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シュラノの正体

「えーっと、シュラノの顔したあなたはどちらさま?」


 害意の類は感じられないが、警戒態勢をとる。

 この世界の魔術や恩寵については正直ろくに把握してないので、変身とか幻覚とかありそうなものを片っ端から洗い出していく。

 ……攻略本が欲しいな。魔術一覧とか。


 にっ、と男は無邪気な感じに笑った。


「一応、この状態を見るのは2度目のはずなんだけどな」

「へ?」

「魔王城から出発するとき、みんなそれぞれの知り合いと挨拶してただろ。覚えてるか?」


 記憶を探る。

 ……えーと、あのときは、


 ――カゲヤとサーシャ、モカとロゼルがそれぞれ不穏な会話をしていて、

 ――エクスナは見えないところに隠れてる暗部のヒトたちと話してて、

 ――シュラノは技術部門のヒトたちと和やかに喋ってて……


「シュラノが楽しそうに喋ってた!?」

 

 びっくりする。

 今思えばあり得ない。


 出発して魔族領土内を通って白嶺を突破してここまで来てと、その間、私はシュラノが楽しそうにしているところを見たことがなかった。


 必要なことは話すけど無駄口はないし、言葉にも表情にも抑揚はないし、でも索敵とか戦闘はしっかりこなしてくれて、なんだかもうそういう無関心クール系キャラなんだとばかり思ってて……。


「え? じゃあ単に私たちが嫌われてただけ? 仲いい相手とはあんな感じに喋るの!? うそ!」

 ショックだ。

 あの厳しい白嶺を共に進んでも打ち解けられなかったということは、この先もたぶん同じように――


「早まるなって」

 しかしシュラノ(疑) は楽しそうに笑った。


「言っただろ、2度目だって。白嶺行軍中はずっとあの状態だったからな」

「……んーと? 状態? ……もしかして2重人格かなにか?」


 魔族の場合、人格をなんていうんだろう? 魔格? なんか変だな。

 まあこの世界の言語だとひとつの単語なので、脳内で日本語から翻訳しつつ喋っている私だけの違和感なのだけど。


「似たようなもんか。普段は魔術の行使と祈りに特化した機能だけ残して、この状態の精神は眠ってるんでな」

「機能? えーと、なんだろ……、うん、あ、そういう感じ? 普段っていうか、今まで見てたシュラノは……魔術を使う疑似人格というか、歩く魔道具というか、そんな状態だったってこと?」

「……伝わると思わなかったな」


 シュラノは目を丸くした。


「あ、合ってた。じゃあ今のシュラノが本体っていうか、本性ってことでいいんだよね? 普段寝てる――ってことは、あれ、記憶はどうなってるの?」


 今度は目を細めて私を見てくる。


「っつうか、理解が早すぎる。もしかして天上ではよくあるものなのか?」


 天上というか、まあ、キャラ設定としてはメジャーな方だね。


 えーと、

 例えば、


 ――仙◯忍はストレートな多重人格だし、写◯保介とかのが近いかな? 羽◯翼は溜まったストレスの具現だから、シュラノはどっちかというと逆? フ◯イとイ◯? あ、これ伏せ字だと全然わかんないな。うんゼノ◯アスの彼ね。あーでも魔術特化ってことはいわゆるオートモードとかバーサク化の亜種って方が正しいのかも。


「……記憶は、夢で見てるような感じだな。だいたいは覚えてる。……ああ、驚いたよ。滅茶苦茶なステータスだとは知ってたけど、実際発揮するとああいう風になるんだな」


 シュラノはうんうんと頷きながら記憶を反芻しているようだ。


「いや、私はわりと気ままに動き回ってただけで、それこそシュラノのほうがずっと役立ってたと思うんだけど……。でもなんでそんなことしてるの? 消耗が激しいとか? それともあの高性能な索敵魔術の条件とか?」


「面倒だから」


 と、シュラノはあっさり言い放った。


「……へ?」

「魔術を研究したり、行使したり、鍛えたりするのは好きだけどな……魔術の性能向上には祈りが重要だってのは言うまでもないよな?」


 言うまでもあります。

 ……そういえば魔王がそんな説明してたっけ?


「で、その祈りってのが性に合わん。だから自動的に、半永久的に神々へ祈りを捧げる仮想精神を術式で組み上げた。ついでに身体の操作や外部刺激への反応や他者との簡単な応答までできるように改善してきた」


 すごいことを言っている気がする。


「そのうち日常の活動は仮想精神に任せられるようになったから、私は内側で半分眠りについて、魔術の研究や瞑想に耽っている」

「はいストップ」

「ん?」


 ……いや、私さ、高性能な頭脳をもらったのはいいけど、根っこの魂が魂だから、こっちの言語をそのまま理解はできないんだよね。なので自分が喋るときもそうだし、もちろん聞いたときもなかば自動的にだけど1回日本語翻訳かましてるの。

 英語が得意な人はappleと聞いて赤い果実をそのまま連想するっていうけど、私はappleからまずリンゴに翻訳して、その後に果物が脳裏に浮かぶ、みたいな。

 そしてこの世界では一人称が男女それぞれ1つずつしかないので、基本的に『私』に変換しちゃうんだよね。それこそ特定の相手と人称を紐づけて脳裏に刻まない限り。


 だけど今のシュラノの口調に『私』は、すっごく似合わない。違和感が激しい。


 ここはもうアレでしょ。


 魔王の『我』、バランの『わたくし』、サーシャの『サーシャ』に続いて、差し上げるべきでしょう。


「ねえシュラノ、日本語は勉強できてる?」

「ん、ああ。こっちの、今の私が魔術研究の合間に――」

「シュラノ、白嶺ですごく頑張ってくれたよね!」

「……急になんだよ、イオリ様」

「シュラノに、専用の一人称をあげようと思って」

「一人称って……あれか、日本語の『わたし』は種類があるんだったな」

「そういうことだね」


 ま、この口調じゃ何にするか悩むこともないよね。

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