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今思えば白嶺のエンカウント率は異常

「いるもんだね。駄目もとで聞いてみたんだけど」

 必要物資を買い込んでから馬車に戻った私たちは、荷物の整理を終えてからまた馬車を離れて街と逆方向へ向かっていた。


『丘陵の奥に林があって、その奥に建物の残骸があるんです。大昔の小さな村だったといいます。最近、そこに気性の荒い獣が住み着いてしまい、果物を採りに行った人が襲われる事件があって――』

 干物売りの見習い少年は、そう教えてくれた。


 メンバーはさっきのと変更し、私・カゲヤ・アルテナの3名である。

 戦闘がほぼ確定なのでカゲヤが今度は譲らず、障害物の多い林のために射撃担当のリョウバがアルテナと変わったかたちだ。

 本人の希望ではなく、

「領内の獣が暴れているなら、確認して排除するのも重要なことです」

 というフリューネの言によるもので、アルテナ自身は残してきたフリューネをだいぶ気にしている模様。

 なおエクスナはそもそも正面からの戦闘は不得手だし、買い込んだ食材で夕食の仕込みをしたいとかで辞退した。


「――失礼ながら、よろしいでしょうかイオリ様」

 フリューネもそうだけど、こうやって本題の前置きが必ずついてくるのがめんど――礼儀正しくて感心します。

 私もこんな作法をマスターしなければならないかと思うと、しんど――頑張らなくてはという気にさせられます。


「なに?」

「なぜ、進路を邪魔するわけでもない獣を退治に向かわれるのでしょう」

「んーと、ちょっとした実験のためかな」

「実験、ですか?」

「私は、厳密に言うと魔族でも人族でもないんだけど」

「それは、天上に住まう方と伺っておりますので」

「うん、だからね、ほらアルテナは魔獣や魔族を倒すと経験値が溜まってレベルアップできるでしょ」

「――あ、レベルですね、はい、その通りです」

 まだ聞いたばかりの概念だから理解に一瞬間が空くらしい。

「ちなみに普通はなんて言うの? そういう強くなることって」

「その、我々は単純に『討伐数』や『戦歴』などと呼んでおります」

「そうなんだ」

 さすがにそこまでゲーム寄りの世界じゃないから、一定の経験値でレベルがひとつ上がるってわけじゃない。

 経験値の総量がレベルであって、それは無段階に増えていく。あの測定器では1刻みのレベルを採用しているけど、厳密にはレベル1.1とか1.98みたいな感じで、後者の方がちょびっとだけ強い。


「――で、私は何度か魔獣を倒したんだけど、経験値稼いだ感覚がないから、じゃあ人族の領土にいる獣を倒したらどうなるかなって」

「なるほど。――それにしても、未だに信じられません。イオリ様がそれほどお強いとは……、あっ、もちろん疑念を持っているわけではなく、その、私の常識が邪魔をしておりまして……」

「あー、いいよいいよ、たしかに私、なんかの武術を修めてるってわけじゃないから。カゲヤもそんな睨まないの」

「失礼」

 アルテナに鋭い視線を向けていたカゲヤが謝る……んだけど、またなにかあれば即座に睨みそうだなあ。

 空気を和らげるためにエクスナかモカを連れてくればよかったかな?


「アルテナは、見た感じだと剣を使った近接戦が得意なの?」

 なんとなく沈黙が嫌だったので、話を振ってみる。

「そうですね、私は剣と回復術を用います。自己治癒力の強化や痛みの軽減などを行使しながら切り結べるので、同格相手までなら比較的勝率は高いかと」

「へえー。ならシュラノも魔術がすごいから、今度情報交換してみたら?」

「シュラノ――あの、寡黙な方ですよね。私はまだ一度もあの方が会話しているところを見たことがないのですが……」

 見通しのいい、舗装された道を歩いてたから索敵魔術は使ってなかったしなあ。

「んー、話しかければ答えてくれる……と思う。ごくたまにお喋りするモードになることがあるから、そのときがチャンスかも」

 例の素を出したシュラノなら、気さくに会話してくれるはず。


「――シュラノに、そんな一面があったのですか?」

 カゲヤが驚いていた。

「あ、聞いてなかった? たまにそうなるみたい」

 そういえばどういった条件であの顔が出るのか聞いてなかった。

「イオリ様は、部下との交流も見事にこなされるのですね」

「いや、そこまで言うほどでは……っていうか部下って認識はないからね。旅仲間だよ」

「イオリ様の寛大さは存じておりますが、バラン様も懸念されておりましたし、上位者の振る舞いは心得ておいたほうがよろしいかと。フリューネ姫のご指導は良い機会と思われます」

 うっ、忘れていたことを。


 林の中を歩いてしばらくすると、少年が言っていたかつての村の跡地が見えた。

 村、というか集落ぐらいの規模だ。

 腐って崩れた木造の家屋が数棟。石を敷いた道は草に覆われ、かつては畑だったのか、あたりの植生にそぐわない野菜だけが一箇所に絡まりながら繁栄していた。


 そして集落の一番奥に、それだけ木造ではなく白っぽい石でできた大きめの建物があった。

 ところどころ砕け、ひび割れ、蔦が伸びているけれど、まだ姿を保っている。


「祭壇みたいだね」

 左右に飾り柱の並ぶ階段、台形のシルエット、四方や上部に飾られた何かのオブジェ。いかにもかつて生贄を捧げたような趣のある場所だった。

「装飾からして、今のラーナルト王国に存在する様式には見当たりませんね。この地域にかつて存在した宗教の影響かと」

 アルテナが解説してくれる。

 この世界は神々が実在してるから、宗教もかなり熱が入っていると以前魔王に教えられた。しかも数が多いし、ひとりが複数の神を信仰し、複数の宗教に入信するのも普通なのだとか。


「――んで、あそこにいるよ」

 祭壇の頂上、ここからは見えない奥の方から、気配が感じ取れた。


 私が言うと、カゲヤは担いでいた槍を構え、アルテナも抜刀する。


 向こうもこちらの気配に感づいたのか、動きだす。


 ――すっごいテンプレな中ボス登場シーンだなと、内心で思う。

 これ、倒したら何かしらお宝をゲットして当然の流れだよね。太古のアーティファクトとか歴史に埋もれた知識とか。


 そして現れたのは、

「……おや?」

 狼のような外見で、鋭い牙と爪にライオン並みの体躯を誇り、鮮やかな黄金の毛並みをした――傷だらけで血まみれの獣だった。

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