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後始末――からの逃亡

「どうかなさいましたか? イオリ様」

 

 黙り込んでいた私を訝しんだカゲヤが問いかけてくる。


「あ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」

 そして私の口からは、勝手にそんな言葉が流れていた。

 え? なんで?


「戻ろっか」


 そして私の意思に関係なく、勝手に動く私の足。

 だからなにこれ?


 カゲヤとアルテナが後に続き、そのまま歩いているうちに、私はいつの間にかいつも通り自分の意思で足を進めていた。

 まるでムービーからロード時間無しでシームレスに通常画面に戻るみたいに。


 ――あー、これはアレだな。

 魔王様に爆発のことを聞く前、秘密保持の道具を使われたんだった。

 いかなる手段でも伝えられなくなるって言ってたからなあ。

 たとえ私が思いついたことを言わなかったとしても、あの場で私が小箱を手にしてあの場所を眺めていたら、カゲヤたちに何か考えさせるヒントを与えることに繋がったかも知れない。

 なるほど、こういうふうに制約が発生するのか。


 試しに、「この地図の場所に今すぐ一直線に向かおう」と口にしようとしてみる。

 ――その瞬間、私の喉も舌も口も、麻痺したように動かなくなった。


 どうやら、この件は私ひとりで考えるしかないようだった。


 

 林から出て、馬車を停めてある丘に戻ると、残っていた皆は一斉にこちらを見た。


「ひどいですよイオリ様! 急にあんな大声出して!」

 エクスナが詰め寄ってくる。


「ごめんごめん、やっぱこっちまで響いてた?」

「それはもう! 私なんて耳が良くて防御力低いですからね! 一番のダメージを受けましたよっ」

「ほんとごめんっ」

 両手を合わせて謝る。

「傷は? もう治療済み?」

「はい、鼓膜を損傷しましたが、シュラノが順に治してくれました」

 ……本格的に反省だな、これ。


「フリューネとターニャも?」

「あ、はい。シュラノはぼーっと来るのを待ってて、おふたりは躊躇ってて、と膠着状態だったんですけど、リョウバがうまいこと取り持ってくれました」

「そっか、よかった」

 回復とはいえ、魔族に術式をかけられるなんて、とか面倒な展開になってなくて安心する。


「あのー、何があったのか、聞いてもいいですか?」

 モカが不安そうな顔をしている。

「……その、まさかとは思うんですけど、空から光の柱が立つのが見えて、シュラノが『神が降臨した』なんて言ってまして……、まさか、ですよね?」

「あー、うん、それはねー」


「あの、それよりイオリ様、まずは着替えを――」

 フリューネも近づいてきて切迫した口調で言う。ちょっと顔も赤らんでいる。

 あ、そっか、服がボロボロだった。

 身体の傷が治ったから忘れてたけど、見た目は大破状態だった。

 いちおう、カゲヤが上着を貸してくれてるけどね。


 私は馬車に戻って着替えを済ませてから、みんなに林の中で起きたことを説明した。


「――というわけで、レベルは上がるようになったし、謎の小箱も手に入れて、林で暴れてたっていう獣も去っていきました」

 結果だけ見れば、上々じゃない?

 当初の目的をきちんと達成している。


 だというのに。


「……神が、2柱も、こんな何もない場所に、お出迎えもできず……」

 フリューネが沈痛な面差しで額に指先を当て、側に控えるアルテナとターニャは蒼白になり、

「見慣れない黄金の獣、謎の紙片、神獣の死骸……、報告したら、絶対に班長が大暴れする……最悪、単身でやって来る……」

 モカが両手で顔を覆い、

「神獣殺しは、何年ぶりだ?」

「およそ20年ぶりかと。単身での撃破となりますと、私の知る限りサーシャ様のみです」

 リョウバとカゲヤは小声で会話し、

「ステータスが高い方は起こす出来事も大規模ですねえ」

 エクスナが呆れ返っていた。


 うーむ。

 これは少々、やらかしていまったということだろうか。

 でも私のせいでは……、まあシアを呼んだのだけは私だけど……、その他は不可抗力ではないだろうか? ……ああ、レベル上げたいってゴネたのも私だな……


「ともあれ、目的を無事に完遂されたようで何よりです」

「そうだよね!」

 カゲヤのフォローに速攻で飛びついた。


「ただ、お話を伺った限り、この場はすぐに離れたほうがよろしいかと」

「え?」

 首をかしげる私。

 カゲヤは、シュラノに目を向けた。

「索敵を――」

「済ませた。3方向から、最も近いのが距離170。範囲優先のため人数は不明」

「……あまり時間はありませんね。この丘ではかなり遠くから目視されてしまいます。――リョウバ」

「ああ、手伝おう」

 そして男ふたりが率先して荷物を馬車に上げ始めた。


「まったく、生煮えです……」

 ぶつぶつ言いながら、エクスナも焚き火にかけていた大鍋に蓋をし、大切そうに馬車へ持っていく。


「え? どうしたの?」

「イオリ様」

 すっ、とフリューネが近づいてきた。

 ……なんだか美少女の笑顔が怖いんですけど。


「矮小な時間を生きる我々にとって、神々のご降臨は人生に一度あるかないか、という貴重な出来事なのでございます。先程の光は、周辺にある複数の村や街からも見えたことでしょう。……間違いなく今現在、宗教団体を始め、騎士団や自警団、一般市民も含め、こぞってこの地に駆けつけようとしていることに疑いの余地はありません」


 なるほど。


 近所に大人気の芸能人がロケで来たってネットに流れた、みたいな感じかな?

 ……いや、さすがに神様相手はニュアンスが違うか?

 でもその芸能人を神と崇める子たちだっているよね。


 ああ、大好きな洋楽バンドが最初で最後の来日公演とか的な?


「でも、もう帰っちゃったんだよね、神様」

「ええ、ですからこの場に残っていると、大勢に取り囲まれて何が起きたのか詮索されることになります。特に宗教団体については、規模によりますが私の立場もあまり通用しない可能性が高いかと。最悪の場合、拘束や尋問が――」


――撤収!

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