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はじめての洞窟探検

 山を下り、軍事基地とは反対方向へ。

 コルイ共和国とローザスト王国の国境に近い小さな村が、モカたちとの合流地点だった。


「あ、戻られたんですね」

 私たちが宿屋に到着したのは、モカとシュラノがお茶を飲んでいる昼下がりだった。


「リョウバの予想より長くなったようですが、なにかあったのですか?」

 モカが尋ねる。

「ううん、基地の隊長さんがいい人でね、思ったより長く滞在できたんだ」

 計画当初、リョウバの読みでは私たちは2日目の夜を迎えることなくクビにされるはずだった。それが1週間近く留まれたのはあの隊長のおかげだ。怒りまくってはいたけど、見限ったりはしないでくれたから。

 ……あの薬、ちゃんと自分に使ってくれるかな? 周囲の怪我人とかに迷わずあげちゃいそうな性格だろうし。


「そっちは、どうだった?」

「はい、予定通りに実施できました。3ヶ月ほどで立派なダンジョンになるかと」

 そう、モカたちにお願いしたのは、ダンジョン造り。

 私たちが追い返した傭兵たちに渡した地図、そこに示された場所に今現在ダンジョンの素が設置されており、モカの言う頃には完成しているはずである。


「それから、この近くにかなり広そうな洞窟があるという情報をエクスナが入手しました」

「おお!」

 それは朗報。

「詳細をエクスナが聞いて回っているところですが、2つ目のダンジョンに使えるのでは、と」

「うん、ダンジョンといえば洞窟だからね」

「そ、そういうものなのですか……」

 

 そんな話をしているうちに、当のエクスナが戻ってきた。


「あ、イオリ様たちもお着きですね」

「おかえりエクスナ。どうだった?」

「はい、東の門から見える定食屋の揚げ物全般が匠の技ですよ。特に牛肉のフライに自家製のソースをかけた1品はイオリ様も気に入ること間違いなしです」

「よし、明日のお昼はそこにする。――いやそれもありがたい情報だけど洞窟は?」

「ああそっちですか。ええ、ここいらの老人は若い頃入ったことがあるようで、一番奥までは誰もたどり着けなかったとか。めぼしい産出物があるでもなし、次第に忘れられていったそうです。でも去年あたりから厄介な獣が住み着いたとか」

「獣?」

「入り口の岩壁に鱗と体毛が落ちていたとのことです。おそらくフシュガルという獣でしょう」

「蛇の下半身に猿の上半身がついたような獣ですね。たしかに村人が駆除するのは無理です」

 モカが補足した。

 猿と蛇のキメラ……。

「え、それって魔獣じゃないの?」

「いえ、魔族領にはいませんよ」

「……あ、そっか」


 魔獣というのは『モンスター』とイコールじゃなくて、『魔族領に生息する獣』のことだった。

 普通に豚とか羊みたいな獣も、魔族領にいるなら魔獣だ。

 区別は、人族と魔族のどちらが倒せば経験値になるか。

 怪物っぽい『獣』もいるわけか。


「けっこう強いの?」

 とモカに尋ねる。

「白嶺で遭遇した魔獣や獣に比べれば大したことはありません。しかし卵生で一度に50ほどの卵を産みます。孵化から成体になるまで半年とかからず、放置されていたのなら共食いを考慮しても洞窟の中には……」

 うわ、想像したくない。


「どうします? 先は長いですし、別の場所はいくらでも見つけられると思いますけど」

 とエクスナが尋ねてくる。

「そうだなあ、うん、せっかく調べてくれたんだし、まずは寄ってみるよ。駆除して使えそうならそのまま実行で」

 この旅、毎日のように色々な選択を求められるので、こういした判断は早くなってきたと思う。

 雑にはならないように注意しないとね。

 所詮私は就活もしてない大学生なんだし、せめて集中して注意して考えていこう。

「承知しました。では明日のお昼を食べてから出立しましょうか」

「……午前中は自己鍛錬にでも充てますか」

 なにかを諦めたようにカゲヤが言った。



 翌日、エクスナおすすめの定食屋でたしかに美味しいランチをとった。

「すごいよエクスナ、これほんとに絶品!」

「でしょう! 神の眷属お墨付きとかお店にあげちゃいます?」

「それはやめてくれるかな!」

 レアの牛カツにエシャロットみたいな野菜を刻んだウスターソースっぽい調味料が最高に合う1品だった。

 肉質も揚げ具合も味付けも文句のつけようがない。


「こういう隠れた名人は覚えておかないとね」

「なかなか来れないのが残念ですよねー」

「魔王城に勧誘したら来てくれるかな」

「魔王様への提案はイオリ様やってくださいねー」


 お腹いっぱいになってから、村をあとにした。

 ……どうも私たちは旅人のなかでもだいぶ目立つ集団らしく、出ていくこちらの背に無数の視線を感じた。

 まあ、これももはや慣れたものである。



 馬車に揺られて東へ進み、ひと晩野宿して翌朝早く目的地に到着した。


 あたりは岩肌の目立つ山がそびえており、その裾野にぽっかりと大きな穴が空いていた。

 3人は並んで入れるぐらい。


「……なんか臭くない?」

 酸っぱいような据えたような匂いが、その入り口から漂ってきた。

「そうですか……?」

 モカにはわからないようで、

「ああ、言われてみればそうかな、ぐらいには」

 エクスナは多少わかるみたい。


 私は意識を集中して、洞窟の奥を探ってみる。

 ――無数の気配が押し寄せてきた。

 これぜんぶ蛇猿的な獣の気配? やだぁ!


「シュラノ?」

「……枝分かれが多い。数は絡まっていて分かりづらいが、範囲内で200以上」

 やな表現だな。


 というか、既にこれはダンジョンなんじゃないの?

 宝箱とかないけど。

 そのかわりモンスターはいっぱい。

 入り口から奥は完全に真っ暗で、おまけに分岐路だらけ。

 ……駄目だ集客力がない。


「よし、まずはお掃除だ!

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