久々のタイマンが神獣戦
熱を司る女神、レグナストライヴァが召喚した鳥は、優雅に空へ昇ったかと思うと、地上の私めがけて急降下してきた。
――早っ。
かなりスレスレで回避する。
鳥はU字を描くようにまた急浮上し、私が攻撃する隙を与えようとしない。
間合いが空いているうちに、鳥を観察する。
……言葉だけだとバードウォッチングだな。
赤白まだらの羽毛、爪は猛禽類みたいに何かを掴みやすいよう鉤形をしている、黄色いくちばしは長く鋭く、体高は1メートル弱、翼長は2メートル強。身体に対して、翼がやけに大きいように見える。
えーっと、たしか鳥って体重は軽いとか骨が弱いとか言うよね。鳥軟骨とか食べられるし手羽先の骨も折れるぐらいだし、あ、焼き鳥食べたいな、塩で。
私の思考が逸れたのを見計らったかのように、神鳥はまた急降下攻撃を行う。
ひとまず回避しようと身構えるこちらとの距離が詰まった一瞬、くちばしがカパッと開いた。
「――!!」
すかさず横へ跳躍する。
開かれた口から吐かれたのは、オレンジ色の火球。吐き出した瞬間は野球ボールぐらいのそれが、一瞬でサッカーボールぐらいまで膨れ上がり、私がいた地面に当たる。
ドジュウッ、と大地が焼け焦げた。
「おお、いい反応だな」
見物しているレグナストライヴァが楽しそうに言う。
鳥型モンスターが口からなんか吐くのは常識ですよ。
しかし、やり辛いな。
あちらは完全にヒットアンドアウェイを狙っている。
寸前で避けて捕まえようとすれば、あの火球で狙い撃ちにされるだろう。焦げた地面の範囲からして、かなり大きく避けないと余波を食らう。
くそう、鳥頭のくせに生意気な。
三たび攻撃を仕掛けてくる鳥に、
「なら、こうだっ」
跳躍し、正面からぶつかってみることにした。
飛べないけど、けっこう高く跳べるよ私は!
互いが、矢のように宙を切り裂いてあっという間に距離が詰まっていく。
「ギィッ!」
あ、そういう鳴き声なんだ。都内だとカラスとスズメとハトぐらいしか聞かないから、そういう強そうなのは新鮮。
神鳥は素早く身を翻し、急降下するために閉じていた翼を大きく広げた。
空中にホバリングし、私を迎え撃つ気か。
よし、火球のひとつやふたつ、弾き飛ばしてやる。
こちとら魔王の炎魔法だって防いだ身だ。
――と思ったのだが、神鳥の全身が、急速に光を放ち始めた。
尋常じゃないエネルギーを感じる。
あ、これヤバくね?
慌ててこっちも空中で姿勢を変える。両腕をクロスして顔面を庇い、両膝を丸め、できるだけ表面積を小さく。
鳥が放つ光はさらに強くなり、そして炸裂した。
――シュンッ
辺り一帯が、蒸発したような音を立てた。
「うわっちいいいぃっ!」
全身を焼かれ、悶えながら落下していく。
受け身を取る余裕もなく地面に激突した私は、ダメージの確認より先に急いで周囲を見る。
地面はぷすぷすと煙を上げ、樹々は焦げてところどころ炎をゆらめかせ、あの祭壇は石造りだから無事そうだけど、まわりの家々はさらにボロボロになっていた。
心臓がぎゅっと縮まる。
「アルテナ! カゲヤ!」
あとあの狼!
あんな威力の熱波、私がこれだけダメージ受けてる時点で、他の皆が耐えられるか――
「心配するな、周囲の生物には耐熱結界を施してある」
なんてデキる女神様!
「だから余所見をするな」
レグナストライヴァの言葉で、気配を察知できた。
「あぶなっ」
高速接近した神鳥のくちばしが、左腕を掠める。
「このっ」
すかさず右手で、逃げようとする鳥の片脚を掴み取った。
空へは逃さん!
が、
「――うそ」
神鳥は意に介さず、私もろとも空へと舞い戻った。
オカリナなんて吹いてないのに!
なら翼をもぎ取ってやろうと腕を伸ばす私に、神鳥が再び発光し始める。
連発できるのかよ!
――ジュウッ
さっきより近く、ほぼ熱源中心で食らってしまう。
熱い。
痛い。
苦しい。
――が、この手は離さない。
「ふっ」
神鳥の片脚を、全力で握りしめた。
ぐしゃり、と潰れる感触。
「ギュイィッ!」
神鳥がけたたましい悲鳴をあげる。
今度こそ翼を、と試みるが
「――ィイイァアアァッ」
悲鳴を上げながらも、くちばしをこちらに向けた神鳥は連続して火球を吐き出した。
「つうぅっ」
片腕でガードするも、思いの外強い衝撃に打たれ、高熱と相まって私の口からも悲鳴が漏れる。
だけど、その小柄な身体でこっちにくちばし向けたんなら、
「――ッ!?」
ガードを捨て、神鳥のくちばしを根元近くでがしっと掴んだ。
ドウッ、と強制的に閉じたくちばしの中で、火球が爆発する。
「――ィッ!!」
くちばしの間からか細い鳴き声が聞こえる。
息を吸う。
熱された空気が喉を焼くが、こらえる。
力を込める。
「ふうっ」
めきり、と神鳥のくちばしがひしゃげた。
片脚を掴んでいたほうの手は、既に離している。
その手で、拳を握り、
「筋力&耐久お化けを甘く見ないことだね」
神鳥の胴体に、深々と突き刺した。