押し開けながら、今までで一番の大声で言い放った。
「なにこれ……」
思わず本音が口に出てしまうほどだった。
屋敷の玄関は広間になっており、壁にはいかにも高価な絵画や骨董品、ピカピカに磨かれた大理石の床に深紅に金をあしらった絨毯、天井は吹き抜けでシャンデリアがぶら下がっていた。仕舞いには広間の中央には、何故か噴水が…………
話に聞いていた屋敷と全然違う……
「何?このボロ雑巾は?」
背後から声が聞こえたと同時にローキックが飛んできた。
「痛ってぇ……」
振り向くとそこには制服のような姿の金髪青眼の少女がこちらを怒りの眼差しで睨んでいた。物理攻撃では飽きたらず、その少女は更なる暴言を言い放った。
「何でこんな野郎がここにいるの?!じっちゃん!どういうこと?こんなボロ雑巾なんて燃えるゴミにでも出せばいいのに!」
「エリシア、暴言はよせ。私が拾ってきたんだ。手出し口出しは無用だ。」
突然怒りの対象となり、攻撃と共に暴言を受けて、全く状況が理解出来ない。
「じっちゃんが殺さないなら私が殺る。どいて」
素早く銃を取り出したエリシアと呼ばれる少女は、殺意と共に俺にその銃口を向けた。
俺はその瞬間心臓を締め付けられたような絶望感を味わった。
が、その次の瞬間に起こったことは、理解と越していた。
「エリシア、お前をここで殺したくはない」
自分の後ろにいたはずのクロノスは、何故か自分の前にいるエリシアの背後にまわり、首筋にナイフを突きつけていた。
「……チッ…………」
エリシアが銃を下ろすと同時に、クロノスは次の瞬間には俺の隣に立っていた。
「なんでだよじっちゃん……」
エリシアはクロノス、そして俺を睨んだ。
「もういいだろ、エリシア」
銃声が響いた。一瞬だった。地面を見ると、自分の足から僅か数センチの場所に弾痕ができていた。
「今度こそ気は済んだか?」
エリシアは小さく頷いた。そして俺に背を向け広間から去ろうとする。
俺は安心からか、脱力感に襲われた。
「怪我は無いな、大丈夫か?」
「ああ…………」
「エリシアは普段から口は悪いが、あんな乱暴をするような奴じゃないんだが……」
二人は去り行くエリシアの後ろ姿を眼で追っていた。が、突如エリシアは止まって振り向いた。
俺は瞬時に、再び心臓を締め付けられたような絶望感が蘇った。
「レイちゃんからじっちゃんへ伝言、怪我は大丈夫。薬は切れた。だってさ。」
束の間の沈黙の後にクロノスが口を開いた。
「後で見舞いに行く、そう伝えといてくれ。」
エリシアは今度こそ広間から去ると同時に、安堵と共に再び脱力感を味わった。
「すまない、蒼夜」
「部外者が入ったら警戒されますもんね……」
「……それもそうだな…………」
クロノスは俺の元へ近寄ったその時、先程の弾痕から銃弾が俺の眉間めがけて発射された。
完全に予想外だった。弾痕から銃弾が出てくるなんて誰が予想出来るだろう。誰だってそう思うはずだ。
だが、蒼夜を殺すのに十分な銃弾の軌道は、クロノスが突き出したナイフと接触し、途中で軌道がずれる。
「……………………」
今度こそ死んでいた。確実にそう思えた。その場にへたへたと座り込み、ただ呆然とする。
「エリシアを叱ってくる」
クロノスはそう言い残し、広間は蒼夜一人になった。
つづく
今回は屋敷編のスタートの為の話でした。エリシアは何故蒼夜を攻撃したのか、そして蒼夜の能力を次回は書きたいです!