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傭兵ネットワークでは既に時の人となっております

「あー、つかれた……」

 コルイ共和国の軍事基地を追い出され、カゲヤとふたり舗装された道を歩いている。

 基地内での暴れん坊キャラをようやく止めることができたので、だいぶほっとしている私である。

 もちろんアレは私の本性でも一面でも願望でもないよ! マジでマジで。


 基地から伸びているこの道は、小さな山をひとつ越えたところで3方向に分岐する。そのうち左右の2本は別の軍事基地に通じるようになっていた。

 今回、コルイ共和国はこの3拠点に兵を集め、一斉に出陣して、そのうち本命の1軍がアルザード討伐を目標に最奥まで進む予定らしい。

 私たちがいたのは、その本命基地だった。

 もちろん魔族側には秘密である。

 なので左右の拠点に集まった中で、とりわけ戦力になりそうな傭兵は、こっそり後からこちらへ移動するようになっている。

 つまり、私たちが歩いているこの道を逆に向かってくるのは、凄腕の傭兵である可能性が高いということ。


 そして、その道が分岐する手前の山で、

「――あら、そんな見すぼらしい格好でどうされたの? 物乞いかしら? たしかにこの先には兵が集まっていると聞くけれど、盾にもなりそうにない貴方たちに施してくれるとは思えないわ。富める者の義務として私が幾らか差し上げてもいいのだけど、正直貴方たちが人か山猿か判断しづらいのよね……。ねえ、言葉は通じるかしら? お金ってご存知?」

 そんな、高飛車で嫌味で挑発的な物言いが聞こえてきた。


 ……フリューネの声である。

 ……彼女もまた犠牲者なのだ。


 私はカゲヤに目配せして、道を外れて山に入り、声の聞こえるあたりを上から眺められる位置に陣取った。


 案の定、そりゃ怒るだろうという言葉をフリューネにかけられ、バーサク状態になっている年若い傭兵5人組がそこに。

 

 そして、

「はっ、弱い弱い弱い、なんだてめぇら、物乞いじゃなくて病人だったのか? これから戦争する兵に感染るだろうが! ほら帰れ馬鹿野郎」

 楽しそうに4人をなぎ倒すリョウバと、

「……み、未熟……時期尚早……」

 なんとも微妙な表情で、残るひとりを片付けるアルテナがいた。


 そして半泣きで撤退する彼らを追いかけるターニャ。

 小声でなにか説明し、申し訳なさそうに頭を下げ、ひとりひとりの顔を見てさらになにか伝え、彼らの涙がちょっと収まった頃に、例の地図を手渡す。


 うん、流れるような手際だったね。


「おつかれさまー」

 急坂を降りて合流する。


「あ、イオリ様――」フリューネがこちらに気づき、「……見ていらしたのですね?」疲れた笑みを浮かべた。


「ずいぶん様になってるなあと思いながら見てた」

「どうせやるのなら本気で演技しようと思いまして……、イオリ様の方はいかがでした?」

「不名誉な称号を何個かもらった」

「やはりそちらも大変だったようですね……」

 フリューネとふたり、ため息を付いてから犯人を睨む。


「おや、どうされました」

 今回の脚本とキャラ作りを考えたリョウバがほがらかに微笑んだ。


『仮面をつけていては基地に入隊できません。山道での待ち伏せも、顔を隠していては明らかに他国や魔族の工作と疑われてしまいます。しかし素のままの我々では後に支障が出ないとも限りません。強く印象に残る美貌を持った女性が多いことですしね。ここはひとつ、単に迷惑な無法者だと思われるような演技をすることにしましょう。風聞程度なら、我々だと気づかれない程度に印象強い性格と振る舞いを装うのです』

 そんな言葉に乗り、やけに楽しそうなリョウバの演技指導を受けてから今回のミッションに臨んだわけだったのだが、


「今更だけどやっぱりおかしいと思う私たちの役作り……」

「ええ。もう少しやりようがあったと思います……」


 ふたりで詰め寄るが、リョウバは変わらず楽しそうにしている。

「こうした長旅はひとりになる時間が少ないので、自然と心労が溜まるものです。多少無理にでも、普段と違う好戦的な態度を取ることは気分転換や発散になるものですよ」

「なんか気遣った結果だよ的なことを言っている……!」

「騙されてはいけませんイオリ様、御覧くださいアルテナの悲惨な様子を」


 見ればアルテナは大木に背をあずけてぐったりと俯いていた。

 さっきもだいぶ演技に無理を感じたからなあ……。


「アルテナ殿は最後まで演技に乗れませんでしたからね。突き抜けて役に浸ってしまえば意外と楽しいものですが、常に羞恥心に苛まれたまま役だけは続けるというのはかなりの苦行だったことでしょう。本来の自分を保ったままだったので『あれは別の誰かが乗り移っていた、もしくは自分に天才的な没入型演技の才能があった』といった記憶の逃避もできず、役を捨てた今もなお羞恥の嵐に襲われているのでしょう……」

「気遣わしげな口調でひどいことを言っている……!」

「ああっ、アルテナが両手で顔を覆ってしまいました!」



「それにしても、実際にやってみると妙な気分ですね」

 私とフリューネの文句を笑顔でかわした後、リョウバは言った。

「我々魔族が、人族の強化を図るというのは」


 そう、私のパーティメンバーには、そこまでは伝えている。

 人族の歯応えがないので鍛えるという、魔王が表向きの理由として私に言おうとしていた内容までは。


「あんまり人族との力量差ができると、神々が向こうに加勢しかねないからね」

 というのは、さらに後から付け足したでまかせである。

 私の『天上の使者』という肩書も、ちょっとは真実味を増してるといいな、と思っている。


「やはり、死門の黒獣はそれほど強力なのですね……」

 フリューネは静かな声で言う。

「イオリ様、間近で兵士たちをご覧になっても、やはり厳しいという見解だったのでしょうか?」

「うん、そんなとこだね……」


 傭兵たちをざっと見た限り、レベル100越えはいなかった。

 50オーバーは何人かいたので、総掛かりで挑めばアルザードに勝てるかもしれない。

 でも前提条件として、まずは大荒野を突破し、樹木に擬態したグネヴィルを倒さないといけない。そこまでである程度は消耗するはずで、一方のアルザードは迎撃体制万全。

 なかなか厳しいよね。


 で、さらにそれが200体以上いるんだもんね。


 ……あらためて無理ゲーだよなあ……。

 この状況からどうにか魔王を討伐させるとか……。


 しかしこれも魅惑の未来ゲームやり放題空間のため!

 あ、討伐するとか言っときながら魔王のことも心配はしてるよ。マジでマジで。


 

 とにかく、今回私たちが心で涙を流しつつ無法者なキャラ作りまでして暴れたのは、アルザード討伐で人族の戦力が減るのを防ぐためであった。

 さすがに出陣自体を止めるのは難しいし、仮にできちゃったとしても国際問題になりそうだとフリューネが真っ青な顔をしていたので、将来有望な若手を中心に、それもコルイ共和国の国軍ではなく傭兵だけに絞って、戦線から一時退場してもらったというわけである。


 共和国直轄の兵士をぶっ倒しちゃうと、最悪戦線が崩れかねないし、万が一フリューネの関連でも知られたらコルイとラーナルトの戦争すらあり得るしね。


 ともあれ、全部ではないにしても、目に止まった傭兵はけっこう救えたと思う。

 そして、戦線離脱する彼らに渡した地図こそが、次の布石。


 その下準備にまわっているのは、モカとエクスナとシュラノの3人である。


「うまくいってるかなあ? ダンジョン造り」

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