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ほんとは城内の壺や宝箱を調べてみたかった

「本来であれば、王城正門より城下町大通りを抜けて頂く出立式を執り行いたいのですが――」


 ラーナルト王はそんなことを言っていた。

 が、正門にも城下町から外へ出る関門にも魔族を判定する道具が設置されており、それをオフにすることはできないということで、私たちは来たときと同じ抜け道を使った。

 パレードの主役側になんてなりたくないので、正直ほっとした。


「我々だけこちらを通り、イオリ様は民衆に讃えられながら地上を進んでもよかったのですよ」

「わかって言ってるよね、リョウバ?」


 こやつ、最近私をからかう頻度が上がっているような。


「でも大丈夫なんですか? お姫様ふたりがこっそり城から出ていくなんて」


 エクスナがフリューネに尋ねる。


「はい。病弱な姉に心労をかけぬよう内々で、私が付き添いながら療養のため王族専用の保養地へ向かうという噂を広めることになっております」

「なるほど。……ところでフリューネ姫ってこんな薄暗い地下道歩くのは平気なんですか? 気分悪くなるとか疲れるとか」

「ご心配ありがとうございます。幸いそこまで虚弱ではございません」


 楽しそうにフリューネは笑う。

 そして彼女の後ろを歩く2名は、お姫様に気安く話しかけているエクスナを心なしか微妙な表情で見ていた。


 フリューネが連れてきたふたりは、両方女性だった。

 護衛を務めるのがアルテナという名前。濃いグレーの髪で、額にサークレット、身体には軽鎧、腰に長剣を装備している。背は私より少し高いぐらいで、生真面目かつ涼し気な印象の美女だ。

 レベルはモカとシュラノの間ぐらいに見える。70~80ぐらい? カゲヤを除けば、今まで見た人族でトップだ。

 側仕えがターニャ。明るい茶色の髪を肩口で揃えた、穏やかそうな感じの女性である。カゲヤみたく強かったりするかな? と一瞬思ったけど、レベルは10いかないぐらいだった。

 ふたりとも二十代半ばというところか、できる大人の女性という雰囲気を放っている。

 ――就活、という呪いの言葉が脳裏をよぎり、ふと気が滅入る。



 抜け道から外に出た後、カゲヤが出入り口を入念にカモフラージュした。

 アルテナとターニャは、ちょっと驚いた顔で周囲を見ている。


「ふたりは、というかフリューネも、この道を使ったことはないの?」


 そう訊くと、フリューネが代表して答える。


「私は存在のみ知っておりました。ふたりには、昨晩私から伝えたばかりです。もちろん契約術式を刻みましたので、他言すれば心臓が潰れますからご安心ください」


 どこに安心する要素が?


「え、あの、精神的に言えなくなるとかそういう道具は?」

「……それはもしかして、伝説に謳われる呪物のことでしょうか?」

「え、そうなの?」

「古い書物にそんな記述がありますが……。あの、決して詮索するわけではないのですけれど、魔族の領土はそうした道具が普及しているのでしょうか?」

「過去に存在は確認しておりますが、我々にとってもほぼ伝説です」


 カゲヤが口を挟んだ。


「魔王様ならばお持ちかもしれませんが。あるいはイオリ様のように天上では珍しくもないのでしょう」


 ――昨日使ったばかりなのに、しれっと言うなあ。

 でも貴重品だってのは魔王も言ってたし、まるっきりの嘘ではない。


 というか、これは私の失言だった。

 あんまり魔族の情報を漏らさないほうがいいよね。


 抜け道のあった場所を後にし、昨日とは別方向に森を進む。

 フリューネたち3人の足取りも、特に遅れるようなことはなかった。


 森を抜けた先には、馬車が2台用意されていた。

 そう、今回は文字通りの馬車である。魔獣とかではなく地球と同じような馬がそれぞれ2頭、繋がれている。

 1台は黒毛、もう1台は白毛で揃えていた。間近で見るとかなり大きい。そしてきれいに梳かれた毛並みが濡れたように光り、筋肉の隆起がいかにも走力を示しているようだった。


 荷台もしっかりした造りで、外装は地味だけど中をのぞくと随分手がかかっているように見えた。

 こんな場所に馬ともども放置するなんて物騒だなと一瞬思ったものの、見渡せば離れた場所に兵士らしき数名が、こちらに敬礼しているのが見えた。

 普通の肉眼では顔も判別できないぐらいの距離だ。


「あまり、顔を合わせないほうが良いかと思いまして」

 とフリューネが言った。


「まだイオリ様をレイラお姉さまとお呼びしては、不自然に見えてしまいますから」

 ……そうだね、主に私の礼儀作法のせいでね。


 2台の馬車にどう分担して乗り込むかは、みんなで話し合った。


 ひとまず先頭馬車は御者をリョウバが、中にエクスナ、シュラノ、モカが入ることに。

 2台目の御者はカゲヤが努め、中に私とフリューネたち3名、ということになった。


「まずは南東へ進路をとる、ということでしたね」

 リョウバの声にうなずく。


 今いるラーナルト王国は、白嶺に接するほぼすべてを領地としている大国である。

 そこから南、大荒野に接するのは3国。いずれも最前線を張り続ける武力豊富な国ということだった。


 ――とはいうものの、大荒野を抜けた先に200頭以上で待ち構えているアルザードや、魔王にサーシャあたりの超級戦力を考えると、見た範囲での人族は明らかに劣勢といえる。


 魔王討伐に重要なのは、後方でやや緊張感のない国々への喝入れと補強――それが魔王やバランと話し合って決めた方向性だ。


「目指すは前線3国の東に接する大国、ローザスト王国ですか」

 リョウバがどこか楽しそうに言う。

「知ってる国なの?」

「戦場で見知った顔ならば、いくらか」

「……入国したらすぐバレない? ひょっとして」

「その点は大丈夫かと」


 にやりと笑い、リョウバは御者台に乗り込んだ。

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