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タンクにもなれるよ(しっかりヘイトも稼ぎました)

 さっきの攻撃で、わかったこと。


 スタンの内包する魂の輝き――レベルは、一連の攻防の中で変わったりせず、最初に見た大きさのままだった。

 つまり某王子が元同僚に自慢したような『戦闘力のコントロール』をしているわけではないということ。

 それから、エクスナやグラウスみたいに『神の恩寵』――いわゆる特殊スキルや固有アビリティを持っているわけでもない。


 つまり、何故かあくまでレベル1のままで、強いのだ。


 手加減したとはいえ、レベル1000の神獣を仕留められるパラメータを誇る私の攻撃を捌けるほどに。


 見たところ普通の人間だし、装備も特殊なものじゃなさそうだし、観戦してる誰かがバフをかけてるわけでもなさそう。


 パラメータの高さじゃない。

 ――技術?

 いわゆる、達人ってやつなのかな?

 柔よく剛を制す、みたいな。

 スタンのキャラには明らかに似合ってないけど。


 だったら、やばい。

 レアキャラだ。

 これは、確保したい。


「なに笑ってやがる。気味悪い奴だな」

 スタンが眉をひそめる。


「聞いていい?」

「あ?」

「そこまで強くなるのに、どれだけ魔族を倒したの?」

 さすがに、『なんでレベル上げないの』などと聞くほどうっかりさんじゃないよ。

 なんでそれが分かるんだって逆に詰め寄られちゃうからね。


 私の問いに、スタンはふんぞり返った。


「はっはっはっ、節穴だなお前の目は。俺様の強さに討伐数など関係ない! あんな奴ら1匹でも倒してたまるか」

「え?なんで?」

「ふん、どうやらお前は知らんようだな。いいか、奴らを倒した数だけ強くなれるっつうのは、本人の成長でも神の祝福でもない。倒した魔族の力がこっちに流れ込んでくるからだ。そんなもん、いらん。余計なもんが混ざるだけだ。無駄に増えた力に溺れて本質を見失うのがお前みたいな手合いってことだ。つまり、俺様が強いのは俺様自身の才能だ。魔族や魔獣のおかげなんかでは断じてない!」


 ……おお、すがすがしいほど俺様くんだなあ。

 個人主義というかワガママというか唯我独尊というか、しかしこれはこれで尖った戦力ではあるよなあ。


 あ、でもそうなるとスタンの目的がわかないな。

「えっと、魔族を倒すわけでもないのに強くなってどうするの」

「はぁ? よくわからんことを聞くな馬鹿者」

「え……」

「俺様はただ最強であるだけだ。そこからどうこうするわけじゃない、勘違いするな」

「いや、え? ……ああ、そっか、スタンはそういう位置に立ちたいだけなんだ」


 ただ強くなりたいと。最強キャラになりたいだけだと。


 そこは私と相容れないなあ。

 敵がいないと強くなってもしょうがないとか思ってしまうのだ。

 だから隠しダンジョンの裏ボスを倒したら最強武器ゲットっていうのは好きじゃない。それを装備してもより強いモンスターがいないんじゃ楽しくないと思うのだが。


「ったく、試合中にぐだぐだ喋りおって。いい加減納得したか? したならおとなしくそっちの男に代わりやがれ」

 そう言ってスタンはカゲヤを見る。


「スタンの考えはわかったけど、交代する気はないよ」


 私はその視線を手で遮った。


「攻略法がわかったような気がしないでもないから」

「はぁ?」


 私は、

「じゃあ、行くね」

 一歩ずつ、スタンに向けて歩き出した。

 

 ダッシュとかじゃ全然ない、普通の歩き方で。


「――ほう?」

 さすが、一瞬で勘付いたみたい。


「試合用の武器とはいえ、そう何度も俺様を舐めやがるとはな……」


 私は、その言葉を聞き流す。

 一歩ずつ、スタンに近づいていく。

 視力や聴力や気配察知の能力は、普通のまま。


 ただ、心構えだけをして。


 あと3歩でパンチが届くという間合いになったとき、いきなりスタンの両腕がぶれた。


 ドガッ、と脳天に衝撃。


 痛い。

 ――でも、このぐらいじゃ私の身体は耐えられる。


 そう、私にはスタンの攻撃は見切れない。

 たぶん間合いとか呼吸とか予備動作とか、そういう武道的な要素のスキルレベルが私と段違いなのだ。

 いくら目がよくても、攻撃の予兆や軌道が見えないんじゃ意味がない。気配察知に優れていても、その気配自体がないんじゃ使えない。


 でも、耐久力なら魔王様以外にはそうそう負けない。


 いつでもどっからでも攻撃されると、滅多打ちにされると、覚悟すればいい。

 死角から攻撃されても、不意をつかれても、カウンターを食らっても、いちいち驚かない。驚くと覚悟とか忘れちゃって、無防備になってしまう。さっきの頭突きで簡単に膝をついたのがいい例だ。


「ふん――」

 スタンは目を細め、唐竹割りで真下に振り下ろしていた木刀からぱっと両手を離した。

 ――お、おどろいたりしないぞ!


 スタンの空いた左手が、ひゅっと繰り出され私の眼を打った。

 そして同時に右手が、私の右手首を掴む。

 スタンの身体が沈みながら旋回し、その右肩が私の鳩尾を突き上げ、そのまま流れるように背負投げ。


 ッドン、と大地が震える。

「けはっ」

 私の口から、空気が漏れる。

 ――が、まだ動ける。


 スタンが木刀を片足ですくうように蹴り上げ、再び手にする。

 その瞬間、私は地面に倒れたまま、手探りで残る片足を掴んだ。


「ったく、しぶといな……」

 呆れたように息をつくスタンは、地面へ縫い止めるような突きを私の胴へ――

「ちょっと痛くしますからねー」

 

 ぎゅうっ


 掴んだ足首を握りしめた。


「ぅだあぁっ!?」

 面白い悲鳴を上げるスタン。

 さすがにここで重傷を負わせる気はないので、すぐに手を離し、立ち上がる。


 今のが攻略法その1。

 いくら攻撃を受けようと致命傷にならないので無視して接近してどっか掴めば私の勝ち戦法!

 ……クマか何かかな?


 そしてこれが攻略法その2。


「危ないので目を閉じてくださいねー」


 地面に向けて、『リョウバが青い顔して全力で躱すレベルのパンチ』を繰り出した。

 戸○呂80%に負けないんじゃないかって勢いで、地面が爆発する。


 土と砂が、ものすごい速度で天へと舞い上がった。


 スタンはレベル1。

 どれだけ技術が高くて、私のパンチやキックなんかが掠りもしなくても、こうした範囲攻撃には弱いはず。

 避けきれなければ、防御力は低いから結構なダメージになるはず。


「ぐぬっ――」

 思ったとおり、スタンは自らも宙へと吹き飛ばされ、ぴしぴしと連打してくる砂に顔をしかめ、

「あっ」

 そして私の眼は捉えた。

 地面に埋もれていた拳大の石もパンチの風圧で弾丸のように舞い上がり、完全に死角から、スタンの、股間に、向かって……


「ぉっ――――――――…………っ!!」


 よく晴れた空に、

 声なき悲鳴が轟いたのを私はたしかに聞いた。

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