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プレゼンと交渉

 レベル測定器については、モカが主体となって説明をしてくれた。

 ……カゲヤに達者なセールストークができるわけもなく(本人が全力で辞退した)、私はこの世界の常識に疎いため迂闊なことを口にする恐れがあるということで、技術屋のモカが機能をしっかり説明するのがいい、ということになったのだ。


 この国の最高権力者なんだし、メリットや宣伝方法は向こうが勝手に考えてくれるだろう。


「――技術的に量産可能かという点は、正直申し上げて我々だけでは判断できませんが……」

 国王はそう言いつつも、さっきまでより目の光を強めていた。

「是非とも、我が国より他国へ広めさせて頂きたい。この概念は素晴らしい。兵の登用、軍の運用、訓練基準、派兵選定――あらゆる点に浸透させる価値があります。これをラーナルトが発明したという立場を頂けるのは幸甚至極というものです」


「ご注意頂きたいのですが」

 議題がスムーズに進んでも、カゲヤは普段と変わらぬ陰気な物腰のままである。

「最優先事項は人族全土への普及です。一部技術の隠匿やいたずらな利潤獲得などは妨害行為と捉えさせて頂きます」

「重々承知しております」

 ラーナルト王は深々と頷いた。

「利益など乗せずとも、これの普及に伴って我が国の立場、影響力は相当に増大するでしょう。加えて、他国へ広まる間にも国内ではこの概念の利用法を一歩先に研究することができます。――その程度はお許し頂けるのでしょう?」

「はい。我々の側でも引き続き改善・研究は行っておりますので、互いの進捗を共有することも考えております」


 ラーナルト王は満足そうに笑みを深めた。……なんというか、怒らせたくないとかじゃなく、この笑顔のままでいて欲しいなっていう感想が自然と湧いてくる。これが王の威厳とか人徳とかいうものなのだろうか。


「せっかくですから、皆さん試してみませんか?」

 話が落ち着いたようなので、私はそう持ちかけた。

 見る限り、ここにいる王族たち7名は高くてもレベル20ぐらい。念のため私の感覚と同じぐらいの数字になるのかどうか試しておきたかった。


 なお王様やお姫様相手という緊張感は、とっくにこの身体が治めてくれている。


 隣でモカがほっとしている気配が伝わってきたので、彼女も同じようなことを言い出したかったのかもしれない。

 人族としてはカゲヤとエクスナで確認済みとはいえ、あのふたりは色々と平均からズレてるしね。


「喜んで。――実を申しますとすぐにでも試してみたかったのです」

 答えたのは、王の右に座っている男性だった。

 紹介時に名乗ったのは、レンギという名前だったかな。王族の長男――つまりは第一王子だ。背の高い美形で、いかにも育ちが良さそう。見渡す限り、王族内では1番レベルが高い。


 さっそくモカが皆で囲んでいる大テーブルから別の小卓に置き場を移し、器具の調整を行った。


 持ってきたレベル測定器は、なんというか、小ぶりな地球儀みたいなかたちをしている。

 違うのは球体が真っ黒で地図など書かれていないことと、土台にアナログ体重計みたいな目盛りがついていること、それに1本のケーブルが伸びていることだろうか。

 ケーブルの先端には、体温計の先みたいな銀の棒がついている。


 以前に軍の人たちも混じえて測った時の型より、さらに進化している。既に4代目のレベル測定器であった。


「この導管の先端についた棒を、胸に押し当ててください。そしてこの球に片手をあて、ゆっくり呼吸しながら10数えるまで目を閉じ、体内の魔力――ラーナルトでは『大いなる神の恵み』でしたか――それが循環するのをただ感じてください」


 言われるままに王子が測定を行い、モカが目盛りを測る。


「――レンギ第一王子は、レベル23ですね」


「……私だけでは、高いのか低いのかわかりませんね」

 目を開け、やや緊張していた表情を和らげながら王子は他の王族に視線を向けた。


「ふむ、皆で測ってみようか」

 王の言葉で、ひとりずつ席を立って計測をはじめる。銀の棒は素肌に当てる必要があり、女性もいるので衝立が用意された。


 ――結果、王様がレベル17、第二王子が19、他の人たちは10以下だった。

 一番低いのは、年齢も一番下の姫様だ。初のレベル1。本人も魔族や魔獣を倒したことはないとのことで、測定器の正確さを裏付けることになった。


「男性の方々の方がレベルが高めですね」

 と私が言うと、

「王位継承順位が高い者は早めに戦場へ立つのですよ。若い頃にある程度の武功を積んでおかないと、王になった後苦労することが多いですからな」

 と王様は答えた。


「……ちなみに、皆様はどのぐらいのレベルなのですか?」

 最初に計測をした第一王子がそう質問した。


 うーん、答えていいのかな?

 向こうは戦争に参加しない王族だけど、こっちには現役の兵士であるリョウバとかいるしなあ。


 そう悩んでいるとカゲヤが回答してくれた。

「イオリ様は当然ながら戦闘のご経験がないためレベル1です。先日、軍の第一線にあたる数十名で計測を行いましたが、平均が30というところでした。このなかですと、こちらにいるリョウバが唯一の軍属で、平均よりは上でしたが」


 ……うん、嘘はいってないね。


「なるほど」

 笑みを深めて王がうなずいた。

 ……内心で色々考えてそうで怖いな。


「――さて、レベル計測器についてはひとまず以上でよろしいでしょうか」

「はい。実に良い器具かと」

 カゲヤの問いに王が答えた。

「ありがとうございます。では次の議題ですが、イオリ様がこれから行う視察について――できましたらラーナルトより便宜をはかって頂ければというお願いごとになります」


 当事者としては、なかなかに気恥ずかしいお願いだな。もっとこう、「観光させてもらうからよろしくね」ぐらいの軽いノリでいけないものだろうか。

 

「もちろん、できる限り協力させて頂きます」

 王は真面目な表情で言う。

「――まず、イオリ様には我が国の王女という仮のご身分を用意させて頂ければと」


 ……王女?

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