ダンジョン攻『略』
「入口からちょっと進んだあたりに油撒いて、火をつけてからシュラノの魔法陣とかで入口に蓋しちゃえばいずれ酸欠で全滅させられるんじゃない?」
私の発言に、まずフリューネたちラーナルト組3名がひいた。
「……なんとも苛烈な手段ですね」
慎重に抑制された声でそう述べるフリューネ。
「たまに思いますけどイオリ様って攻撃すると決めたら容赦ないですよね」
とエクスナも言う。
あ、やっぱひどいかな?
……ストレス溜まるダンジョン攻略を強いられるたびにコントローラー握りながら妄想してた手段だからなあ。クエストアイテム入手のために何度も同じ道行ったり来たりとか、アクションゲームよりシビアなジャンプを求められたりとか、急にホラー展開とか。
引き気味の彼女たちに対して、カゲヤは、
「少し時間がかかりそうですが労力は少ないですね」
と冷静に言い、
「炎が消えないようにする工夫も必要かと。手持ちの油は高品質ですからここで大量に使うのももったいないですし、班長製作の可燃物はありますが、岩盤がくずれかねません」
モカも考えながらそう告げた。
こういうふうに次の行き先とか行動とかを相談していると、移動中や食事中の雑談、戦闘時の動きなどと同じようにみんなのキャラクターが見えてくる。
カゲヤは基本的に私の言うことを再優先事項としてほぼ無条件に受け入れる。
モカは意外と実践派というか、良し悪しよりも実行する手段を考える方に気が向く。
エクスナは自分の感想を素直に言う。
シュラノはだいたい無言。でもお願いするとだいたい聞いてくれる。
フリューネは人族の常識に基づく反応をしつつも、口に出る言葉は魔王への敬意を損ねないよう注意深く考えられたものになっている、ように思える。最近私にはたまに本音っぽいことも言ってくれて、これはいい傾向だと思っている。
アルテナとターニャもフリューネと同じような感じ。というかターニャとはほとんど喋っていないのが実情である。あんまり視界に入る位置にいないし、ふと見つけたときにはいつも何かしら仕事をしているので。
そして残るひとりのリョウバは、
「炎に追われる獣が岩盤の薄いところを破り、あらぬ方角へ脱出した場合の被害が想定されますね」
「あ、それは駄目だ……」
私があとになって後悔しそうなポイントを的確に教えてくれる。特に人族への被害という、魔族なら気にしないはずのことなんかを。それもあくまで選択権を私に委ねつつ。
正直、彼の意見は非常にありがたい。……ので、前回みたいにその口車に乗って妙なキャラを纏う羽目になったりもするのだが。
「逃げ出した魔物を追うのも手間かかるしね。しょうがない、正攻法で攻略するか」
してきました。
「――うう、手がベトベト……」
2時間ぶりの陽の光に目を細めながら入口から地上へ戻ってきた。
私、カゲヤ、リョウバ、シュラノという攻撃力特化の4人パーティで、洞窟内のモンスターをあらかた退治してきたのである。コマンドはずっと『ガンガンいこうぜ』だった。
「お疲れ様でした。お昼できてますよ」
エクスナが言い、私達は手と顔を洗ってから食事にありついた。
「どうでしたか? 洞窟内は」
モカが尋ねる。
「うん、思ったよりずっと広かった。分岐路も多くて、一番奥にまあまあ広い場所なんかもあってね」
「たしかに、戦闘時間を引いてもだいぶ長く潜ってましたね」
そう、こちらの単位で2時間なので、地球なら6時間洞窟にこもっていたことになる。
正直、戦闘は瞬殺の連続だったので、片道3時間ほぼ歩きっぱなしだった。しかもシュラノの索敵魔術は地形まで判別できる。つまりはオートマッピング&敵アイコン表示というカジュアルモードで軽快に進んでこの時間だ。
「では規模は『大』にしましょうか」
「うん、そうだね」
「難易度はどうされますか?」
「んー、前線に近いから強めの人が集まると思うけど、この広さだからなあ。近くの村も補給地にはちょっと手狭だし、『難易度3』で」
「承知しました。では昼食を終えたら始めますね」
「あ、私も見ときたいから一緒に行くよ」
「え、それは構いませんが、お疲れではないのですか?」
「ご飯食べたから」
「ああ、そう、ですか……」
引きつった笑みを浮かべるモカ。
たしかに今のセリフ、少年ジ○ンプの主人公的な感じだったなあ。
そうか、これが食事をエネルギーに換える感覚か……!
いや本来の私、っていうか人間も普通にそれやってるんだけど、自覚するほど効率良くはないからなあ。お腹いっぱい、って感覚はわかるけど、パワー満タン、って気にはならないし。体育会系の人はそうでもないのかな?
で、昼食後。
今度は私とモカとエクスナというパーティになった。
エクスナは既にモカの手伝いを経験済みだからね。
「お気をつけて」
はじめのうちは同行すると言っていたカゲヤだったが、午前中の『お掃除』で中の獣が脅威にはならないとわかったため、いいから休んでてと私が押し切ったのだ。シュラノは既にお昼寝中。やっぱ索敵魔術の連続に加えて戦闘もガンガン任せてたからお疲れのご様子だ。
「うー、さっきより匂いが強まってます……」
明かりを手にしたエクスナのぼやきを聞きながら、私は再び洞窟へ踏み入った。