古豪と新星と俺様君と
ダンジョン製作を済ませて洞窟を出ると、既に夕陽も沈みかけている時間だった。
その日はそこにキャンプを張り、あらためて今後の行き先を話し合う。
アルザード討伐への工作で寄り道をしたけれど、本来はローザスト王国へ向かう予定だったのだ。
「では、明日は東へ向かい、ローザストとの国境門手前まで進みましょう」
地図を見ながら、カゲヤが言った。
「ダンジョンになりそうな場所の情報収集はどうします?」
エクスナの質問に、
「うーん、この国にはもう2個用意したから、これ以上はいいかな。あ、でもこの先追加があるかもしれないから、直接現地には行かないけど情報だけはあっても困らないや。でも無理しないでいいよ」
「わかりました。それじゃ歩みを遅らせない範囲で調べます」
「イオリ様、今日はかなりの獣を仕留めたようですが、お身体の調子はいかがですか?」
今度はモカが尋ねる。
「んー、問題ないと思うよ。たしかに結構な数倒したけど、そうだなー、感覚的にはこないだの神鳥と同じぐらいかな、経験値」
「……洞窟では100匹近く仕留めたのですよね。さすがは神の眷属ということですか……」
まあ、あの鳥、レベル1000ぐらいあったからなあ。洞窟にいた蛇猿はレベル5~15ぐらいの範囲だったと思うから、100匹弱なら似たような経験値になりそうだ。経験値の獲得量がそんな単純計算なのかはわからないけど。
――あ、それを測る道具もあったほうがいいのかな。もしかしたら戦闘内容によって経験値にボーナスあったりするかもだし。
魔王城へは定期的に状況報告のお手紙を出すことになっているから、次のときに書いておこうか。またロゼルが奇声を上げそうだけど……。
なおレベルアップの効果だが、どうだろう、なんとなく手をぎゅって握ったときの力強さが増したかな、という感じはする。でもそこまで劇的な強化ではなさそう。
素のステータスが高い分、相当レベルが上がらないと実感しづらいのかな。
「短時間で多数の敵を倒すと、増した力の影響で酒に酔ったような感覚に陥ったり、感覚と動きにズレが生じたりする場合もあります。なにか気になればすぐに言ってくださいね」
「うん、わかった」
モカの言葉に頷く。
「カゲヤ、後で少し訓練に付き合ってくれ。私は幾らかレベルが上がったらしい。ズレがないか確かめたい」
「わかりました」
リョウバとカゲヤもそんな会話をしていた。
翌朝。
さすがに午前午後で2度のダンジョン探索は疲労を溜めてしまったらしい。
普段よりも少し寝坊してしまった。
「おはようございます」
今朝はカゲヤが朝食の支度をしていた。
「おはよう。今日はエクスナじゃないんだね」
「……まだ眠っております。モカに3度ほど起床を促してもらいましたが徒労に終わりました」
「あはは……、まあ昨日ので疲れたんでしょ」
エクスナは瞬発力特化型だからなあ。
そのエクスナも私が朝食を済ませて洞窟の入口あたりを確認などしているうちにふらふらと起き出し、各自が出発の準備に取り掛かり始めた。
そして、
「4名、接近中」
シュラノがそんな発言をした。
カゲヤが眉をひそめる。
「この場所に、ですか……。エクスナ、フシュガルは討伐依頼など出されていましたか?」
「いいえ、巣食っているから近寄らないほうがいい、と警戒されていただけです。もともとがあまり立ち寄る場所でもなかったそうで」
「我々がここへ向かうという情報は?」
「うーん、行くとは言ってなかったですが、地図で詳しい場所を聞いたので、そう推測された可能性は高いです」
「なるほど……、イオリ様、おそらく我々を探している者たちかと思われますが、いかが致しましょう」
いかが致しましょう。
正直、判断を丸投げしたいところではあるけれど、リーダーとしてそれはどうかという理性が働く。
「そうだね、こっちの方が多勢だし、ひとまず待ち構えようか。フリューネたちはいったん馬車に隠れたほうがいい?」
「いえ、コルイ軍事基地からの捜索隊という可能性もありますし、私の身分がお役に立てるかもしれません」
ちなみに私はまだラーナルト王族の仮面を被るには合格基準を満たしておりません。
フリューネ先生、マジ厳しいんだもん。
結局、荷造りをさっさと済ませ、洞窟の手前にある広場で適当に位置をばらけつつ全員で相手を待つことになった。
やがて姿を表したのは、
百戦錬磨といった風情の、壮年の男性。
同じく歴戦を伺わせる妙齢の女性。
中学生ぐらいに見える男の子。
そして、
「おお、見つけた! お前たちが『鉄腕女と鉄面男』か!? どいつがどっちだ?」
声の大きな、腕白小僧がそのまま大きくなったような印象の若い男性だった。
――ていうか、今のあだ名は?
あ、リョウバやエクスナやみんなこっち見てる! ひどい!
「スタン、頼むから少し黙っていろ」
壮年の男性が疲れたような声を出す。彼は左腕の肘から先を失っていた。顔にもいくつか傷跡があるし、いかにも修羅場をくぐり抜けてきたといった感じである。
……この人、見覚えがあるような?
「ああ? 俺様に指図するなと――」
また大声を上げかけた男の人の口を、金髪の女性が塞ぎつつ後ろに引き下げる。
……すごい、通常なら『私』に脳内変換されるはずのこの世界の一人称が、強制的に『俺様』になったよ。
まだろくに喋ってないのに、その立ち居振る舞いだけで私の脳みそに俺様キャラを刻み込んだ。
よく見ればレベルは相当低いのに、その魂が強烈な自己主張をしている。
なんかこう、『俺を見ろ!』的な感じに。
何者?