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尊い犠牲の果てに覚えた技がその名前ですか

 コルイ軍事基地に傭兵として潜入するにあたって、乱暴者の演技と合わせて学んだこと。


 力加減。


 なにしろ怪力なのだ、この身体は。

 迂闊に人を殴ったら洋ゲーのごとくスプラッタに炸裂してしまう。


 というわけでカゲヤとリョウバの指導のもと、はじめは石、次に木、そして2人との組手と進んでいき、最終試験は、

「やめて! 助けてくださいお願いします! 待ってイオリ様ちょっと待ってえ!」

 エクスナへのデコピンだった。


「エクスナ様、どうかご無事で――」

 フリューネが合掌して目を閉じ祈る。

「あ! イオリ様そういえばフリューネ姫も私と同じかそれ以下の防御力ですよ! 交代! 交代を希望します!」

「うーん、それがね、フリューネはレベル1かつ戦闘訓練の経験もないんだって。さすがにそんな傭兵はいないから。それにフリューネ相手の加減を覚えちゃうと、逆に目盛りが細かくなりすぎて支障が出るかもしれないって。なんだっけ、身体は無意識に楽な方を選んじゃうから、今後の戦闘時でもついつい余分に手加減するようになっちゃうとか。あとフリューネってちょっと偏食気味で常人よりさらに骨が脆いとか、成長期の身体に強い衝撃はよろしくないとか、それでも私相手にデコピンするなら王族マナー講習を2倍厳しくしますよとか、それはもう鋭く爽やかな弁舌で――」

「要するに先読みして私を売ったんですねフリューネ姫! それが王族のすることですか!」

「はい、これが政に携わる者としての基本にして奥義、根回しというものでございます」

「開き直りやがりましたよ!」

「エクスナ様も30秒ほど前に私を身代わりにしようとしたではございませんか」


「よーし、それじゃそろそろ静かにしててね。喋りながらとか、相手が暴れてたりすると加減が難しくなっちゃうんだ」

「大丈夫だエクスナ、今日はシュラノに魔力を消費しないよう頼んである」

 リョウバが朗らかに言う。

「どんな回復魔術を使う気ですか! あ、だから来ないでイオリ様! やめて構えないでその中指超怖い!」


 そして、森の中にエクスナの悲鳴が響いたのでした。


 あ、もちろん無事だったよ。試験は1発合格。


 なお怒れるエクスナによってその日の晩飯は超激辛鍋になった。

「この鍋が空になるまで何日でも継ぎ足しますからね私は! フリューネ姫も3杯までは義務ですから! あ、そこで平然と食べてるイオリ様は逆にお代わり禁止です」


 うん、たしかに辛いけど美味しかったよ。


 でも私以外のメンバーには厳しかったようで、汗をかいているカゲヤを初めて見たり。

 途中から辛味に目覚めたらしいアルテナが苦悶と恍惚の混ざった表情でお代わりしてたり。


 

 ――やや脱線しましたが、そんなこんなで力加減を覚えた私である。


 というわけで試合開始。


 5歩ぐらい離れた位置に立っているスタンめがけて、まずは地面がえぐれない程度のダッシュから、

「高校生がマジ泣きするレベルのパンチ!」

 もちろん実際に叫んだりしませんよ。


 突き出した拳は、しかし、

「お?」

 空を切り、

「え?」

 なぜか私は宙を舞っていた。


「っとと」

 軽く一回転して着地したのは、スタンの後方10メートルぐらいの場所。

 え、何されたの私?


「――予想通り単純な攻めなのはともかく、俺様に対して手加減しやがったな!」

 こちらを向き、怒りの表情になっているスタン。


 私が片足を引いて構え直した瞬間、

「教えてやる」

 スタンが目の前にいた。


「うわっ」

 近い近い近い!


 反射的に、払いのけるように右手を振ってしまう。

 やばい、力加減忘れた!


 しかし右手は再び空を切り、気づけばスタンは真横に。


 ――ゴンッ


 頭突き!?

 

 視界が揺らぐ。

 痛くないのに膝が崩れる。


 喉元に、何か触れる感触。

 木刀を突きつけられていた。


「手加減てのは強い方がするもんだ」


 揺れた視界でわからないけど、絶対にドヤ顔してそうな声が頭上から降ってきた。


 気配が遠ざかり、平衡感覚の戻った私は急いで立ち上がる。

 試合開始前と同じぐらいの距離で、スタンが想像した通りのドヤ顔をしていやがった。


「わかったらとっとと全力で来い阿呆が」


 こっのやろう……!


 体温が上がり、脳が冷え、本格的に戦闘態勢になってきた。


 さっきより強く、爆発するように土埃を上げて突進する。

 くらえ、大の男が昏倒するレベルのパンチ!

 同時に、集中モードで視界強化!


 極まった動体視力の中で、私の右拳がスタンめがけて進んでいく。

 スタンはその場に立ったまま。

 ふと、手首に木刀の切っ先が添えられた。


 くるんっ


 といった感じで切っ先が私の腕へ巻き付くように動かされ、その回転力が私の腕から肩、胴、腰のあたりまで勝手に動かしていく。

 最後には足元をすくうように回転力が伝わり、結果的に、


 私は再び宙を舞っていた。


 そして今度はここで終わらない。

 上下反転した視界で、スタンが木刀を水平に構え、半身になっているのが見えた。

 顔か胴に突き!


 と思ったのに、脳天に衝撃が走る。

 蹴り上げ!?

 なんの気配も感じられなかったのに。


 動転した瞬間、木刀が鳩尾に突き刺さる。

 ぐにゃりと、木刀が大きく撓り、半拍遅れて私の身体は吹き飛ばされた。

 どうにか両手足で着地するが、内臓から苦痛が押し上がってくる。


「――ごっほっ、うぇ、いったあ……」

「その感想で済むのは褒めてやろう。懲りずに加減しやがったから悶絶させるつもりだったが」


 まるでリザルトの決めポーズみたいに腰に手を当て、木刀の峰で肩をぽんぽん叩いているスタン。


「ま、力量差はわかっただろう。お前はただの力自慢だ。この俺様に敵う道理はない」

 わははは、と馬鹿笑いしているスタン。


 ――まだまだぁ!

 負け確イベントかと思ったら普通に全滅した経験を何度も味わったこの私が簡単に諦めると思うなよ!

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