表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/277

メインストーリーのキーアイテム的な?

 金色の狼が示した場所に一歩踏み出すと、

「ワウッ」

 一声鳴いて、狼は祭壇から飛び出していった。

 そのまま、林の奥へと姿を消していく。


 仲間になりたそうにこちらを見ることはなかったか……。


 まだ耳の治療もしてなかったのに。まあ、元気そうな動きだったから、大丈夫かな?


 狼が前脚で叩いていた場所は、周囲より一際ぶ厚く瓦礫が積み重なっていた。

 ――ちょっと、不自然さを感じるぐらいに。

 こんな周囲より高さのある祭壇に、瓦礫が集まったりしないよね。


 上から順に、石のブロックや木の板などをどかしてゆく。

 親指と人差指だけで、重たそうな石ブロックをつまみ上げられる己の怪力に、いまさら驚いたりしつつ。

 虫とか這い出てきたらやだなあと危惧したものの、そんなイベントもなく瓦礫はどんどん層を減らしていく。


 そして、ほとんどの瓦礫をどかしたところに隠されていたのは、薄いオレンジ色の石で作られた小箱だった。

 彫刻などの飾りはないけど、滑らかな表面と綺麗な角処理などで、質の高い品だと知れた。

 ふわりと、香水のような匂いが漂う。

 どうやらこの小箱に、ごくごく薄っすらと染み込ませてあるようだ。

 私の嗅覚でも、瓦礫の下にあったままでは嗅ぎ取れなかったぐらいに密やかに。

 さすがに本物の狼には負けるということか。


 その香りには、どこか人をそわそわさせるような、浮き立たせるような、そんなニュアンスが込められている。

 思わずその箱を開けてしまいたくなるような。

 ――罠?

 と一瞬思ったものの、片手にちょっと余るぐらいの大きさでしかない小箱に罠がかけられていたとして、今の超頑丈な身体にダメージを与えるのは難しいだろう。


 私は、その小箱を軽く握りしめ、祭壇を降りてカゲヤたちの元へと戻った。


「――仕掛けの類はないかと」


 しばらく小箱を調べた後、カゲヤはそう言って私にその箱を返した。

 ……いや、毒とかだと効いちゃうかもしれないしね?


「じゃあ、開けてみるね」


 小箱は、指輪とか時計とかを入れる箱のように、真ん中ちょっと上から開くようになっていて、鍵や留め金はついていない。


 空気の抜けるような手応えを返しつつ蓋が開き、その中に入っていたのは、丸められてリボンで結ばれた紙だった。


「随分と質の良い植物紙ですね」

 とアルテナが言った。

 彼女は私がこの箱を探している間に気絶から覚め、耳を中心に負っていたダメージを自覚してすぐ治療に取り掛かったため、今はもう全快していた。

 ――悪かったと思ってます。


「そういえば魔王様たちは、すごく薄い石板みたいなの使ってたよね?」

「はい。魔族領土には紙に向く植物が少ないため、ああした石板の方がよく使われます」

 カゲヤも興味深そうに箱の中身を見ている。


「触ったら崩れたりしないかな、この紙」

 どれだけ年季の入った品なのかわからない。

「それは大丈夫かと。この箱ですが」アルテナがオレンジ色の石でできた容器を指す。「ステム石と言って、吸湿性が高く温度変化にも影響の少ない材質です。王城の図書室でも、特に希少な書物は似たような保管箱に収められていました。

「へえー」


 それなら、と躊躇なく箱からそれを取り出した。白いリボンを解き、丸められていた紙を伸ばし、さらに縦4つに折り畳まれていたので、それも開く。


 そこには、1つの地図と、1つの似顔絵と、1行の文章が書かれてあった。

 上半分に地図、下半分に似顔絵、そして似顔絵の下、用紙のほぼ端っこに文章が。


 似顔絵は、見たこともない男性だ。

 見た目は30代ぐらいだろうか。魔族だったら実年齢は違うかもしれないけど。

 写真みたいに、精確なタッチで描かれている。

 無表情で、身体はやや横を向いているけど視線だけはまっすぐ正面、つまり絵を見ている私に向けられていた。

 服装は、あの漁村にいた人たちよりは随分上等だけど、ラーナルト城で見た王族よりはだいぶランクが下がる感じ。金持ちの市民ってところかな?


 地図は、どこかの地域に縮尺を当てている。いくつか書かれた地名には覚えがないが、右下に海らしきものがあるので、おそらくこの大陸の南東だろう。これが湖とか大河とかの引っ掛けでなければだけど。

 一箇所には赤いインクで丸がつけられていた。


 そして文章は、

『千年王国の消滅を知る者へ』

 と書かれてあった。


「千年王国……?」

 私は首をかしげる。

「そんな名前の国、こっちにあるの?」

 アルテナに尋ねるが、彼女も戸惑ったように首を振った。

「たしかに、この大陸に人々が誕生した当時より、今も続いている大国が2つ、東の地域にございます。1200年か、1300年か、流石に両国とも確かな史実は残っていないため、互いに最古の国家を名乗り、また歴史の調査に莫大な予算を投じているとか」

「1300年かあ、じゃあ、人族の歴史自体もその辺りからなんだ」

「魔族領土もその点は同じです」

 とカゲヤが言った。

「つまり、神々がこの大陸に生命を造られたのが、およそ1300年前だということです」

「へえ……、それで、千年王国? 要するに千年続いたけど滅亡した国があるのかな?」

「そこが、分からないところなのです」

 アルテナが眉根を軽く寄せながら私の手にある紙を眺める。

「私の知る限りですが、そこまで長く繁栄した国が滅びたという歴史はございません」

「そうなんだ、じゃあ、こっちの地図と似顔絵は? なにか心当たりないかな」

「――地図は、大陸の南東ですね。それこそ先程申しました最古の2国もこのあたりに位置します。この印のついた場所自体には、特段なにかあったという記憶はございませんが……。こちらの肖像も、残念ながら素性の見当がつきません」

「申し訳ありません、私も同様です」

 アルテナもカゲヤも知らないか。


「まあ、そもそもこの紙が何を示しているかわからないしね……。宝の地図なのか、単なるいたずらなのか、もしくはこの似顔絵の人の住所だったとして、この人見つけたら何があるのかもわかんないし」

 ゲームなら確実にイベントの起きる場所なんだろうけど。

 でもこの場所自体だいぶ昔に滅んだ村だから、この人がまだ生きてるかっていうと怪しいところだ。


「もしもこの先、この近くに寄ることがあったらついでに、ぐらいでいいかな」

「承知しました」

 紙を小箱に戻し、周囲を見渡す。

 かつての村の跡地、祭壇、盗賊の死体、女神の眷属と戦った余波で焦げた地面、それしかない。

 そろそろ帰ろうかな、と思った私の脳内に、ふと閃くものがあった。


 もう一度周囲を見る。

 滅びた村。

 焦げた地面。

 瓦礫。


 ――まるで、何かが爆発したような。


 そして、紙に記された『千年王国』という言葉。


 ――我が人族に討伐されないまま、千年を迎えてしまうと爆発する。魔王とはそういう存在だ――


 ――地上の生命はすべて消し飛ぶ――


『千年王国の消滅を知る者へ』


 え、このアイテム、もしかしてすごく重要なやつ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ