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ダンジョン製作(手作業)

 あたりまえだが、洞窟内は真っ暗である。


「まずは『光苔』ですね」

 とモカがいい、ホルスターから1本の試験管を取り出した。中に入っているのは、明るい緑色の粉末である。


 彼女は背中に大きめのバッグ、腰にはポーチ、二の腕には試験管を差したホルスターを連ねるベルト、片手に四角い頑丈なケース、と積載量超過ぎみの格好だった。

 エクスナは明かりを手にしている以外は軽装だが、代わりにモカの指示で色々と動いている。


 今も受け取った試験管の中身、『光苔』の粉末を少量通路の端にふりかけ、さらに水筒から数滴の水を垂らしている。


 これで数カ月後には、淡い光を放つ苔が繁殖してこのあたりを照らしてくれるはずだ。

 松明の残りを気にしながらのダンジョン攻略って、あんまり好きじゃないんだよね。あと時間制限のある脱出とか酸素の残量が出る水中マップとか。

 なるべく人が入りやすい雰囲気を作っておかないと、せっかくのダンジョンが放置されるのは忍びない。


 ちなみに私は私で、モカと似たようなバッグを背負い、かつモカの後ろを歩いて彼女がいつ転んでも助けられるよう気を配っている。

 なにしろ、

「うわ、また死骸……」

 そう、午前中に退治したフシュガルという獣の死体が、そこらじゅうに散乱しているので。


「何体いたんですか?」

 死骸と、そこから流れている色々な液体を踏まないよう歩きながらエクスナが聞いてくる。

「途中から数えてないけど、たぶん400ぐらい」

「うっわ……」

「どんな攻撃をしてくる獣だったんですか?」

 とモカも質問する。

「んーと、基本は上半身の猿が牙と爪で飛びかかってくるか、下半身の蛇が巻き付こうとしてくるか。岩陰とか天井とかから不意打ちしてくるのが多かったな。何匹かレベル高めのがいて、そいつらは口から毒液っぽいの吐いてきた」

「なるほど。このまま放置すればイオリ様のおっしゃっていた『毒地形』が生成されるかもしれませんね」

「ああ、そうかも」


 正直、それもあんまり好きなギミックじゃないけど。

 でもこの死骸を片付けるのは気が遠くなるし。強力な水魔法でどっかに押し流したいなあ。1度出入りしたんだから中がリセットされてるといいな、なんて現実逃避しながら入ってみたけど、やっぱこの量はひくなあ。


 光苔の粉末を要所要所に振りまきながら進んでいくと、3つに道が別れた場所に出た。

「ここは右端がすぐ行き止まりになってて、真ん中は多少深め、左が正解のルートだった」

 1度の往復で脳内マッピングは完璧である。

 この身体の記憶力もさることながら、もともとこの手の暗記は得意なのだ。


「分岐路ですか……」

 モカはこめかみに人差し指をあてて、何やら考えてから、

「あのイオリ様、『メダル』を設置しましょうか?」

「さっすがモカ」私は嬉しくなって彼女の肩を叩く。「飲み込みが早い」

「あはは……」

 照れくさそうに彼女は笑った。


 真ん中の道を進む。


 ここにはけっこうな数のフシュガルが潜んでいたので、足の踏み場もないほどだ。これがそのまま毒の沼地的な場所になるなら、苦労して進んだ先にはご褒美がないとね。


 道の終点は、飾り気のない、たんなる行き止まりである。


「ただ置いても、気づかれなさそうですね……」

 モカの言うとおりだ。


 なのでちょうど目線の高さの壁に手を伸ばし、

「よいしょ」

 岩壁をえぐり取った。

 発泡スチロールをもぎ取るぐらいの手応えだ。


「えー……」

 エクスナが嫌そうな声をあげる。


「じゃあここに置くね」

 私は背中のバッグから、細長い筒を取り出した。

 そこに詰まっているのは、バランにお願いして鋳造してもらったメダル。そう、いわゆる『小さなメダル』である!


 換金価値はあまりないけど頑丈な金属に、表面はこの世界で幸運の印とされる鳥の意匠を、裏面には地球の数字でシリアルナンバーを刻印している。


 メダルを置いた場所の隣に、人族の領土で流通している金貨も数枚――庶民が1年食べていけるぐらいの額を置く。ついでにごく少量の光苔をまいて目立ちやすくした。


「よし、完了」

「あのー、イオリ様」

「なに? エクスナ」

「なんでわざわざこれ特注したんですか? お金以外にも何かっていうなら、宝石とか希少な金属とか素材でもいいんじゃ」

「あ、私もそれは少し思いました……」


 ふたりの疑問に、私はにやりと笑う。


「全部に換金価値があったら、誰がどこに流したかわからないでしょ?」

「はあ……」

 まだ飲み込めていないエクスナと、

「ああ」

 ピンときたらしいモカ。


「これを一定枚数集めると、希少なアイテムと交換する仕組みをつくる。そして専用の受付窓口をつくる。そうすればどんな有力な人材がいるか把握しやすくなるし、不正防止にもなるからね」


 元ネタのように、民家のタンスやツボに仕込んだりはしない。あくまでダンジョンの、わりと深めの場所にしか置かないようにする。そうすればそれを入手できるだけの腕前があるという判別になるのだ。


「なるほど……」

 エクスナも理解してくれたらしい。

「貨幣とは別に交換価値のある概念をつくるとは壮大な話ですね」

 

 え、そんな大層な話なの?


「でもイオリ様、その受付窓口ってどこにつくるんですか?」

「ふふふ、それはあとのお楽しみだね」


 ……実際、ここからが大層な話になってしまうのだ。

 ……というか、できるのか私、本当に?


 まあ、それはまだ先の話だ。


「じゃあ、先に行こうか」

 私達は分岐路まで引き返すことにした。

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