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命名神、再臨

「シュラノは『俺』ね。今後一人称それでヨロシク」


 あっさりしたものである。


「『おれ』、か。妙な響きだな。……なんでこれなんだ?」

「間違いなくシュラノに一番似合うからだよ」

「へえ――礼を言っておくところか?」

「そんなのいいよ。シュラノの言葉を聞く、私の耳にそれが馴染むって理由もあるんだから」

「ふうん」

 シュラノは小さく「『おれ』、ね」とつぶやく。


「あ、あとシュラノたちに日本語の基礎レクチャーしたのってバランだよね?」

「ああ。教本も作ってくれたよ」

「うん、たぶんそれだと丁寧な言葉使いしか載ってないと思うから、今のシュラノの話し方を日本語にも適用しないとね。時間あるとき色々教えるよ」

「そりゃあ助かるが、いいのか? 俺が言うのもなんだが、本来は敬語を使うべきだろ」

「別にいいよ」

「そうか」

 

 それで話はついた。

 こっちのシュラノも話が早い。


「あ、ちなみに『俺』って、にほ――天上では男性が一番多く使う一人称だから、当面はシュラノ専用だけど、そのうち誰かと被っちゃうかも」


 なお、『日本語』は天上の一部領域でのみ使われる言語だと説明している。

 ……そのうちボロが出そうな気がしないでもない。

 私としては天上だろうと異世界だろうと大差ないでしょ、と思うのだけど、神々が実在することを前提に文化を築いたこの世界においては重要なのだと魔王様やバランが言っていたのだ。


「なるほど」とシュラノは頷いた。「そのときは、そいつと何らかの勝負で奪い合うってことだな」

「なぜそうなる」

「専用の方が気分いいだろ」

「……それはわかるけど」


 シリアルナンバーの刻印されたグッズとか好きだけど。唯一私が持ってるって感じがあって。

 そのナンバーと作品なりキャラなり私の個人情報なりとの関連付けを強引にでも見つける癖があったりするけど。


「だろ。だから俺以外の誰かに『俺』を与えようとするときは言ってくれよ」

「……わかった」


 なんだろう、あっさりしたやり取りで済んだと思ったけど、けっこう気に入ったのかな。


「――そろそろ戻ったほうがいいな。少しは寝るべきだし、カゲヤあたりが心配しそうだ」

「だね」


 そして私たちは、空中庭園から城内へ戻り、それぞれの部屋で眠りについた。




「それでは、どうぞよろしくお願い致します」

 翌朝、フリューネはまことに上品な笑みを浮かべ、それはそれは綺麗で優雅な一礼をしてみせた。


「あ、ええと、こちらこそよろしくお願いします」

 見とれていた私は、一瞬遅れて反応する。


 王様をはじめ王族一同は、けっきょくフリューネの提案を認めることにした。

 男性も含め化粧しているようだけどそれでもうっすら目の下のクマが見えたので、おそらく昨晩はあの後さらに王族内で話し合っていたのだろう。


 一方の私たちは、

「――イオリ様、いかが致しましょう」

「うん、いいと思うんだけど」

「承知しました」

 そんなカゲヤとの短い会話で、今朝のうちにフリューネの同行を受け入れることに決めていた。


「ところでまさかフリューネひとり? お姫様なんだから、お付きの人とか護衛とかいるんじゃない?」


 私がちょっと気になったのは、『城の外にもろくに出たことがない』という王様の言葉だった。

 まさに箱入りのお嬢様が、いきなり野宿ありの長旅に耐えられるとは思えない。


「ご心配くださり、ありがとうございます」

 彼女はまた優雅な笑みをみせた。

「許されるのであれば、2名の同行をお願いしたいと考えております」

「あ、それぐらいなら――」ちらりとカゲヤを見ると、心得たように頷いてくれる。「うん、大丈夫」

 大名行列とかにならないなら私的にはOKである。



「イオリ様、こちらをお持ちください」

 ラーナルト王が、なにやら小ぶりだけど豪奢な造りの箱を手にして近づいてきた。

 王自ら、ふたを開き中のビロードみたいな布を丁寧に解いていくと豪華なネックレスが現れる。

 独特な意匠だけど、宝石が散りばめられて見るからに高級品だ。


「ラーナルト王国の紋章を刻んでございます。この首飾りは王族しか持たぬため、それを知る他国の王族や官吏には有効かと。逆に申しますと平民から見れば単なる装飾品、蛇足ながら多少の金銭価値もございますので、富まぬ者の目に触れさせると無用な騒動が危ぶまれます。ご注意頂ければ」

 うん、こんな派手で高そうなもの普段から装備する気はありません。


「そしてイオリ様へ献上致します偽装身分は、ラーナルト王国第2王女、レイラリュートと申します。短名はレイラと」


 うおお、思い切り外国人ぽい名前だよ。

 今の顔はすこぶる美形で多少は彫りも深くなってはいるけど、それでもレイラを名乗るのはちょっと勇気がいるなあ。


「フリューネについては、死んだものと考えさせて頂きます。イオリ様方々のご迷惑になるようでしたら、いかようにも」


 いや、そんなことはしませんけども。


「フリューネ姫が無事に帰国できるように、努めますので」


 私が言うと、ラーナルト王は深々と礼をした。

 ここが城内奥の秘密の部屋だからいいんだけど、王様が頭を下げるってのはどうなんだろうね? そういえば魔王様もそんなことしてたけど。


「これからはレイラ姫とお呼びしたほうが?」

 リョウバがからかうように言ってくる。

「やめてやめて、超恥ずかしい、基本イオリでいいから!」


「あの――」フリューネがおずおずと口を開く。「私は事ある際には、お姉さまとお呼びさせて頂くことになりますが、よろしいのでしょうか?」


 くっ、純真な瞳で言ってくれるぜ。

 私があらぬ妄想しても知らんからな。

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